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VRやARの技術は、医療業界でも採用が進んでいる。VRを使ったシミュレーションで手術内容の確認や事前練習を行ったり、ARで医療行為をサポートしたりといった「医療者がデバイス/技術を利用する」例だけでなく、患者の不安や痛みを軽減するためにVRデバイスを使う例もある。
以前からVRの利用中に患者が痛みを感じにくくなることが報告されていたが、それは単にVRが患者の気を紛らわせる道具になっているからではないかもしれない。最近の研究で、VRによって神経接続が変化し、痛みを感じにくくなっている可能性が示唆されている。
スポーツの試合中に怪我をしたことに気づかずにプレーを続行して、試合終了後に急に痛みを感じるということがある。これは試合中の興奮状態によって痛みを感じにくくなっているために起きることで、ときには骨折していたのに気づかないということもあるようだ。
そこまで大げさなものでなくても、虫に刺されたことに気づくと急に痒みが気になり始めるといった経験は珍しいものではない。
VRを使うことで痛みを軽減できる理由の一つは、患者の意識を違うところに持っていくことができるからだ。VRではない2Dのゲームであっても夢中でプレイしていれば痛みを忘れることもあるはずだが、没入感のあるVR映像やVRゲームならばより効果的だと考えられる。
こちらの効果についてもまだ研究例が少ない。引き続き研究が必要な分野ではあるが、子供たちが注射を受けるときの恐怖と痛みを取り除くためにVRを使ったり、麻酔ではなくVRで出産時の痛みを緩和したりといった方法が利用され始めている。
今後研究が進めば、さらに効率的に痛みを抑えてくれるVRコンテンツも作られるようになっていくだろう。
怪我の痛みであれば、傷が治れば感じることはなくなる。だが、慢性的に痛みを感じるような病気も存在する。痛みによって外出が制限されたり、患者が不機嫌になってしまうために社会的に孤立したりと厄介な病だ。
こうした慢性的な痛みのコントロールにも、VRは有効だと示唆する研究結果がある。
慢性的な痛みをVRの使用によって軽減することができれば、鎮痛剤の使用量や頻度を減らすことができるかもしれないと期待されている。鎮痛剤は痛みを抑えることで患者の苦しみを取り除いてくれるが、根本的な治療法ではない。慢性化した痛みに漫然と鎮痛剤の投与を続ければ、かえって身体にダメージを与えることにもなりかねない。
この研究の結果で注目すべきは、VR技術の利用によって痛みを軽減できたという点だけではない。痛みを軽減する効果がVR映像を視聴している間だけでなく、その後も継続した点が重要だ。
モバイルVRのアプリを使った実験では、VR体験の後も6時間から長ければ48時間も痛みを軽減する効果が続いたという。
VRコンテンツの利用中に痛みを感じにくくなるのは、患者がVRに集中しているためだと考えられる。だが、なぜVRの利用後も痛みを抑えることができるのだろうか。
この理由を、脳の神経が変化しているからではないかと考えている研究者もいる。
脳は必要に応じて自分自身を再配線する能力を持っており、ある事象に対してどのように感じるかを変えることもできる。VRを用いた認知行動療法や曝露療法によって恐怖症の治療が可能とされているのもそのためだ。
痛みに敏感な状態になってしまっている脳を少しだけ鈍感にすることができれば、鎮痛剤を減らしても今までと変わらず生活できるようになるかもしれない。
プリンストン大学のAnita GuptaはこうしたVRによる痛みへの対処に期待する研究者だが、同時にまだ研究が不足していることを指摘してもいる。確かにこれまでの研究結果は可能性を感じるものだ。しかし、報告された研究自体が少ないことに加えて対象となった患者の数も十数人から50人程度と少ない研究が多い。
鎮痛剤を投与するばかりでなくVRによって痛みに対処するというオプションが生まれることは望ましいが、本当に効果があるのか(どのような条件で、どの程度の効果があるのか)を見極めるためにはまだまだ研究が必要だ。
スウェーデンのチャルマース工科大学の研究者、Max Ortiz Catalanは過剰な期待を抑えるように警告している。
バーチャルリアリティは治療に利用できる可能性のある新しいツールだが、あくまでもツールの一つである。治療の一貫として利用されるべきものであり、「VRがあるから鎮痛剤や通院での治療が不要」という特別な方法ではないのだ。
症状に苦しむ患者が新しい治療法の効果に期待を寄せるのは当然だが、過度な期待は禁物だ。家庭で利用できるVRコンテンツがあるからといって病院に行かなくなるといったことだけは避けなくてはならない。
VRには、鎮痛剤の使用量を減らすといった明確な有効性が示されていないこと以外にも問題がある。VR酔いの存在や、デバイスの価格が高いことがそれだ。
個人差やその日の体調、体験するコンテンツにも左右されるので全てのVRユーザがVR酔いを経験するわけではないが、VRによって乗り物酔いのような吐き気やめまいといった症状が引き起こされることがあるのは事実である。特に初めてVRに触れるユーザや普段画面を見ることが少ないユーザは気分が悪くなってしまう可能性が高いので、試してもらうにはリスクがある。
VRデバイスの価格は下がってきているものの、安くはない。病院が患者のために複数の効果もはっきりしないVRデバイスを準備するのは難しいだろう。
VRによって一時的に痛みを抑えるだけでなく、痛みを感じにくい身体を作っていける可能性まで指摘されている。しかし、現時点では効果がはっきりしていないのが最大の問題だ。
規模の大きな研究が行われてその有効性が確かめられれば、治療の一部としてVRを取り入れる施設も増えるだろう。複数の研究機関が痛みとVRに関する研究を行っている・行うことを予定しているので、まずはそれらの結果が出てくるのを待ちたい。
参照元サイト名:Daily Mail
参照元サイト名:Natural News
参照元サイト名:VR Room
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