こんにちは、マガジンハウスです。今日は、あのポルノグラフィティのギタリスト、新藤晴一さんにお越しいただきました! 数々のヒット曲の作詞も手掛け、2001年には小説家としてもデビューした新藤さんが、二作目の題材に選んだのは、メジャーデビューを目指すロックバンドの若者たち。ベーシストの健太の目を通して描かれる、バンド内外の人間関係や音楽業界の‟裏”、アメイジングな中国の秘境(!)などなど、新藤さんがまさかこんなことを書かれるなんて!? 新藤さんじゃないと書けないよこんなこと!! と感想を言うのももどかしい一冊が、このたび発売になりました。音楽経験がなくても、熱くなれること必至ですよ!


『ルールズ』、仕事後回しにして一気読みしちゃいました! これからもたくさん質問されると思うのですが、モデルのいる登場人物はいますか?


新藤:書いている最中に具体的なモデルを思い浮かべたことはないです。強いて言えば、主人公・健太が思い悩むところなんか、自分で読んで「わかるわかる」となりますけど、僕がモデルというわけではないんです。ただ、彼とは分かり合えるところがあると思いますね。


一人称にした理由はあるんですか? バンド小説だから、いま仰ったように健太なら自身を投影しやすいだろうとか?


新藤:いや、そこまでは考えなくて、前作(『時の尾』)が三人称だったから、一人称でも書いてみたかった。そういう単純な理由です。


違いはありましたか?


新藤:う~ん……三人称ってつまり神様目線ですよね。なので、「こっちの思ってることはわかる」、「そっちの思ってることもわかる」という状態になって……。


厄介ですね。


新藤:そう、前作ではその割合が難しかったことを、すごく覚えてるんです。どこまで読者に伝えて、どこまで伝えないかというバランスには気を配りました。


今作では?


新藤:一人称の場合は、ストーリーを進めていくなかで、主人公の彼が語ることは全部彼のアイデンティティに関わるので、情景描写するにしても、彼が言いそうな言葉の範疇を超えないようにしないといけなかった。あんまり思慮深すぎても、バンドマンっぽくないですしね。


健太なり、主要人物なりを描くときに、プロファイリング的なことはされたのでしょうか。


新藤:しました…。ですが、やっぱり実際書いていくと、5個10個書き出した人間性だけじゃ収まらないですよね。人物ってもっともっと多面的だから、そのほかの面は書きながら補っていったところがあります。


キャラが勝手に動いていく、どんどん生きていくという感じ?


新藤:そう表現ができればいいんですけど(笑)。でも、キャラクターが整合性を保つには、最初の章でキャラを動かしたら、次の章はもう僕が思うようには動かなくなる。その意味では、言うことは聞かなくなりますよね。


そういうもんなんですね。


新藤:思うようにはいかないです。


では、ネタバレになっちゃうかもしれないですけど、最初に思ってた感じと、最終的に一番離れていたキャラクターは誰ですか?


新藤:…笹井さん。


やっぱり (笑)。そんな気がしました。大手レコード会社社員で、健太たちにも容赦なくあたるリアリスト。そんな笹井さんのキャラクターって、音楽にまるで関係ない人が書くのはアリだと思うんですけど、現役でしかも第一線で活躍している新藤さんが書いていいんだろうか?と勝手ながら心配しちゃいました。


新藤:さすがに、彼のような人は実際にはいない(笑)。


でも、「あの人じゃないか?」と言われたりしないかと、若干危惧しませんでしたか?


