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『スプリット』ストーリー
女子高生ケイシーは、級友クレアのバースデー・パーティーに招かれ、その帰り、クレアの親友マルシアと共に家まで車で送ってもらうことに。それが悲劇の始まりだった。見知らぬ男が車に乗り込んできて、3人は眠らされ、拉致される…目覚めると、そこは殺風景な密室。ドアを開けて入ってきた男は神経質な雰囲気を漂わせていた。このままでは命が危ない――どうすれば逃げられるのか? 3人が頭をひねっていた矢先、扉の向こうからさっきの男と女性の声が聞こえる。「助けて!」と叫ぶ少女たち。姿を現したのは…女性の洋服を着て、女性のような口調で話す男だった。「大丈夫、彼はあなたたちに手を出したりしないわ」 絶句する少女たちに、今度は屈託なく、「僕、9歳だよ」と男は話かけてきた。実は、彼は23人もの人格を持ち、DID<解離性同一性障害>で精神医学を専門とする女医フレッチャーのセラピーを受けていたのだった。密室で3人VS 23人格の熾烈な攻防が繰り広げられる中、もうひとり、“24人目”の人格の存在が生まれようとしていた―。
―主人公のケビンの人格を“23”人にした理由はなんでしょうか?
シャマラン:まず僕が“23”という数字が好きで惹かれるんだ。あと、ビリー・ミリガンという人物が24人の人格を抱えていたことで知られているけれど、彼が実在した人物ということで、「こんなにも多くの人格が出来てしまうことがあるのだ」という驚きとリアリティのバランスで23、24人の人格を作ろうと思ったんだよ。
―そんな信じられないほどの数の人格をジェームズ・マカヴォイが怪演しているわけですが、どの様な指導をしましたか?
シャマラン:脚本を書く時って「この俳優にはこの役」って思いながら進めるんだ。それで俳優と実際にディスカッションをしながら「この役はこうしてね」と話して、次の俳優とも同じ様に話をする。だから、本作も僕にとってはいつもと同じ作業で、大変だったのはマカヴォイだよね。23人分の指導を受けなくてはいけなくて、頭の中で整理をしなくてはいけなかった。
―23人という人格の設定が最初だったのか? ストーリーが最初にあって23人という人格が必要だったのでしょうか?
シャマラン:まずストーリーだね。3人の女の子が誘拐されるという中で、誘拐グループがどういう人物だったら面白いかなと考えた。宗教に没頭している女性が一人、神経質な男が一人に、子供が一人という組み合わせが面白いと思ってそこから膨らませていったんだ。
―ケイシーにせよケビンにせよ映画の中で見えない部分の人生を感じるといいますか。シャマラン監督の作品はいつも人間味をすごく感じるのですが、自分の中で大切にしていることはありますか?
シャマラン:ある意味“ラブストーリー”としてみている部分があるんだよね。ロマンスでは無い、ラブだよ。例えば前作『ヴィジット』だったら兄弟愛、本作では精神科医と患者との愛、ケイシーとそれぞれの人格との不思議な絆。ケイシー自身もよく分かっていない様な絆だね。今思えば現代版の『美女と野獣』の様なものだと思っているよ。
―他人との関わりが人間の人格を作り上げる、ということでしょうか。
シャマラン:とても深い質問だね。人間というのは他の人との関わりによって人格が決まってくるのだろうか? ということを考えたりする。例えば戦争真っ只中のある都市があるとして、その中での自殺率、うつ病になる人の割合というのは、周りの戦争をしていない都市に比べてグッと下がるという統計があるんだ。なぜかというと、戦地の様な極限状態においてはお互いが声をかけあって、一つの輪になって気持ちが一つになっているからなんだ。そういう点でいうと人間というのは他人との関わりによって自己形成がされていくのだと思うのだけどね。
―(サラサラサラ……とメモ帳に何かを書くシャマランを見て)今何を書いてらっしゃったんですか?
シャマラン:こうやってインタビューを受けている時、日本語通訳のちょっとした待ち時間があるわけだけれども、そういう時って車の“ニュートラル”ゾーンに入っている様な感覚なんだ。皆さんからの質問を受けて、答えを考えながら「どうして自分はこの描き方をしたんだろう」と見つめ直し、新しいアイデアが浮かんでくるんだ。今書いたのは、今後の作品のアイデアとしてコミックで『DID<解離性同一性障害>の男』を描いたらどうかということなんだ。DID<解離性同一性障害>の人の頭の中が「この場面ではどの人格が出るのか?」と話し合っているという、実写では出来ないけど、アニメーションなら出来るんじゃないかと考えていたんだ。スーパーマーケットに出た時に「次は誰?」とかね(笑)。
―今日まさに、シャマラン監督の独創的なアイデアは日頃のメモから生まれるのか、パッと閃く瞬間があるのかお聞きしたかったので、メモをとる瞬間が見れて嬉しいです。
シャマラン:常に“技術的なアイデア”と“勘で生まれたアイデア”があるのだけど、こうして何本が映画を撮っていくとスキルっていうのは邪魔になることもあるんだ。「今ってこういう映画が人気だよね」っていう考えから作る映画は自分的には微妙なんだ。逆に「なぜかよく分からないけど良い」っていう勘のほうが大切だ。その勘を後から技術的に分析すれば良いのであって。良いアイデアというのは、井戸の中に何かをポンと投げた時に底が感じられない、そんなイメージなんだ。
―まさに『スプリット』は底が感じられない井戸でしたね。
シャマラン:一つの出来事が起こると、次の出来事を引き起こしてとどんどん発展していくよね。「ロゼッタストーン・アイデア」という言葉があって、よくデヴィット・リンチ監督が言ってるんですけど、1つのアイデアが映画全体の謎をひも解く鍵であるという意味なんだ。今回の映画でいうと、パトリシアがサンドウィッチを作っている時に女の子達に「パプリカが入っているよの」って言いますよね。これが本作の「ロゼッタストーン・アイデア」であって、物語全体の鍵では無いのだけど、パトリシアがどんな人格なのか、なぜそんなことを言うのか? というと、パトリシアは女性だから本当はガールズトークがしたいのに男の体だからフラストレーションが溜まっている。そんな心情を描いているんだ。
―監督のお話を聞いてからまた映画を観ると新たな考察が出来そうです。本当に貴重なお話をどうもありがとうございました!
『スプリット』公式サイト
http://split-movie.jp
(聞き手:レイナス、藤本エリ)