- 週間ランキング
株式会社MAGES.は株式会社ドワンゴの子会社で、社名の由来は魔法使いを意味する「mage」の複数形であり、同社の事業軸である「Music」「Animation」「Game」「Event」「School」から頭文字をとったもの。エンターテインメント全般の事業を行っている企業だ。
今回はそんな同社にVR体験に関する考え方やコンテンツの方向性について、ゲーム事業部 パッケージ開発部 部長 松原達也氏にお話をお伺いしてきた。
—-VR市場に参入するキッカケを教えてください。
松原氏:やはりOculusの存在が大きいですね。ただ、VR自体は20年ぐらい前にもブームがあって、その時から興味は持っていました。
当時はハードウェアのスペックが今と比べると著しく低く、そんなに大きく広がりはしなかったんですが、新しい技術に興味があったので、確かパナソニック社が「※1.キッチンのプレゼンをVRで行うショールーム」を開催している事を知り、体験しに行ってきました。
家を建てる予定があった訳でもキッチンをリフォームする予定も何もなく、完全に趣味ですが(笑)
実際にVR HMDを被って体験してみると、3D空間にキッチンが表示されて天板が木目調や大理石などにリアルタイムに切り替わっていくんですね。
もちろん、20年前のスペックなので明らかに現実とは異なるし、バーチャファイター1ぐらいのポリゴンで解像度も荒かったのですが、それでもキッチンの雰囲気が伝わってきましたし、今までにない体験をすることができました。。
その体験から20年経ち、Oculusがユーザの手に降りてきたことで当時の体験よりも、さらに面白いものが作れるのではないか、と考えこのタイミングでVRに参入してみようと思いました。
—-プラットフォームとしてPlayStation®VRを選ばれた理由はなぜですか?
松原氏:弊社は基本的にコンシューマーメーカーで、既にPS4向けにゲームも発売していたため、自ずとPSVRをプラットフォームとして選ぶことになりました。
—-PSVR向けに発売予定のコンテンツは既存作品の移植か、新作どちらをお考えでしょうか?
松原氏:弊社がメインで作っているゲームは、2Dのアドベンチャーゲームなので、そのままVR体験に持っていけるかどうかで言うと、そういう事はないので単純な移植という事はできません。
VR作品には、いくつかのパターンがありますが、例えばVR HMDの中に仮想空間を作って、その周りを見渡してプレイする体験型コンテンツのパターンや、単純に大きいスクリーンの変わりに使うというパターンもありますよね。
現在、社内で両方のパターンを検証しながらスクラップ&ビルドを繰り返している状況です。
—-御社は女性が登場するゲームが多いと思いますが、VRも同じ路線で行く予定でしょうか?
松原氏:おっしゃる通り、弊社はアドベンチャーゲームの会社であって女性が多く作品に登場します。サマーレッスンなども見てもわかるようにVR空間で女の子が立って、こちらに話かけてくるだけでも、大分ドキドキしますので弊社としてもこちらの方向性を探っている状態ですね。
VRとは関係なく最近、海外タイトルなどで見られるハリウッドクラスのCGを使って超絶リアルな世界を描いているタイトルがありますが、私がVRに重要だと感じているのは、画像のリアリティよりも、やはり”ユーザ体験”だと思っています。そういった意味で言うと予算をかけずとも、アイディア次第で面白いコンテンツは作れると考えています。
—-なるほど。ちなみにVRコンテンツの開発にあたり、戸惑ったことなどがありましたら教えてください。
松原氏:やはり酔いの部分ですね。被った時のトラッキング精度と言うか、自分の頭で考えた角度と目の前に広がる世界の画角が少しずれちゃうと、すぐ気持ち悪くなるのでその辺の調整とかは結構大変ですね。
あと、些細なことですがプログラマーから言われたのは、VRコンテンツの開発時にHMDの着脱が意外に面倒みたいでした。
コード1行書いてデバッグするって時にまた、被らないといけないのか・・・と結構、萎えてしまうそうです(笑)
—-VR開発あるあるですね(笑)いつ頃から開発に着手していましたか?
松原氏:PSVRの開発機が来てからなので、多分1年は立ってないですね。
—-それまでは社内でVR開発はやっていなかったのですか?
松原氏:社内で研究的にOculusをいじったりもしました。元々、自社で持っていた3Dモデルを表示してみて、おおすごいって言ってる程度でしたけどね。
—-現在、VR専任の開発者はいらっしゃいますか?
松原氏:専任はまだいません。現在は部活動的な立ち位置で、メイン業務が7割、VRが3割程度の割合でVRの開発を行っている。その中で面白い企画を探っているような状況です。
—-VRが日本で普及するには何が必要だと思いますか。
松原氏:まずVRは設備投資的な意味でも、ハードルが一段上の娯楽・体験になると考えています。だからこそ、その壁を突破できる企画やブレイクスルーする何かがあればブームにはなると思うんですね。
ただ、その部分をどう突破していくのかが各社課題になっていると思います。
弊社のメインコンテンツであるアドベンチャーゲームは一人で遊んでいくタイプの作品のため、常に我々は没入感の高いゲーム体験をどうユーザに与えていくかということを考えています。そういった意味でVRの没入感とは相性がいいとも感じておりますので、ユーザに刺さる作品にVRをどういった形で落とし込めるかを研究して、形にしていく予定です。
—-1つ、コンテンツが普及するポイントをあげるとしたら何でしょうか?
松原氏:今までのゲーム体験とは一味違うなと感じたポイントは、目の前にあるものの裏側に回れるという点ではないでしょうか。GoogleがHTC Vive向けに提供した3Dペイントツール「Tilt Brush」を体験した際、自分で描いた絵の裏側に回り込めたのはすごい衝撃で、弊社もその感覚をコンテンツに再現できないかと考えています。普通のポリゴンのゲームの移動と視点切り替えだけで感じる感覚とは明らかに違う目の前にあるものの存在感と距離感。そこはVRならではの感覚だと思いますので、弊社としてもそこを大事に研究しているところです。
男性向けアドベンチャーゲームを提供している同社が、女性の裏側に回り込めるまさに夢のような体験を実現してくれれば、VRが一気に普及(男性に・・)することは間違いないだろう。
一刻も早く世の男性のためにも、実現してほしい。
※1.VRシステムキッチン:パナソニック(当時は松下電工)が、1990年に新しいショールームを新宿にオープンする際、1週間限定のデモンストレーション用として作られたサービス。
Copyright ©2016 VR Inside All Rights Reserved.