新藤:僕はしてなかったんですけど、勝手にスタッフが、これ、あの人じゃない? 大丈夫? なんて心配してくれたりして。「違う違う!」って(笑)。…音楽の現場って、レコード会社、ミュージシャン、事務所とあって、みんなで作っていくものなんです。もちろん音楽が中心ではあるものの、それぞれの立ち位置で関わっていくんですよね。ミュージシャンはやっぱり――踏まえなさすぎるのも良くないかもしれないけど、ビジネスの世界に近寄りすぎるべきじゃないし、逆にレコード会社の人は、創作そのものを崇高に思いすぎるべきではない。そういう意味では、笹井さんは笹井さんの立場で、ちゃんと音楽に関わってるんですよね。


それは新藤さんの今の立場があるから、彼に対しても理解があるのでは? もし、デビューが決まるか決まらないかぐらいのときだったら、どうでしょうか。


新藤:ううーん……どうだろうな~。でも、その人は大手レコード会社の名刺を持ってるわけですよね?


持ってますね(笑)。


新藤:それはアマチュアミュージシャンにとって、非常に大きなプラチナチケットなので。その前では、何かカチンとくることを言われても、多少は飲み込むこともあるかな。


そうなんですか。


新藤:それほどのものなんです、大手レコード会社の名刺っていうのは。まあ僕たちの時代は、ですけど。


もし他のメンバーが、「なんだこのくそジジイ!」みたいに歯向かっていったとしたら、まあまあと、とりなしたりも?


新藤:うちのバンドはなかったですけどね。なにしろ田舎もんだったので、名刺もらっただけで「おー! すっげー!!」って(笑)。なにしろ名刺が眩しくて (笑)。




「主人公・健太とは分かり合える気がする」と新藤さん。


主人公をベーシストにしたのには理由はあるんですか?


新藤:かつてのような理想のバンド、レジェンドのバンドは、ボーカルとギターがとびぬけた存在なんです、パターンとして。健太のバンドもそういうふうに成長してってもらいたかったので、主人公はそれを支える、その二人を客観的に見る立場のほうがいいだろう。自分自身が前に出るボーカルとかじゃなくて、一歩引いたところに置こうと思ったんです。…いや、でも…ボーカルでもよかったかなあ。


ボーカルバージョンも書かれますか!


新藤:いや、なしなし(笑)。


話が本作から離れますが、ポルノグラフィティというと、詞の世界がすごいことが有名というか、もはや日本の常識ですが、作詞のポリシーとして、こういうことは書かないとかこういうテーマがあるとか、縛りは設けているんですか?


新藤:基本的に詞って、ポルノに限らずボーカルが書くものだと思うんですよ。メロディに言葉を乗せて歌うのはボーカルなので、ボーカルの声と言葉がメロディとマッチしたものが一番強いと思う。だけど、僕は詞で表現したいことがあったんです。だからポルノの詞を書いてるときは、ボーカルみたいな詞を書いちゃダメだと思ってて。ボーカルならば、たとえば「愛してる」って言葉と、それにふさわしいメロディがそこにあって、ちょっと苦しそうな表情とギリギリの声で「愛してる」と歌えば成り立つんですけど、歌わない僕だとそうはいかない。まずは、字面で納得してもらえる詞を書かないといけない。なので、僕は自分の心境ばっかりを書くこともないし、文章として、言葉として成り立つべきだと思っているんです。じゃないと僕が書く意味がない。メロディや表情や、言ってしまえば声にも頼らずに書いた詞を、ボーカルがさらに良くしてくれるのが、理想の形ですね。


そうすると、小説を書かれるときとはまた姿勢が違いますよね。


新藤:違いますね。


小説を書くときのポリシーは? 


新藤:いくつかぼんやりとはあるんですけどね。作家としてのテーマみたいなものは、何度も書いているうちに発見するんじゃないかと思いながら書いています。まあ、思いつくことで言うと(笑)、いくつか表現のジャンルってあるじゃないですか。映画、テレビ、漫画、とか。その中でも、やっぱり‟小説的”なものを書きたいなと思います。漫画も大好きだし映画もテレビも好きだけど、小説だからできる表現で書きたいと思ってます。


2作書いて、手ごたえはありますか?


新藤:どうでしょうか (笑)。いい線いってんのかなあ。ま、10冊書いた時に振り返りたいですね。


新藤さんにとって、書く作業はけっこう大変なんですか? 


