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一方、まだまだ一部の先進的なユーザーが楽しんでいるという状況で、PCやスマートフォンのレベルで一般に広く普及しているとは言い難い状況だ。
こうした状況から、VR/ARがさらに普及していくためには、業界に参画する企業やクリエイター、業界団体の努力のみならず、国の支援も重要といえる。
そこで、今後VR/AR市場が拡大していくことを狙って、経済産業省がVR/ARに関する動向調査を行い、その結果を「平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備報告書」としてまとめている。
この記事では、この報告書の要点についてご紹介したい。
報告書では、VR/ARの市場動向を6章に分けてまとめている。
第1章は動向調査の概要となっており、本格的な情報は第2章から。
第2章の内容は、VR/ARの取り込みを行っている企業についてのヒアリング分析。
ヒアリング対象の国内企業は、プレイステーションVR(PSVR)のソニーをはじめ、株式会社ハコスコや株式会社電通、株式会社博報堂、NTTドコモやKDDI株式会社、ソフトバンク株式会社など、代表的なところがしっかり押さえられている。
第3章は、海外のVR/AR関連イベントの調査・分析。
第4章は、VRにおいて最も大きな課題ともいえる「VR酔い」と「移動方法」について、VRコンテンツを実際に開発した上での検証結果をまとめている。
第5章は、ヘッドマウントディスプレイの今後のロードマックと、国際標準化動向について。
そして、第6章が総括となっている。
いずれの章も、VRコンテンツに携わる人や企業にとっては興味深い内容が記載されているが、中でも興味深かったのは、現状や課題が集約された第2章と、「VR酔い」への基本的な対策がまとめられた第4章、そして、本報告書の提言が集約された第6章だ。
そこで、この記事ではここから第2章、第4章、第6章それぞれのポイントを取り上げていきたい。
国内企業についてのヒアリング分析の結果、VRは一般消費者が手に取れる段階に差し掛かっているものの、一般への普及には時間がかかるとされている。
事業活動において最も重要といえるマネタイズまで至っている企業はほどんど存在せず、提供されるサービスやコンテンツもVRの特徴を活かしきってはいない。
つまり、市場に普及するためのスタート地点であり、そのための試行錯誤が繰り返されている状況だというのが現状分析だ。
その中で興味深いのが、今後5年以内には一般的なツールになるとの見方が示されてるとともに、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催をターゲットとしている企業が多いという記載。
世界的なイベントであるオリンピック・パラリンピックと、普及の足並みを揃えることができれば、5年後にはVR/ARがPC/スマートフォンなみに普及している…ということも十分考えられそうだ。
また、第2章ではVRの特徴を各産業にどう応用させるか?についても、まとめられている。
まだVRビジネスに参画していないものの、今後…とくに東京2020オリンピック・パラリンピックまでにはVRに参画したいと狙っている企業・クリエイターにとっては重要な情報だ。
各産業への応用可能性
体験を活かせる分野 | 防災、教育、報道、シミュレーション、トレーニング、福祉、広告等 |
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地理的、時間的制約を減らすことができる分野 | 観光、ライブコンサート、スポーツ観戦、自動車の試乗等 |
3Dデータを活用できる分野 | 医療、建築、不動産等 |
第2章には、今後VR/AR業界が拡大していく上で、業界が共通して持っている課題もまとめられている。
業界共通の課題であるため、VR/ARのデバイスやコンテンツを直接開発するメインプレイヤーではなく、メインプレイヤーをサポートするための商品やサービスを提供することでビジネスを立ち上げたいと考えている企業・クリエイターにとっては重要な情報だ。
・ 事業としてスケールしにくく、ビジネスモデルが定まらない
・ 参加企業の数が少ない
・ コンテンツ制作のノウハウが確立されていない
・ コンテンツ制作の人材が不足している。制作需要確保も見込めないため、継続的な雇用に踏み切れない。さらに人材が流動していない
・ VR業界内のコミュニティが弱い
