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現状ではゲーム・コンテンツが多数を占めているVR市場であるが、VRが新たなマーケティング・メディアになる可能性があると考えるマーケターは少なくない。
そのように考えるマーケターにとって、VRソーシャルアプリとして最高の完成度をほこるFacebook社開発の「Facebook Spaces」のリリースは大きな刺激であった。
ソーシャルメディア企業Society Hong Kongを率いるPenny Chowは、Facebook Spacesをマーケティング・ツールに活用する可能性に関して、以下のように述べている。
マーケターというのは、ユーザー体験を強化するために適切かつ実用的なコンテンツを最適なタイミングで届けることを考えています。
未来においては、こうしたユーザー体験は多元的な体験となるでしょう。Facebook Spacesに代表されるようなバーチャルな環境では、Facebookに投稿された画像や動画を使って、360°画像や動画を作ることができますFacebook Spacesのこうした機能は、マーケティング・ツールとして360°コンテンツを制作する大きな動機づけとなります。というのも、360°動画を使って、ユーザーを獲得することができるでしょうから。
360°動画が視聴者に与える影響を説明する概念として、「共感装置」という言葉がよく使われる。360°動画は圧倒的な没入感を視聴者に体験させるので、視聴者は没入しているバーチャルな状況に感情移入してしまうのである。この機能は、例えばシリア難民の惨状を伝えるような「シリアスな」コンテンツに応用されることが多い。
ただ、この「共感装置」としての機能はむしろマーケティングのようなユーザーの心理に働きかけることを目的としたコンテクストにおいて使用されてこそ、その威力を遺憾なく発揮するだろう。
360°動画をはじめとしたVRコンテンツには、エンターテインメント体験を提供するに留まらない可能性があるのだ。
しかし、「共感」を誘発するようなVRの「ソーシャル」な活用は、現時点では全く日の目を見ていない。
本メディアで以前に報じたESAが実施したVRユーザーの調査によると、VRユーザーに対してVRデバイスを何に使っているか尋ねたところ、「シングルゲームのプレイ」が最多の回答となり、「ソーシャルな目的」という答えは最下位であった(下の画像を参照)。
だが、上記の調査結果を鵜呑みにするのは早計であろう。なぜならば、現在のVRユーザーの大半はVRゲームがプレイしたくてVRデバイスに手を出した、と推測されるからだ。反対に、世の中にはゲームには興味はないがVRには興味がある「潜在的な」VRユーザーもいるはずだ。上記の調査は、そもそもの対象グループが「VRゲームのアーリーアダプター」というかなり特殊な属性をもっている可能性が大いにある。そうした特殊なグループを対象とした調査は、時としてバイアスのかかった結果を導いてしまうのではなかろうか。
調査会社Greenlight Insightは、2017年5月17日、調査対象をVRデバイスをまだ入手していない「一般ユーザー」も含めたうえで実施されたVRに関する意識調査の結果を発表した。
同調査は、アメリカ在住の18~70歳の一般消費者2,000人を対象にして実施された。この2,000人のなかには、VRユーザーもいれば非VRユーザーもいる。調査の結果、以下のことが判明した。
以上の結果は、VRユーザーと非VRユーザーがともに潜在的にはソーシャルVR体験をしたいと思っている、という現実を示唆している。
考察の角度を変えて、今度は現在VRのメインユーザーである「ゲーマー」という属性に焦点を当てた調査結果を見てみたい。
海外ゲームメディアBigfishgamesは、2017年4月5日、アメリカの(VRゲーマーに限定されない)一般ゲーマーに関する統計調査結果を公開した。同調査の内容は多岐にわたっているのだが、注目すべきは「ソーシャル体験の場所としてのゲームプレイ」と題された項目の調査結果だ。その結果が以下である。
以上の結果は、多くのゲーマーがゲームプレイこそ楽しいソーシャル体験だと思っていることを示している。
以上の結果を踏まえると、上に引用したVRユーザーの行動に関する調査結果に新たな側面を見出すことができる。つまり、VRユーザーが「シングルプレイのゲーム」に時間を費やすのは、「シングルゲームが好きだから」というよりは「面白いマルチプレイのVRゲーム」がまだ少ないからに過ぎないのではないか。
以上のように複数の調査結果を総合すると、次のようなことが言えるのではなかろうか。VRをより普及させるためには、敷居の低い「VRソーシャル体験の入り口」を作ればよいのではなかろうか。というのも、ゲーマーであれ非ゲーマーであれ、潜在的にVRソーシャル体験を求めているのだから。
だがしかし、Facebook SpacesをはじめとするVRソーシャルアプリは、悪循環に陥っているように思われる。どんな「最良な」VRソーシャル体験を提供するアプリをリリースしても、肝心のユーザーが少ないから楽しめない、だからユーザー数も増えない、という悪循環だ。こうした悪循環が起こっているならば、VRソーシャルアプリは敷居の低い「VRソーシャル体験の入り口」にはなりえない。
ここに至ってようやく本記事冒頭に述べたことに行き着く。「VRソーシャル体験の入り口」は、実のところ、VRゲームにこそ求めるべきではなかろうか。
VRゲーマーがすでに多数存在している以上、高品質であればVRマルチプレイゲームがヒットする可能性は十分にある。そして、ゲームを通して、「VRソーシャル体験」の魅力を知ってもらう。「バーチャル空間で友だちと一緒に時間を過ごすこと」の楽しさがわかれば、友だちと一緒に過ごす手段がゲームでなくてもよいことにいずれ気づくだろう。そのようになれば、ゲームとは独立して友だちと一緒に時間を過ごすアプリにも注目が集まるはずだ。
結局のところ、ヒトはリアルであれバーチャルであれ他のヒトとつながることを求めているのだ。VRの更なる普及に必要なのは、ソーシャルなバーチャル体験を拡散することにあるのではなかろうか。そして、そのはじめの入り口がゲームであっても、別に構わないでなかろうか。
マーケターがVRソーシャル体験に関心を持っていることを報じたBusinessworldの記事
http://www.businessworld.in/article/Social-VR-The-Next-Gamechanger-/30-05-2017-119171/
ユーザーがVRソーシャル体験を求めていることを報告したGreenlight Insightのリリースノート
http://greenlightinsights.com/2017-consumer-report-released/
ゲーマーのソーシャルな行動に関する統計データを報じたbigfishgamesの記事
http://www.bigfishgames.com/blog/2017-video-game-trends-and-statistics-whos-playing-what-and-why/
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