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どうもどうも、特殊犯罪アナリスト&裏社会ライターの丸野裕行です。
ピエール瀧容疑者が東京地検に身柄送検されて、10日以上が経ちました。
彼は、今頃拘置所の中で何を考え、どんな思いでいるのでしょうか?
彼が逮捕された麻薬取締法違反に含まれるコカインは、中枢神経系を刺激して興奮を促す薬物です。
なぜ彼が、20代の頃からこの薬物に溺れてしまったのか……。
今回は3年前に逮捕されたのち、現在は更生して介護関係の会社を経営している元コカイン中毒者のAさん(46歳)に、「なぜコカインの虜になってしまうのか」のお話を聞くことができました。
丸野(以下、丸)「Aさんは、なぜコカインに手を出してしまったんですか?」
Aさん「そうですね、クラブ遊びが好きで、ハッパ(大麻)はよく使っていたんですけど、それ以上の薬物が欲しいと思うようになってしまったんですよね。知っているDJがチャーリー(コカイン)を使っていたので、分けてもらいました。そのときは、僕もイベント運営会社をやっていたので、羽振りも良かったんです」
丸「やはり音楽関係者に蔓延しているということですか。コカインというのは高いんですか?」
Aさん「高いんですよ、他の薬物に比べるとね。1グラムで2万はくだらない。しかも、(利益を)乗せてくる連中も多いですし。会社をやっていなかったら、まず嗅がない(※使用しない) と思いますよ」
丸「僕はやったことがないのでわからないんですけど、どんな感じになるんですか?」
Aさん「まず、スニフ(鼻から吸う)するんですが、鼻の粘膜がしびれるような感覚に襲われます。そのあとは血圧が急激に上がり、心臓がドキドキ、バクバクします。瞳孔も開いて、交感神経が興奮状態になるわけです。一気にハイになって、自分の力が無限に引き出されるような気持ちになるんです。これはアルコールの比じゃありませんね」
丸「気が大きくなるというか」
Aさん「そうです。2~3分経ってくると、とんでもない多幸感に包まれます。もうねぇ超絶幸せなんですよ。でも、その効き目も30分くらいしかありません。だから、どんどんと量が増えて、あっという間に中毒者に成り下がりますね」
丸「量が増えていく、とおっしゃられましたが、どのくらいの量に?」
Aさん「そうですね、初めはクラブに遊びに行ったときに使うだけだったんです。耳への音の入り方が違ってくるんです。クラブ系の音楽というのは、本当にコカイン中毒者向けの音楽です。クラブの中で2~3回使えば、もう踊り狂ってますね。驚いたのは、踊り終えてからパンツに違和感があって、調べてみると射精していたんです」
丸「それ、ヤバいですね」
Aさん「でもやめられないし、どんどん依存性が高まってくるんです。クラブだけだったのが、次は自宅で、次は会社の仕事中に……という風にエスカレートしていきました」
丸「コカインを使用しづつけて、どうなりましたか?」
Aさん「コカインの効果が切れてしまうと、逆に眠れなくなったり、疲労感が倍増したりします。使用しはじめて1年半が経つ頃には、仕事ができなくなってきました。落ち着きがなくなってきて、どこから仕事に取りかかればいいのかがわからなくなってくるんですよね。私にどこか違和感を感じて、社員たちがやめていくと仕事への焦りが出てきました。それからは、うつ病を発症。もうここまでくると、自分が廃人になったように感じます」
丸「でも、やっぱりコカイン使用は続くわけですね?」
Aさん「ええ。朝から晩まで、乱用状態です。その頃には、鼻詰まりがひどくなって、それも憂鬱になります。そのくらいからでしょうか、幻覚や幻聴、急に叫びだしたくなる衝動に駆られたりしたのは。初期症状として有名な“コーク・バグ(コカイン虫の意)”も現われはじめました。全身を小さな虫が這っているような気味悪い感覚に襲われるんです。体の中に虫が入り込んで、皮膚が血まみれになるほどかきむしるようになりました」
丸「はぁ~。怖い」
Aさん「観葉植物やソファーはしゃべりだすし、バスタブの湯が人の形になったり、どこからともなく“おまえのせいだ”“死ねばいいのに”という声が聞こえたり……。おしっこが止まらなくなったこともありましたね。外に出るのも怖くなって、本当に地獄でした」
丸「まさに地獄ですね。それで、いつ逮捕されたんですか?」
Aさん「それからすぐでした。客への販売目的でコカインを大量に所持していたそのDJが逮捕されて、もう芋づる式です。コカインというのは、ドラッグの中でも、体内残留時間が長いらしいんですよね(※)。使用を控えて5日後の尿検査でも陽性反応が出た。数週間~数ヶ月でも自分の場合は出たと思います。でも、逮捕されてよかった。今では、感謝しているくらいです」
※編注・コカインは他の禁止薬物に対して体内残留時間が比較的短い、という意見もあるようですが、実際に乱用していたAさんの場合、5日後でも陽性反応があったとのことでした。
丸「そう思われているのですね」
Aさん「ピエール瀧容疑者もおそらくほっとしているんじゃないでしょうか。業界内で、実に評判の良かった彼に、コカイン使用の罪悪感がないわけがない。音楽のため、芸術のためとはいえ、クスリの力を作ったり、演じたりした自分のことって嫌いになるでしょ。執行猶予がついて、私はそのまま薬物依存症のリハビリ施設に入所しました。もう会社も潰していたし、仲間に囲まれて人生のやり直しにはちょうどいい時間でした」
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Aさんは、そのあとに妊娠中のコカイン使用で身体に先天的な障害を持った“コカインベイビー”の話など、コカインの実害について語り、「ファッション感覚で薬物に気軽に手を出す若者などが増えないように、いい記事にしてください」と、元薬物中毒だったとは思えない笑顔を見せて帰っていった。
(C)写真AC
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