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サマージャンボ宝くじやドリームジャンボ、年末ジャンボなど億万長者を夢見て、宝くじを買い漁る人間たちが毎度宝くじ売り場に長蛇の列をつくる――。
しかしながらバカにしてはいけない。確率は低いにしても、1千万円以上の高額当選者というのは、年間で3千本、計算してみると1日に8名もの小金持ちが誕生しているということだ。
一般人にしてみれば、せいぜい当たって1万円。それ以上の当選は遠い親戚の中に1人くらいいるか、いないかだと思う。
数年前、私が裏社会ライターとして走り回っていたころ、紹介を受けた闇金融業者のA氏から興味深い話を聞いた。
「ウチの客の中にサマージャンボで1億円当選した奴がいるよ。でもわからんもんで、今では借金まみれでしぼられて、もう汗の一粒も出ない状態だよ」
な、なんと! サマージャンボで1億円も当てたのに今では借金大王とはこれいかに! ありえない話だろう、そんなこと。御大層な一軒家を建てたとしてもお釣りはくるし、残りの金で贅沢しながらリッチなサラリーマンとして、悠々自適な生活ができるじゃないか!
「ウチラの世界に堕ちてくる連中ってのは、まぁちょっとおかしな奴が多い。大金掴んで狂っちゃったんだろな」
「そうですか…」
「おう、ちょっと会って、そいつの記事でも書いてみるか?」
4年前の大阪曽根崎町の中華屋。私は高額当選して人生を狂わせた50がらみの男と会うことにあいなった。
西田春夫さん(仮名・56歳)は久々に口にする日本酒に喉を鳴らせた。
「いやぁ、やっぱりこれですわぁ……。もうねぇ、これしか楽しみがないからね」
毛羽だったタートルネックに薄汚れたダウンジャケット、ノーブランドのよくわからないセカンドバッグを片手に、男は待ち合わせ場所に立っていた。話を聞こうと連れてきた中華屋の座敷で1日の疲れを洗い流すかのように一杯のコップ酒を呷ったのだった。
「あのう、本当に高額当選されたんですか? あの、別に疑っているわけではないんですけど……」
「ははは、見えんでしょうね、そりゃ。でも、私の話を聞けばわかってもらえると思いますよ」
「ああ、あの謝礼はお支払いしますんで……」
「それとぉ、酒ぇ……」
「ええ、どんどん召し上がってください」
彼は、安物の燗した白鶴で再び口を湿らせると、宝くじ高額当選後のおぞましき半生を話しはじめた。
それは、平成14年のことでした。そのころ、私は兵庫の物流会社の営業課長として仕事をしていました。
年収800万円。生活は中の中。妻と子供ふたりで、マイホーム持ち。平凡なサラリーマン家庭です。酒も付き合い程度、煙草も吸わんし、趣味も読書くらいのもんです。それと、毎度1万円未満、数千円をつぎ込む宝くじ購入くらいですかね。つまらない人生の男です。
そのころ、嫁さんとはいつも冗談めいたことばっかり言うてました。
「1億円でも当選したら、おまえにベンツ買うたるわ、な! 5年落ちのステップワゴンももうすぐ車検やし、ええ車買わんと!」
「あほちゃうか、そんなん当たるわけないやん! 毎回毎回、宝くじ代がもったいないわ」
今考えると、このころが一番幸せやったんです。やっぱり皮算用してるくらいってええんですよ。
その日は、毎日の習慣通り、トイレで新聞を読んでました。僕は通勤の道すがらにある販売窓口で機械にかけてもらうので、宝くじの当選番号欄なんて普段は見ないんです。でも、その日に限ってなんとなく番号を目で追ってたんですね。そしたら、自分が買うた連番の宝くじの番号に見覚えが……。
『2002年(平成14年度)全国自治サマージャンボ宝くじ当選番号
▼1等(200,000,000円)54組459〇〇〇番 ▼1等前後賞(50,000,000円)▼1等の組違い賞(100,000円)……』
『▼2等(100,000,000円)35組813〇〇〇番……』
ん? ちょ、ちょっと待てよ……。ちょ、ちょ、ちょっと!
トイレからズボンも上げずに飛び出して、仏壇の前に飾ってある宝くじを袋を破って取り出します。
ふたつを照らし合わせると、まさしく同じ番号!
そうです。2等が当たってしもうたんです。総販売枚数でいえば、全体で3本。なんと1/3,333,333の確率ですわ。
「お父さん、どないしたん?」
嫁さんの声も耳に入ってきませんわ、そりゃ。全身が震えて、情けないけどその場に腰砕け。
「あ、あ、あ、当たった! 当たってしもうた! 宝くじ当選したんや!」
番号を確認して、飛びあがった嫁さん。次の瞬間には腰と手足がしだれ柳みたいになってしまいました。
1時間ほどその場でぼんやりして、その日の晩は枕元に当選くじを置いて、夫婦ふたりで一睡もできしませんでした。
そのあとは、当選くじを換金するために会社を休み、旧第一勧業銀行※みずほ銀行の大阪支店まで車をかっ飛ばして向かいました。
周囲の利用客に聞こえないように、窓口で小さい声で用件を伝えると、そのまま応接室へ。
まもなく宝くじ部署の人間と、副支店長がうやうやしくあいさつにやってきました。
「おめでとうございます! 当選されておりますね。ではこれから、当選券と売り場の照合をいたします。預かり証を発行いたしますので、2週間ほどお待ちくださいませ」
と、相手は腹の足しにもならん紙切れを渡すだけ。なんや、今すぐくれへんのかいと……。
免許と印鑑で本人確認なんて、こんなええかげんなもんでホンマに「1億くれるんかい」と、ちょっと疑いましたよ、それは。
「受け渡しの際なのですが、当選金の1億円を持ち帰られますか? 当行の通帳へ入金させていただきますが、いかがいたしましょう?」
「そんなもん現金で持ち歩くなんて怖いわ、通帳へお願いします」
「では、入金前に1億円ご覧になりますか?」
「そんなん見られますの?」
「当選されたのですから、当然です。では、ご用意させていただきます!」
2週間後、再び家族連れで大阪支店の応接室へ。
担当者と支店長、警備員が見守る中で、テーブルの上に置かれたビニール袋の札束が10個。ひとつが1千万ということですわな。
さすがに家族でポカンと眺めてるだけでした。
≫≫『金の亡者が集結する!』へ続く
(C)写真AC
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