- 週間ランキング
VRデバイスの優れた点は、現実に存在しないものを本当にその場にあるかのようなリアリティを持ってユーザに見せられる能力にある。この特徴はVRゲームを迫力のあるものにするために役立つだけでなく、ビジネスにおいて新製品のバーチャル展示イベントを行ったり、設計段階の設備のイメージを確かめてもらったりといった用途にも活用されるものだ。
AxonomのVRデザインビューワは、製品の購入を考える顧客に対して導入後の状態をVRで体験してもらうために利用される。スマートフォンで利用できるため、持ち運んでどこでも使えるのが従来の製品にない強みだ。
スマートフォン向けのVRデザインビューワを開発したAxonomは、CPQソフトウェアを提供する企業だ。CPQは”Configuration”(製品仕様)、”Price”(価格設定)、”Quote”(見積)の頭文字を取った言葉であり、顧客が希望する製品を選び、それに応じた見積を制作していくプロセスの効率化を行うのが彼らの目的となる。
「Powertrak VR Design Viewer」は、そのプロセスの中で利用することを想定して開発されたアプリケーションだ。
用途としては、顧客に製品導入後のイメージを把握してもらうために使用される。室内の環境に合わせて導入する設備が変わる場合や、オプションの多い複雑な製品を販売する場合などに有効なツールとなるだろう。
画像の例では、手術室に各種設備を導入した様子をVRでプレビューしている。手術室の形やその病院が対応する内容によって必要・導入可能な設備が異なるので一律でパック製品を購入することはできず、個別のカスタマイズが必要だ。
このPowertrak VR Design Viewerの優れた点は、専用のハイエンドVRヘッドセットや特定のフラッグシップモデルスマートフォンを要求しないGoogle Cardboardプラットフォームでアプリケーションが構築されているところだ。この特徴は、顧客と一緒に導入予定の現場を訪れたときや、顧客の事務所を訪ねての商談という場面で活きてくる。
過去にAxonomが開発したVRデザインビューワ「Powertrak Vroom」も機能は同様(むしろ強力なハードウェアに支えられてVR Design Viewer以上のクオリティ)だったが、有線VRヘッドセットとそれに対応するVR Ready PCを用意する必要があった。
製品を展示するイベントの会場や自社を訪問してもらうならば、ハイエンドシステムを用意してVroomでよりクオリティの高い映像を見てもらう方法が有効だ。しかし、場所を選んでしまうという欠点があった。
VR Design ViewerはモバイルVR対応でどこでも使えるという強みがある。特にリフォーム・内装工事などの見積にこのVRビューワを使う場合には、現地でVR体験をしてもらうのが効果的だろう。
新製品VR Design ViewerはVroomを完全に置き換えてしまうようなものではないが、その機能を拡張し、欠けている部分を補ってくれる。
AxonomのCOO、Mike BelongieによればVR Design Viewerは「顧客に3Dの製品デザインや建物の間取りを没入環境で伝えるための最も経済的かつ説得力のある方法」だ。モバイルVR用のVR Design ViewerはハイエンドVRシステムを要求するVroomに比べて利便性が高いだけでなく、コストが安いことも魅力となる。
VroomとVR Design Viewerを含めたVRデザインビューワが特に有効に利用され得る業種として、不動産業が挙げられる。
建物の設計図・間取り図から建築後の完成形をイメージするのは素人である顧客には難しい。VR空間で完成後の姿を見ておいてもらうことで、工事が終わってから不満が出て来るリスクを抑える効果が期待できる。
これはインテリア関係でも同様だ。AxonomのクライアントのZebra Altheticsは、VR Design Viewerを利用している。彼らの顧客は武道の道場やフィットネスジム、ヨガスタジオであり、施設内で使用する床材、マット、トレーニングマシンの種類や配置を検討するためにVRビューワが有効に働いているという。
また、記事上部の画像でもサンプルとして使用されていた医療機器の場合もインテリアと事情が似ている。コストが大きいだけに実際の導入に向けてのすり合わせが不可欠であり、事前に体験してもらう効果が大きいのだ。
処置室での動線の確保や患者に圧迫感を与えない配置まで詳細を詰めておくのが望ましい。仕様を数字で説明しただけではサイズ感が掴みにくく「思ったより大きくて邪魔になる」といったことが起きるが、VR体験をしておけばその心配もないだろう。
最近ではスマートフォンのARプラットフォームが進化しており、家具の配置を確認するために使えるアプリも登場している。インテリアのデザインを導入予定の室内で確認するような用途では、VRではなくARを使う方法も主流となっていくかもしれない。
一方、不動産の分野ではVRが有効になる場面が多そうだ。ARは現実の上にオブジェクトを表示するので、狭い場所で使うと空間の広がりを感じにくい。事務所内や製品を展示するイベントの会場でVRモデルハウスを内覧してもらうなら、ARよりもVRが適しているだろう。
今回Axonomが発表したVR Design ViewerはCardboardプラットフォームで利用でき、低コストかつ利便性が高いのが特徴だ。手軽さがウリという性質から将来的にはARやスタンドアロンデバイスでのVRに立場を奪われていく可能性もあるが、しばらくは扱いやすいツールとして利用されることになりそうだ。
Copyright ©2017 VR Inside All Rights Reserved.