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薫との結婚を拒否する大君は、ついに妹の中の君を無理やり身代わりにするという強硬策に。まんまとしてやられた薫はプライドズタズタ。しかし彼女を諦める事はできません。悟りの道が一転、恋の泥沼にハマりつつありました。
薫がそんな苦汁をなめているとは知らない匂宮は、宇治の方はいったいどうなっているのか、そろそろどうにかしてくれよと、薫をせっつきます。
薫は「自分が全然うまくいってないのに、宮のお世話どころじゃないよ」とは思いつつも、宮が中の君とくっついてくれれば、自然、僕は大君と……という思惑があるので、いつもより詳しく宇治のことを話し、具体的な提案をします。
前回は大君にしてやられ、中の君相手に一方通行のおしゃべりをして終わりという残念な結果でしたが、それでも一つだけいいことがありました。
中の君の姿を覗き見て、彼女が可憐な美貌の持ち主とはわかっていたものの、直に接したことがなかったので、人柄がいまいち掴みきれなかった。ところが、無事(?)に一晩過ごしたおかげで、こちらもどこに出しても恥ずかしくない姫君だということが判明。宮のお相手としても不足はなし、と踏んだのです。
宮は薫がわざと宇治に案内しないものだと思い込み「独り占めなんて心が狭い。オレがこんなに夢中になった女が今までいるか?」と、しまいにはキレ気味になる始末。
「宮のいつもの浮気グセで、あちらが悲しい思いをしてはお気の毒です。結婚に乗り気でないご様子ですから、僕も苦労しますよ」と、薫は釘を差しながらも、宇治行きの手はずを細かく打ち合わせします。
秋のお彼岸の最終日、カレンダー的にも吉日のため、薫は宮との宇治行き計画を実行に移しました。匂宮の放蕩ぶりは母君の明石中宮にも知れており「軽々しいことはダメ」ときつく叱られているので、今度のことがバレたらどうなるか、想像するだけでも大変。しかし本気の宮を止めることも出来ず、薫は苦心して京脱出を図ります。匂宮のこういうところは源氏にそっくりです。
まずは薫だけが山荘へ行き、匂宮は近くの薫の荘園の管理人のところで待機。宇治川の向こう岸には夕霧の立派な別荘がありますが、舟を借りてわざわざ渡るのも目立つし、今回ばかりはやむを得ません。幸い、気づく者はいなさそうです。
久々に薫がやってきたというので、姉妹は困惑。大君は「あれだけ妹をよろしくと頼んだのだから、きっと……」と思い、中の君は「薫の君はお姉さまがお好きなんだもの。私の所にいらしたんじゃないわ」。お互いに薫の目当ては自分じゃない、と思い込みます。
しかし前回のことがあるので、おっとりした性格の中の君も、今までのように姉に全幅の信頼をおかず、気を引き締めていました。
さて、女房を介しての挨拶が一段落したところで、薫は「大君に最後に一言、直接お話したいことがあります。その後で、中の君のところへ案内して下さい」。弁がそれを大君に伝えると「ああ、やっとわかって下さった。妹の方へ行ってくださるのね!」。それでも用心深い大君は、入ってこられないように襖障子に錠を差してから、薫のいる廂の方へ寄っていきました。
ふたりきりで話すのは久しぶり。「襖ごしに、女房に聞こえるような大声を張り上げるのはみっともないので、少しここを開けてくれませんか」と薫は言いますが、大君は「このままでもよく聞こえましてよ」。
それにしても挨拶とはなんだろう?真面目な方だから、これから妹のところへ通うのにも一言ということだろうか?ここはとにかく早く済ませて、中の君のところへ行ってもらおう……。
そう思い、戸口のそばまで寄っていったその瞬間、薫の手は隙間からこぼれた彼女の袖をすばやく掴みます。鍵までかけたのに、あんまり意味なし!
