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我々の想像するVRとは、視界を覆うヘッドセットであろう。
しかし、それはあくまでもビジュアル面の一様式に過ぎない。「VR」とは「仮想現実」を指す略語だから、それさえ達成できればあの形のヘッドセットにこだわらなくてもいいはずだ。
この記事では「全てを覆わないVR」をご紹介しよう。
株式会社JVCケンウッド・デザインが開発した『フォレストノーツ・スコープVR(以下FN Scope VR)』という製品がある。
VRという名がついているからヘッドセットがあると思いきや、見た目は望遠鏡そのもの。先端にはタブレットの差し込みスペースがある。中を覗くと、映るのは緑映える森だ。
雄大な自然の中でマークにポイントを合わせると、今度は様々な種類の鳥が現れる。オオルリ、シジュウカラはよく見るかもしれないが、アカショウビンなどはめったに見かけることのない珍しい鳥だ。
このFN Scope VRは、疑似バードウォッチングを目的とした機器である。
JVCケンウッド・デザインは『フォレスト・ノーツ』というライブ配信サービスを展開している。
これは全国各地の森に設置されたマイクから自然の音声を拾い、ネット中継するというもの。世界的にも極めて珍しい「森の音だけを配信するサービス」である。世界遺産の白神山地、屋久島、そして志賀高原や飛騨高山などがラインナップされている。
その音声収録作業の中で、開発チームが実際にバードウォッチングをしたそうだ。その際の感動が忘れられず、「ならば都会でバードウォッチングを」ということでFN Scope VRが開発された。
我が国日本は、国土の7割を山地が占める島嶼国家である。しかも亜寒帯から亜熱帯にかけて国土が伸び、極めて複雑な生態系を構築している。このような国は他にない。
アカショウビンは東南アジアからやって来る渡り鳥である。燃える火のような赤色が特徴だ。これを本物のバードウォッチングで見つけようと思ったら、相当の根気がいる。
だからこそ、アカショウビンを望遠鏡で見つけた時の感動は大きい。FN Scope VRは、その時の感動に基づいて製作されたのだ。
この製品は、今年8月に開催された『Maker Faire 2017』に合わせて公開された。
イベント出展を目的とする製品のため、市場展開はされていない。あくまでも企画展来場者に向けたものだ。
さらに言えば、FN Scope VRは子供たちとともにある。
この製品が全視界を覆うヘッドセットを採用しなかったのは、言うなれば「故意のトリミング」である。大人ならば「不十分な要素」と見なすだろうが、子供はそれを自らの遊びの道具として捉える。FN Scope VRの操作は望遠鏡と同じだから、使用者は三脚の周囲を旋回しなければならない。これを「不便」と感じるのは、恐らくその人が大人だからだ。
子供は大人が煩わしく考える「不便」や「足りない部分」を、ある種のアドベンチャー要素として解釈する。小学生が自転車で自宅から十数キロも離れた場所へ行くのと同じように、FN Scope VRを覗く子供たちはいつまでもいつまでも三脚の周りを往復する。そうしてようやく見つけた鳥の姿を、彼らは決して忘れない。
Maker Faire 2017に登場したFN Scope VRの前には、最後まで子供たちの列が途切れることはなかった。
FN Scope VRには、片手で扱える『mini』も存在する。こちらはスマートフォンを差し込んで使う。片目で覗くという方法はFN Scope VRと変わらない。
視聴するのではなく、覗き見る。敢えてそのような機構を取り入れることによって、子供たちに「日本の広さ」を教えることができる。最先端テクノロジーは、それを作った人とともに発展していくべきである。
そうしたことをすでに達成しているFN Scope VRは、まさに今注目すべきVR機器と言える。
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