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今回はWorldaffairs/中島さんのブログ『田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ』からご寄稿いただきました。
当記事を覗いていただき、ありがとうございます。
本日は、前回*1 に引き続き、最近のロシアの社会問題について、環境問題と言論統制の観点から話していこうと思います。
「プーチン演説が映し出すロシア国内の実情について(1) ~国内経済、少子化問題、ゴミ山問題~」2019年3月4日
https://worldaffairs.hateblo.jp/entry/2019/03/04/202054
黒い雪問題
19年2月、シベリアのケメロヴォ州クズバスという地域で街が黒い雪で覆われるという問題が発生し、多くの住民がSNSを通じて地元行政に対策を訴えました。
(SNSに投稿された写真の一例: ニュースサイトPOLITEKAより)
ケメロヴォ州検察当局などの原因調査によると、地元の精錬企業が排出する化学物質が積雪の表面上を覆ったことが要因のようです。
同地域は鉱物が豊富なシベリアの典型的な工業都市であり、鉱物を燃焼する過程でガスの代わりに石炭を利用する工場も多いため、副産物の化学物質が煙突から排出されたようです。
ただし、黒い雪については特に珍しい現象でもなく、他例ではカザフスタンなどの工業都市でも同様の現象はよく発生しています。
(クズバスの黒い雪の現象を「毎年のこと」と特に驚く様子もない、SNSの反応。)
ただし、この問題は氷山の一角で、ロシアでは様々な工業都市で住民たちによる公害の訴えが頻発しています。
バシコルトスタンのスモッグ・異臭問題
ロシアのバシコルトスタン共和国、シバイという都市では18年秋からスモッグが大量発生し、緊急事態宣言が発令されました。同市は鉱石の産地で、鉱山から排出される硫黄が市街地まで到達し、激臭やスモッグで健康被害を訴える住民が増加、マスク着用などの対策に負われました。
(18年12月のシバイの住民の様子。BASH.newsより)
(同市付近の鉱山。ここから有毒ガスが排出される: gorobzor.ruより)
(BBCロシア語版より)
19年に入り、シバイの住民らは活動家たちを中心に3月や4月に向けてデモを多数企画、しかし、市はデモ申請を相次いで却下しています。
下写真はデモ禁止を受けて、街に集合する住民たちです。類似した画像がSNS上で活発的に拡散されています。
(proufu.ruより。集会の様子を映す同様の画像が多くの人によってSNS上で投稿されている)
バシコルトスタンの同事案は局所的な問題であり、モスクワなどの大都市の一般人は現状では問題意識が低いかもしれません。ですが、ロシアはシベリアなどに多くの同様の工業都市を抱え、こうした公害問題も上記”黒い雪”のように珍しい事件ではありません。今後はSNSを通じて情報を共有する人たちの不満の度合が増幅する可能性があります。
ロシアの国会では、インターネットの規制を強化する法案が3月に可決されました。メディアによる偽情報(フェイクニュース)拡散を処罰する法案と政府や国家機関に対する侮辱的な発言を禁止する法案です。
当初は18年に上院議員のアンドレイ・クリシャス氏が同2法案を立案しましたが、国会内部から「内容が厳しすぎる」との批判を受けて修正されました。
修正法案は原法案より厳格度が緩和されましたが(例えば、「政府の品位を貶めた」とみなされる発言の酷さの下限を引き上げるなど)、フェイクニュース流布への罰則金が10倍以上に引き上げられました。
法案では物流などの社会インフラをマヒさせたり、人命を奪う原因となったりするフェイクニュースに対する処罰を詳細に定めており、政権側がSNSがつくり出す脅威を座視できない状況が伝わってきます。
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(アンドレイ・クリシャス上院議員: MKRUより)
反インターネット規制デモ
インターネットの自由度を大きく制限する法案も同時進行で審議されています。発案者の一人が上記のクリシャス氏。
世界のインターネット空間からロシア全土の情報空間を緊急に切り離す必要性が生じた場合でも、ロシア国内では安全にインターネットが利用できるようにするという内容のもので、表向きは”西側からのサイバー攻撃に備えるため”としています。
ところが同時に、こうした非常事態が発生した場合、インターネットを管理するのは国家機関(ロシア連邦通信局)と規定しています。
将来的には、中国のように政権に不都合な情報を国家が完全にシャットダウンしてしまう方向に流れていく、として国内外から激しく批判されています。
上記のような局地的に発生している環境汚染問題も、政府の恣意的な判断で将来的には情報発信の芽が潰されることが頻発するかもしれません。