新藤:嫌いじゃないですね。なかなか人には伝わらないんですけど、字を書くこと自体が好きなんです。歌詞が出てこないときに、近くにある缶コーヒーや飲み物の原材料を書き出したりして…。


ええ (笑)!!!


新藤:小説は手書きだとさすがに大変そうなのでパソコンで書いてますけど、たぶん字を書くというプリミティブな活動が好きなんです。美しい字は書けないけど、美しい言葉を文字で書くのは好きなんです。まあ、原材料は美しくないですが(笑)。


書く作業が好きだと思い始めたのは、やはり小中学校ぐらいの頃から?


新藤:そうですね。共働きだった母の帰りを、チラシ裏に絵を描きながら待ってた。そのあたりから文字も書き始めたんでしょうね。


当時、チラシの裏には何を書いてたんですか?


新藤:俺の体の中はこうなってて…食パンが俺の体の中でどうなるか、だから食パンを食べさせてくれ、みたいなことを書いてました。


…それは何なんでしょうか(笑)。


新藤:食パンが、消化されて体の中で大切なものに変わってくくだりを書いてたんですね、きっと。


ちょっと変わってる子だったんですか?


新藤:そんなことないですよ、そんなことない、たぶん(笑)。ただそういうことを書いたりするのが好きだった。勉強は嫌いだったのに。


そんな中でも、科目では国語が好きだったのでしょうか。


新藤:そうですね。国語の先生をこう…やりこめるじゃないですか。


やりこめる!?


新藤:作者がどう考えたか、なんて問いにはいくつだって答えがあっていいはずなので、自分の解答を絶対に正解にさせるとか。


模範解答じゃないのを?


新藤:そうです。×つけられたのを「なんでだ」と言って(笑)。だから国語はその可能性があるから好きでした。理科とか算数はどうしようもないですからね。




「小説だからできる表現、‟小説的”な作品を書いていきたい」


最後にプライベートなことを伺いたいのですが、いまハマってることってありますか? できたらファンの方も知らないような。


新藤:ゴルフ…はみんな知ってるな…。あ、『ゼルダの伝説』!


ゲームの?


新藤:はい。いまNintendo Switchで出てるんです、「ブレス オブ ザ ワイルド」っていう最新作が。ちょっと前に別の最新ゲーム機を買ったので人気ソフトをやってみたんです。すごくよくできたゲームだとは思ったんですけど、僕が大人になりすぎたせいか、それをやり込むみたいな情熱は沸いてこなかった。ゲーム自体はめっちゃ面白いと思うのに。で、すぐそれを手放して、他のゲームの最新作もやるんだけど、やっぱり…。


昔ほどの情熱ではやれなくなる、と。


新藤:けれど! ゼルダは裏切らなかったね。


(笑)。どれぐらいハマってるんですか?


新藤:とはいっても忙しいから、移動の車の中とかでしかできないけど…でも、けっこうやってるな(笑)。こないだ海外に行ったときも、飛行機が着かなければいいのにと思ってた(笑)。


機内でずっとって、ハマりすぎじゃないですか(笑)。


新藤:いやあ、ゼルダは裏切らないね(うっとり)。もう少しで僕、このハイラル~~を~~しますから。ガノンを倒しますから。


すみません、勉強不足で全然わからないですが(笑)、いつかゲーム小説やゲーム原作も期待したいです。新藤さん、今日はありがとうございました!




ポルノグラフィティとしては、9月6日にシングル「キング&クイーン/Montage」をリリース。作家としての新藤晴一さんのこれからも楽しみです!(写真・小笠原真紀)


今週の推し本



ルールズ

新藤晴一 著

ページ数:352頁

ISBN:9784838729258

定価:1,620円 (税込)

発売:2017.09.01

ジャンル:小説


[http://magazineworld.jp/books/paper/2925/]


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情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 新藤晴一さん待望の二作目は、バンド小説の金字塔!~マガジンハウス担当者の今推し本『ルールズ』