今度は薫にしてやられた格好になった大君は「ひどい方!この人の言うことをどうして聞いたりしたのかしら」と後悔。それでも気を取り直して
「このようなお心とは知りませんでしたわ。お願いですから早く妹のところへお出で下さい。私と妹は別々の身体でも心は一つ。どうか私と同じとお思いになって……」。
薫を中の君のところへ行かせたい一心で懇願する彼女の姿に、ついに薫は真実を打ち明けます。
「宮がどうしてもと仰るので、お断りすることも出来ずにお連れしました。こちらのお利口さんな弁あたりが、今頃は中の君のところへ……。それにしても、あなたには嫌われ、中の君は宮に奪われて、悲しいピエロなのは僕ですよ」。
そう、実はこの直前に、隙を見て薫がこっそり宮を山荘に迎えに行き、薫が大君へ挨拶に向かったタイミングで、宮が薫のフリをして弁のところへ。
てっきり、薫が挨拶から戻ってきたものと勘違いした弁は、入れ替わっているとも知らず、そのまま中の君のところへ宮を案内していたのです。扇を鳴らす合図なども薫が事前に教えていたため、弁はなんの疑いも持たなかったのでした。
大君はショックのあまり目が眩みそうになります。
今まで真面目だとばかり思っていた薫が、いきなり匂宮を妹のところへ引き入れ、だまし討ちのように無理やり関係を結ばせるなんて!妹を幸せにしたいと思えばこそ、遊び人で有名な匂宮とでなく、薫との結婚を望んでいたのに……。大君は目の前が真っ暗になり、激しい怒りと後悔に苛まれます。
「こんな恐ろしい企てをなさる方とも思わずに、今まで疑いもなくご信頼していたことが情けない。わたし達を馬鹿にして、こんなひどい事を!」
「今はもう何を言っても仕方がありません。お詫びは何度でも申し上げます。それで足りなければ、つねるでもひっかくでもして下さい。……宮のお目当てはずっと中の君、僕が思い続けているのはあなただけ。それなのに、いつまでたっても想いがかなわない我が身が情けない。
どうかこれも運命だと諦めてください。いくら鍵をかけたところで、誰も僕らが清い中だなんて思わないでしょう。宮だって、僕が今頃こんな風にしているなんて思いもしないはずです」。
自分の言葉に興奮した薫は、本当に障子を引き破って入ってきそうです。大君は危険を感じますが、薫を言いなだめようとがんばります。
「運命、運命と仰るけれど、あなたの言う運命というものは一体どういうものなのか、私の目には見えません!悪い夢でも見ているようで、後先もわからず、ただただ涙で目が曇るばかりですわ。きっとこんな出来事が、男に騙された愚かな姉妹の話として、後世に伝えられ、嘲笑われるのでしょうね!
本当にどうして、こんな浅ましい計画をなさったの。もうこれ以上、わたし達を苦しめないで。ああ、もう気が変になりそう……。苦しくてたまらないので少し休みたいのです。手をお放し下さい」。
悲痛な声で訴える大君。彼女の言うことはもっともだけに、薫は気勢をそがれて彼女の裾を掴んだ手を放します。「このままでいいですから、僕を置いていかないで」。
開放された大君も、その言葉を背に奥に引っ込みますが、完全に下がってしまわずに留まります。ふたりの間には、いざとなれば簡単に破れる襖障子と微妙な距離だけが残され、宇治川の激しい川音が無情に響きわたります。
結局「僕は大君と、宮は中の君と結ばれればどちらもwin-win」という、あまりにも浅はかな薫の計画は遂行されたものの、首尾よく行ったのは宮の方だけで、自分は単に大君の怒りと失望を買っただけ、という残念な結果に終わりました。それでイケると思ったのか、君は。
若いのに落ち着いていて真面目、誠実、思慮深いとされてきた薫。彼は大君への愛を貫くため、妹を差し出されても手を出さなかった。そこまでは良かったのです。でも、今回の計画は浅慮かつ卑怯としか言いようがなく「こいつ本当に思慮深いのか?」としか言えません。
匂宮を連れてきて、自分と中の君の結婚の可能性をつぶし、大君には「僕と一緒になるしかないよ!」という作戦なんだから、ここまで来たら大君から恨まれるのは承知の上で腹をくくり、目をつぶって襖障子を破らなきゃ意味がなかったはず。それなのになんて中途半端なんだ!ああ、イライラする。
源氏も、柏木も、夕霧もそれぞれゲスなところのある残念な男でしたが、薫のこのヘタレぶりは別格です。いや「一緒に月や花を眺められたらいい」だの「君の気持ちを大事にしたい」だの、言うことが立派な割に結果が伴わない感じは、意識高い系のクズと言うべきか。
それもこれも、出生の疑惑という自分自身の存在に対する不安さを抱えてきた人生ゆえなのか。この辺から薫に対し「結局、君はどうしたいのよ?」といいたくなるシーンが増えていきます。
簡単なあらすじや相関図はこちらのサイトが参考になります。
3分で読む源氏物語 http://genji.choice8989.info/index.html
源氏物語の世界 再編集版 http://www.genji-monogatari.net/
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