19年3月11日、人権の縮小を危惧するモスクワ市民らが反インターネット規制デモを展開しました。
(モスクワ・サハロフ大通りのデモ:BBCロシア語版)
同日、モスクワ以外でも同様の反対運動がペテルブルグ、ハバロフスク、シベリア諸都市で起こりました。このうち、モスクワでは少なくとも8人が拘束された模様です。
(ヴォロネジの集会:MKRUより)
エホバの証人への拷問
17年4月にロシアでは、キリスト教系の新興宗教「エホバの証人」が”過激主義組織”と認定され、布教活動が禁止されました。
ロシアではイスラム教徒の多い南部を中心に、イスラム諸国の過激主義思想に染まりやすい若者が後を絶たず、特殊任務機動隊によるアジト捜査・逮捕が相次いでいます。(※ISが興隆していた時期は、IS関連のニュースが報道される度に各種報道機関は「ロシアで活動が禁止されている組織」と枕詞のように毎回付言していました。)
さて、19年2月にシベリアの古都市スルグトで「エホバの証人」の一斉摘発が行われました。
BBCロシア版によると、教団側と弁護士が証言する内容として、少なくとも7人の信者が連行された後、検察当局の建物内で全裸にされ、ガムテームで両手を背中の方に巻きつけられたうえで首を絞められたり、殴打されたりしました。さらに、全身に水を浴びせられ、電気ショックを与えられたとのことです。
(尋問の際、拷問を受けたとインタビューで答える信者の男性。JW RUSSIA VIDEOより)
現在のところ、事件の事実関係は担当弁護士の証言のみにとどまっていますが、19年2月にも同教団に属する46歳のデンマーク人男性がオリョール州で6年の禁固刑判決を受けました。「”過激主義活動”に加担していた」のが判決理由でした。
モルモン教宣教師の逮捕
末日聖徒イエスキリスト教会(通称モルモン教)はアメリカで始まったキリスト教系新興宗教です。ユタ州に本部を持ち、若い男女の宣教師たちが世界各国にある支部を拠点にして布教し回っています。日本でも、布教の足掛かりにボランティアで英語教室を開催したりしています。
さて、ノヴォロシースク(クラスノダール州)で19年3月、アメリカ国籍を持つ2人の男性が警察に拘束されました。コメルサント紙によると、2人は入国理由を「宗教活動」としてロシアに入国しましたが、「教員免許を不所持のまま英語を教授していた」として、ロシア人の他の信者らと教会で交流していたところを身柄を拘束されたとのことです。
地方裁判所は2人を有罪と認め、強制送還の準備に入っているとのことですが、2人は「ただ英語で交流していただけで、英語教育は行っていない」と容疑を否認しています。
ロシアにおける宗教活動に関する法律は、公の秩序を乱したり、過激な思想を植え込んだりするような布教の仕方を禁止しています(良心の自由と宗教活動の統一に関する法律)。
ですが、法律の内容が抽象的で、どの範囲までが”公の秩序を乱す布教”で、”過激な思想”であるかは明確ではありません。判断については警察権力の裁量が大きいと言わざるをえないでしょう。
リベラル思想の流入を恐れるプーチン
近年、米大統領選のロシア疑惑やマケドニアEU加盟問題、EU諸国の各選挙等の政治・外交決定プロセスでロシアが介入してくる干渉行為は、欧米諸国の情報機関内で既に大きな脅威として認識されています。
もしこれらにプーチン大統領自身が深く関与しているとするならば、その裏返しとして、欧米によるロシアへの干渉を相当恐れているはずです。
ソ連崩壊後のエリツィン政権の失策は経済危機の他、国有財産の海外への散逸と地方共和国(チェチェン、タタールスタン)の独立機運の高揚を招来してしまいました。プーチン大統領は同氏の背中を見ながら政治家としての出世街道を歩いてきたので、その反動として保守主義的な政治思想に傾倒していくのも自然な流れでしょう。
こんなエピソードがあります。プーチン政権下で「同性愛宣伝禁止法」という法律が成立しました。ある国際会議で、同性愛に理解のある西欧のジャーナリストがプーチン大統領に人権縮小を懸念する質問を投げかけたとき、同氏は「内政干渉しないでいただきたい」と一蹴しました。
プーチン政権が継続する間は、今後ロシア文化圏への欧米由来の影響を排除する政策が次々と繰り出されていくものと思われます。その発端が既に、欧米系宗教の排除に見られています。支持率低下が顕著な今般では、ますますこうした国家管理が強化されていくのではないでしょうか。
(※当記事の内容は2019年3月時点の情報となります。情勢変化にご注意ください。)
「プーチン演説が映し出すロシア国内の実情について(1) ~国内経済、少子化問題、ゴミ山問題~」2019年3月4日
https://worldaffairs.hateblo.jp/entry/2019/03/04/202054
執筆: この記事はWorldaffairs/中島さんのブログ『田舎者がロシアと国際情勢をあれこれ考えるブログ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2019年3月29日時点のものです。