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モントリオールのPhilippe-Pinel研究所では、統合失調症の治療にVRを利用するプロジェクトが進められている。単なるリラックスなどではなく、幻聴の軽減に効果があると期待されている。
使って自分にとって不快なことを言う悪魔とVRを使って対峙することで、それと戦う方法を身につけられるという。
この研究に参加したRichard Bretonは、20代前半に統合失調症と診断され、それ以来幻覚やパラノイアに苦しんでいるという。
彼は投薬や歴史のある治療を受けてきたが、幻覚から逃れることはできなかった。ときには病の症状によって彼の命や生活が危険に晒されることもあったと語る。
彼はエンジニアに彼を苦しめる「拷問者」のデザインを依頼した。
統合失調症の幻聴は患者自身が作り出しているものなので、患者が心の奥底で不安に思っていることや言われたくないと感じていることを的確に突いてくる。彼は拷問者のセリフのリストを提出した。
Philippe-Pinelの研究者であり、精神科医でもあるAlexandre Dumasは彼が提出したセリフのリストに目を通し、セッション中はすぐに患者と連携できる体制を整えている。
Bretonが悪魔と対面すると、悪魔は嫌らしく彼に語りかける。
「お前は良い父親ではない。誰もお前を愛していない」
実際のBretonは52歳で、二人の子を持つ父親だ。彼が作成したセリフのリストには、「自分が子供たちにとって良い父親ではないかもしれない」という不安を刺激する内容が含まれていた。
セッションを始めたばかりの頃、Bretonはこの侮辱に対して上手く対応することができなかった。しかし、心理学者のアドバイスとセッションの反復によって彼は言い返すことができるようになった。
彼は「私は善人だ」と悪魔の発言を否定できるようになったのである。
VRを使った内なる悪魔との対決は、Bretonに良い効果をもたらした。彼は自分の心と戦うことができるようになり、幻聴も80%から90%も抑えられているという。
このプロジェクトは彼が仕事に復帰するのを助け、彼が積極的に社会参加できるように後押しをしてくれたという。
「声はとても強大でした。どこへ行っても悪魔が追いかけてくるので、私は孤立した状態でした」
だが、このセッションを通して彼は社会との繋がりを回復させることができた。
幻聴をかなり抑えることができたBretonはプロジェクトの恩恵を受けた患者の例だが、彼にだけ効果があったわけではない。2015年の9月に開始されたこのプロジェクトにはPhilippe-Pinelの患者が19人参加しており、そのうち15人には大きな改善がみられたという。
Dumasはこの結果に満足している。2010年にイギリスで行われた研究と同様に、アメリカでもVRで統合失調症と戦うことの効果を示す数字が出ているのだ。
まだ実験に参加した患者のサンプル数は少ないが、Dumasは特に治療の難しい統合失調症患者にもこの方法が効果的かもしれないと期待している。
患者の中には、アニメーションするキャラクターがあまりリアルではないことで治療の効果が制限されてしまっていると考える人もいる。そのため、実験の第二段階ではPhilippe-Pinel研究所とOvaとのコラボレーションが行われる予定だ。
OvaはモントリオールのVR企業であり、このコラボレーションによって患者の内なる悪魔はより鮮明でリアルなキャラクターになる。
病気ではなくとも、精神的に疲れているときに内なる自分と口論をした経験がある人は多いのではないだろうか。相手が自分自身だからこそ、突かれると一番痛い場所を分かっているので辛いものだ。一人で考え続けても解決できない問題もある。
このプロジェクトでは相手が言ってくる内容を把握した医師がサポートしてくれるため、落ち着いて対処することができるだろう。VRで上手くあしらうことができるようになれば、一人のときでも向こうのペースに飲まれることを避けられる。
サンプル数が少なすぎて実際の効果はまだはっきりしないところがあるものの、アニメーション品質の強化によってさらに効果が出る患者が増えるかもしれない。精神疾患の治療は、医療の中でも特にVRの採用が期待できる分野だ。
参照元サイト名:CBC News
URL:http://www.cbc.ca/news/canada/montreal/montreal-pinel-schizophrenia-patient-avatar-1.4127552
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