都心から東武線特急“りょうもう”で約90分の群馬県太田。この太田駅北口の目の前という好立地に太田市美術館・図書館が2017年4月1日にグランドオープン。知と感性のプラットフォームとして「創造的太田人」を基本理念に、まちづくりの拠点になるべく中心市街地ににぎわいをもたらすプロジェクトの展開を企図し、建築家・京都大学准教授の平田晃久氏が市民とのワークショップを経て設計された建物を含めて、かなり挑戦的な施設になっています。ここでは館内の様子や、2016年4月26日から7月17日まで開催されている開館記念展『未来の狼火(のろし)』の模様などをレポートします。



ガラスを多く使用して、中の様子が外から見えるようになっている建物。平田氏によると、5個の鉄筋コンクリートの箱があり、その周りを鉄骨構造のスロープが巻かれている構造になっているとのこと。入り口が東、西、南にあり、様々な方向から気軽に入って通り抜けることも可能。「従来の図書館、美術館という殻を脱ぎ捨てた、自由で活気のある街のような場所」を目指したといいます。


児童書を1万冊以上収蔵! いたるところに本がある館内



図書館としての最大の特徴といえるのが、収蔵されている児童書・絵本の多さ。その数1万冊を超えるとのことで、国際アンデルセン賞の受賞作が網羅されているほか、洋書も多数入れられてあります。これで子どもたちが日本語以外の言語に触れて、世界の多様性を知ることができるように意図しているとのこと。



児童書・絵本が置いてある2Fのフロアの中には、靴を脱いで床やソファーで自由に読むことができるスペースも。広々と贅沢に過ごせそうな空間で、子どもだけでなく大人でもゆったりと清々しい気持ちで絵本を読むことができそうです。



また、美術館と一緒の建物だけに、アートブックが充実しているのも特色として挙げられます。国内外の作家から現代アートまで、絵画集や写真集も含めて約9000冊が置かれています。アートが好きな人ならば何時間でも過ごすことができるのではないでしょうか。



『群馬県史』をはじめとする郷土資料が置かれたフロアは3Fにあります。大きなガラス張りのテーブルが配置されており、この中に地図や絵画などを入れておくこともできる構造になっています。ボックス状の布を組み合わせた照明もステキです。



全体的に館内は開放的で、至るところに吹き抜けがあります。平田氏によると、建物の中に読書に支障がない程度の風を招き入れられており、内部に心地よい気流の動きを作り出すだけでなく、省エネルギーにもなっているといいます。



階段やスロープにも書架があるのは、本好きならばグッとくるのではないでしょうか。いたるところに置かれたソファーやクッションは、太田市の中心産業である車製作に関わる企業によって作られたもの。特にクッションは、平田氏の市民とのワークショップで作り上げていく過程がデザインされているとのこと。階段の途中にも置かれていて、そこに座って読むこともできるというのは嬉しいですね。



1Fには雑誌コーナーがあり、美術誌・建築誌・ライフスタイル誌を中心に和洋300誌が屏風形のラックに置かれています。通常の図書館ならば週刊誌やファッション誌が多く用意されていますが、ここでは専門性の高い雑誌が多く並べられていたのが印象的でした。


太田ゆかりの作家の多彩な作品が揃った『未来の狼火』展



「風土の発見」「創造の遺伝子」「未来の狼火」をキーワードに、中島飛行機(現SUBARU)を源流とした工業都市としての歴史や、桑を育てる人たちを描いた田園詩人・清水房之丞(1903-1963)などの存在を手がかりに、絵画・工芸・写真・映像・詩・歌といった他ジャンルのアーティストの作品が揃った開設記念展。


中でも圧巻なのは、1Fのフロアにある1981年生まれの画家・浅井裕介氏の大壁画『言葉の先っぽで風と土が踊っている』。太田の風土からイメージを広げたという絵は、“ものづくりのまち”と上州のからっ風に晒されつつも強く生き抜いてきた人たちを思い起こさせる、ダイナミックな作品となっています。



浅井氏の作品は、太田の複数の箇所で採取された土が使われた“泥絵”。水彩絵具と較べて、色の変色がしにくいとのことですが、土の性質上として完全な保存は難しいので、この企画展限りの作品となります。強さと儚さが渾然としているのも魅力といえるでしょう。



