- 週間ランキング
行方不明の夫が“別人の様に優しくなって”突然帰ってきた。戸惑う妻と毎日どこかへ散歩へ出かける夫。同じ頃、町で一家惨殺事件が起き、不穏な空気が漂う中、夫は妻へ告白する。「地球を侵略しにきた」と――。
劇団「イキウメ」の同名人気舞台を、『クリーピー 偽りの隣人』『岸辺の旅』の黒沢清監督が映画化した『散歩する侵略者』が9月9日より公開となります。長澤まさみさん、松田龍平さん、長谷川博己さんという豪華キャストを迎えた本作、謎が謎を呼ぶ展開と黒沢清監督らしい美しくも恐怖に満ちた世界観は最高の一言! 「イキウメ」主宰で原作の執筆者である前川知大さんによる見事なストーリー展開を独自の世界観で映像化しています。
今回は、黒沢監督と前川さんお2人にお話を伺ってきました。
――舞台「散歩する侵略者」は「イキウメ」初期の大切な作品だと思うのですが、映画化が決定した際はどう思われましたか?
前川:期待しかありませんでした。監督が「『散歩する侵略者』を“侵略SF”として、舞台にも小説にも無い侵略シーンを入れたい」と言ってくださった時に、舞台では当然そういったシーンを描こうとは思わないので、一番面白いなと思った部分でした。
基本的に舞台と小説をそのまま忠実に再現してくださって、でもディティールが全然違うので。ストーリーが同じなのに全く違っているという所が驚きでした。
黒沢:侵略SFというジャンルは一度はやってみたくて、侵略SFにふさわしいシーンや展開を、ハリウッド映画の様にはいかないけど入れたくて。予算かかるんですよね……(笑)、でも無理を言ってやらせてもらいました。このジャンルをやるのだったら一回はやってみたかった、という渾身のシーンがいくつかあるのでぜひ注目して欲しいです。
――監督は原作を読んだ時に「映画らしい物語」だと思われたそうですが、どの部分をそう感じられましたか?
黒沢:直感的なものなので、うまく言葉に出来ないのですが、一つは前に前に進んでいく物語だなと思いました。「昔こういうことがあったんだよ」という小説は、小説としては面白いのかもしれませんけど、映画にとって過去は説明でしか無くて、その先が観たいというのが映画の欲望だと思うので。後、演劇が先で後から小説化されたことが関わってくるかと思うのですが、コンパクトな物語ですよね。宇宙人の侵略というテーマを持っていながら、登場人物は少ないし場所も小さな町だけ。そこがとても映画っぽいなと思いました。
――原作への脚色はどの様に行いましたか?
黒沢:随分長い時間かけて作ったのですが、脚本の田中幸子は大学で教えたこともあって信頼をおいていたので、ざっくり言うと鳴海・真治夫婦の物語は彼女、ジャーナリストの桜井の物語は僕が書く、という感じで進めました。
――夫がいなくなって、違うものになって帰ってくるというのは、監督の映画『岸辺の旅』とも共通していますよね。
黒沢:これが偶然なんですよ。『散歩する侵略者』のほうが企画が先で、10年くらい前からずっとやりたいなと思っていて。映画の公開は逆になりましたが、『岸辺の旅』はプロデューサーから「この小説は黒沢さんにむいているんじゃないでしょうか」と言われたのですが、こういう作品が僕に合っていると思われているんでしょうね。夫が変になったとか(笑)。確かに『散歩する侵略者』ほど露骨に変なのは珍しいですけど、人がおかしくなる話っていうのはチョコチョコやっていますからね。改めて考えると、僕はもともとあった関係が狂ってしまったり、歪んだ関係が元に戻るという方が得意ですね。全く知らない人間同士が出会って物語が進む、主にラブストーリーだと思いますけど、そういうお話を自分が作るのは想像出来ない。
――黒沢監督がご覧になって印象に残っている「イキウメ」の舞台、前川さんがご覧になって好きな黒沢監督作品はありますか?
黒沢:それはたくさんあるんですけど、浜田さん(浜田信也)が消えちゃうやつ……。
前川:『聖地X』ですかね。
黒沢:『聖地X』はあれですよね、安井さん(安井順平)の所にAmazonの箱がたくさん届くやつ。あれは怖かったですね、面白かった。
前川:そうです、そうです。あとは浜田が消えるやつだと『獣の道柱』か。
黒沢:浜田さんいっぱい消えてるんですね(笑)。でも『獣の道柱』は別の記憶できちんと認識しています。「イキウメ」はたくさん拝見させていただいているんで、きちんと作品名が覚えられていなくて申し訳無いのですが、どの話もすごく好きで。
前川:ありがとうございます。僕は黒沢監督作品では特に『回路』が好きです。あとは『カリスマ』。初めて観た時はよく理解出来なくて、3回ほど観ました。でも余韻が残って、また観たくなってしまうんですよね。すごく不思議で魅力的な作品だと思います。
――お2人の作品は、クスッと笑ってしまうシーンもゾッと怖くなるシーンも両方あって、一筋縄にはいかないところがとても好きです。そういった部分は製作時に意識しているのでしょうか?
黒沢:僕はクスッと笑える、というのはそんなに意識していません。意識しても大変難しいので。異様なこと、日常と違うことが起こって人々が恐れるという事はよくするのですが、その程度によって、起こる事の大きさによってゾッとしたりクスッとしたりするのかもしれません。日常と異質なことの強弱によって恐怖にも笑いにもなるのかなと思います。
前川:恐怖と笑いって紙一重ですよね。
黒沢:紙一重ですね。
前川:演劇でシリアスなシーンを描く時に、ちょっとバランスを間違えると笑えるというかバカバカしくなってしまったり。ものすごい緊張感を作って、それを緩和する何かをやると、面白くて笑うのでは無くてほっとして笑ってしまったり。演劇の中で、そういう笑えるシーンを入れると、お客さんは集中して舞台を観ていながらもリラックした状態になってくれて。そうやってリラックスしてもらわないと大嘘がつけないので。これは詐欺師の手法でもあると思うのですが、意識して入れています。
――この『散歩する侵略者』はまさに、クスっとと、ゾーッとする気持ちが同居する素晴らしい作品だと思います。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました!
『散歩する侵略者』ストーリー
数日間の行方不明の後、不仲だった夫がまるで別人のようになって帰ってきた。急に穏やかで優しくなった夫に戸惑う加瀬鳴海。夫・真治は会社を辞め、毎日散歩に出かけていく。一体何をしているのか…?
その頃、町では一家惨殺事件が発生し、奇妙な現象が頻発する。ジャーナリストの桜井は取材中、天野という謎の若者に出会い、二人は事件の鍵を握る女子高校生・立花あきらの行方を探し始める。
やがて町は静かに不穏な世界へと姿を変え、事態は思わぬ方向へと動く。「地球を侵略しに来た」真治から衝撃の告白を受ける鳴海。当たり前の日常は、ある日突然終わりを告げる。
(C)2017「散歩する侵略者」製作委員会