VRデバイスが持つ大きな課題が、「VR酔い」。
楽しさや利便性を提供するためのデバイス・コンテンツが、使い人の体質や使用時間によっては不快なものになってしまう…という重要性の高い課題だ。
第4章では、この課題について、実際にVRコンテンツを開発した上での検証結果が記載されている。
検証に用いられたVRコンテンツは、実際にトランポリンの上でジャンプするという体験と、ヘッドマウントディスプレイによるVR映像が組み合わさった「オムニジャンプ」というもの。
この「オムニジャンプ」を2016年10月27日~30日に開催された「デジタルコンテンツEXPO2016」に体験型展示として出展、体験者に対するアンケート調査を行うとともに、体験者毎のログデータを取得する形で検証が行われた。
検証の結果、気分を悪くした参加者は10%程度。
ただし、「デジタルコンテンツEXPO2016」という最先端の技術展示イベントで検証したことから、男性でVR経験者が多く、VR酔いをしたことがないという人が多かったようだ。
そうした中でも、傾向として浮かび上がってきたのは、「何かに酔いやすい人は、他のものにも酔いやすい傾向がある可能性がある」ということ。
そして、「コンテンツを楽しいと感じていた人は気分が悪くならない傾向がみられる」こと。
また、トランポリンという激しい運動を伴っていたため、「交感神経優位の状態になりVR酔いといった副交感神経の活動が抑制された可能性がある」とともに「能動的に行動したことによって、体性感覚と映像の不一致が減少した可能性があること」などが記載されている。
これらは推測に留まる部分も多いが、一読した限り直観的にもうなづけることが多いため、今後VRコンテンツを開発する上での参考として大いに利用できそうだ。
第6章では、動向調査の総括として、VR/ARの今後の可能性及び課題が示されている。
その中では、VR/ARを一過性のブームではなく中長期的な産業としていく上で、国に求められる役割が多いとした上で、具体的な支援策について挙げられている。
ひとつは、VR/ARのコンテンツ制作やビジネス活用、技術開発を促進するための資金面での支援や環境整備。
確固たるマネタイズ手段が確立されていない現状においては、資金面での支援や、マネタイズ手段を含めたビジネスモデルを立ち上げようとする起業家への支援は必須といっていいだろう。
また、一般への普及を後押しする支援として、クリエイティブ人材の育成支援や、VR酔いについての評価基準策定、2020年オリンピックにおけるVR/ARの活用推進などについても触れられている。
「電話」や「タッチで気軽に使える」といったわかりやすい特長を持ったスマートフォンとは違い、VR/ARは体験するまでその特長を理解することが難しい。
多くの人にVRを体験してもらうためには、企業や業界といった枠組みを超えて、体験できる場(タッチポイント)を増やす必要がある。
そのためには国家的な支援も重要と言えるだろう。
東京2020オリンピック・パラリンピックとVR/ARの普及が相乗効果を生めば、大きな経済効果も期待でき、国にとってもリターンがあるはずだ。
一般に大きく普及したデバイス…というと、どうしてもPCやスマートフォンをイメージしてしまうが、その前に「家にあって当たり前」というほど大きく普及したデバイスが、カラーテレビだ。
そして、カラーテレビ普及のきっかけとなったのが、1964年に行われた前回の東京オリンピックだ。
1964年の東京オリンピック時点で即座にカラーテレビの普及が進んだわけではないが、東京オリンピック以降、値下げをはじめとしてメーカーのプロモーションに力を入れたため、カラーテレビの普及が進んだ。
1964年当時と比較すると、現在は、スマートフォンアプリやWEBサイトに電子書籍と娯楽に溢れており、オリンピックの存在感が相対的に小さくなっている可能性がある。
しかし、それでもなお、オリンピックが世界的な存在感を持ったイベントであることに変わりはない。
何より、オリンピックを「体感」した人というのは、現在でも少ない。
このため、オリンピックを「体感」できてしまうことが、VR普及の強い武器となることは間違いないだろう。
2020年までの2~3年、VR/ARの課題をどれだけ解決できるかが、一般普及のカギとなりそうだ。
参考資料:http://www.dcaj.or.jp/project/report/pdf/2016/dc_16_02.pdf
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