同じく1Fの壁面には、埼玉県出身のシンガーソングライター・前野健太氏による太田の模様を描いた詩が展示されています。鎌倉・南北朝期の武将・新田義貞の居城だった金山城から太田の街を俯瞰したような詩で、「工場」や「ショッピングモール」、さらには「飛行機」といったフレーズが織り込まれ、太田の歴史と現在が凝縮された格好。館内では、前野氏の歌も流されています。



1Fから2Fに至るスロープには、前述した清水が1930年に出した詩集『霜害警報』のまえがきが大きく描かれています。この字は図書館・美術館のロゴを手がけたグラフィックデザイナー・平野篤史氏がデザインしたといい、ガラス越しに外からもよく見えます。



2Fのフロアでは、先天性の病気で9歳で両足を切断したという美術家・片山真理氏は、2005年の『群馬青年ビエンナーレ’05』出品作『足をはかりに』や自身のセルフポートレートを出品。美しく装飾された義足に目を奪われます。



太田・金山のアトリエで晩年まで過ごしたという竹工芸家・飯塚小玕斎(1919-2004)。『白錆花籃 大海』や東京美術学校で藤原武二(1867-1943)に師事していた頃の洋画が展示されています。



3Fのフロアでは、1976年生まれの映像作家・林勇気氏による、多くの大田市民のインタビューをもとにしたアニメーション映像を見ることができます。「未来」をテーマにしたということで、太田の将来につなげるための映像が10分あまりに渡って展開されています。


ソフトクリームが激ウマ! 地産地消のカフェを併設



この美術館・図書館にはカフェも併設されています。駅側の東入口からすぐのスペースで、すぐ隣の新聞・雑誌コーナーから借りてきて気軽に読むこともできるようになっています。


このカフェは、太田市内で3店舗を展開しているコーヒーショップ“BLACKSMITH COFFEE”が中心となり、食材も自家製や太田産のものにこだわった地産地消を目指しているということ。



中でもおすすめなのが、『東毛酪農クリームラインミルクソフト』(450円・税込)。その口当たりの柔らかさが絶品で、甘み抑えめ、かつミルク感がたっぷりと堪能できる、子どもから大人まで誰でも楽しむことができるソフトクリームに仕上がっていました。



『ブラックスミスラテ』(470円・税込)は、かわいらしいラテアートが描かれていました。


まちづくりの拠点に!



外や屋上にも自由に出入りができ、本の持ち出して周囲の風景も見ながら読書も可能だというこの図書館。とりわけ屋上には、太田の土を運んで緑化されていて、木や草原の中でリラックスした時を過ごすことができるだけでなく、金山や国の史跡である太田天神山古墳をはじめ、太田の街並みを一望することができます。


多くの地方都市同様、太田も駅前がシャッター街になっており、その活気を取り戻すという目的もあるという美術館・図書館。平田氏は「建物が完成しても、本当に完成したことにはなりません。たくさんの人々が歩き、思い思いの時間を楽しむ、生きた場所になる必要がある」と語っています。


太田市では、商店やカフェ、酒店や教会など市内35施設が“まちじゅう図書館”に参加。各館長の思い入れのある本が置いてあり、訪れた人が館長との会話を楽しむ場にするべく企画しています。そういった文化の中心拠点としての役割もこの新しい美術館・図書館には求められており、少子高齢化が進む日本においてのコンパクトシティのモデルケースになれるかどうかも注目されます。


太田市美術館・図書館 開館記念展『未来への狼火』開催概要


会場:太田市美術館・図書館 展示室1・2・3・スロープ他

   群馬県太田市東本町16-30

会期:2017年4月26日(水)~7月17日(月・祝)

休館日:月曜日(7月17日は会館)

開館時間:10時~18時 ※展示室への入場は17時30分まで

観覧料:一般800円、学生・団体640円、中学生以下無料

主催:太田市、一般財団法人太田市文化スポーツ振興財団

出品作家:淺井裕介、飯塚小玕齋、石内都、片山真理、清水房之丞、正田壤、林勇気、藤原泰佑、前野健太



太田市美術館・図書館(公式サイト)

http://www.artmuseumlibraryota.jp/


情報提供元: ガジェット通信
記事名:「 まちづくりの拠点になる開放的な空間&絵本・児童書が充実! 太田市美術館・図書館の魅力