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――麓さんが起業を志したきっかけは何だったのでしょうか。
僕は、阪神淡路大震災で被災し体育館に住んだことがあるんです。避難所では自衛隊が食料を配給してくれるんですけど、当時4,5歳だった僕は「何て世の中は不公平なんだ」と思いました。テレビでは東京のおいしいご飯を紹介しているのに、僕らだけ被災して食べるものや遊ぶものがなくなり、大切な人たちが亡くなって世の中はなんて不公平なんだと恨んでいました。
それ以降、僕は感受性が強くなりすぎて周りの人の悲しい、寂しいといった感情に強く感情移入するようになり、社会に適応できず学校へ行かなくなりました。中学生の頃は家に引きこもっていたんですけど、パソコンでゲームがつくれると知り、ゲームを作ってみたら遊んで喜んでくれる人がいました。当時はもう、魔法を手に入れた感覚でしたね。あと、今も最前線で活躍されている著名な起業家の方々が注目されていて、こんな世界があるのかと衝撃を受けました。そこからは、僕の人生はITの力で世の中から悲しい、寂しいというような感情を無くし、幸せな世の中をつくるために使おうと決めました。ITの世界で生きていくと決めていたので、大学には進学せず二十歳で上京をしました。
――上京されてからは、どのような仕事をしていたんですか。
EC関連事業のベンチャー企業に内定したんですけど、内定証書の受取へ行ったら会議室にいたのは再生ファンドの人でした。経営不振で買収されていたんです。そこで、内定取り消しを言い渡されまして、東京で大きなことを成し遂げるために出てきたのにここで引き下がるわけにはいかず「僕はなんでもできます!採用して下さい!」とアピールし再生ファンドへ入社しました。早速、描いていたキャリアとズレましたね。あと、その会社がかなりブラックで初任給以降のお給料が資金繰りの影響で遅れました。ただ、社会のことがよくわかってないので「よくあるものかな」と思って、生活は大変でしたが「東京で大きなことを成し遂げる!」と言ってきた手前恥ずかしくて親に相談できず地元にも帰れないので、副業やキャッシングなどして必死に9ヶ月働きました。
そしてある時、ポケラボがシリコンバレーのファンドから10億円調達したニュースを見て、ポケラボのような成長企業に入らなければ、と思いました。面接では、創業者の佐々木さんに「起業したいので、一年で辞めます」と正直に伝えて入社をさせてもらったのですが、実際は会社が楽しくて6年間在籍していました。
2016年3月にポケラボを退社して、株式会社トピカを設立しました。トピカ(TOPICA)は、話題という意味のトピック<TOPIC>とアルファベットの始まりの<A>をくっつけたもので、話題が始まるという意味です。あと、僕が好きな哲学者のアリストテレスの本でトピカというものあるんですが、ギリシャ語で「場所」という意味です。なので、トピカは「話題で始まる場所」を作るためという会社の名前にしています。
――麓さんは、元々はエンジニアでいらっしゃんたんですね。
中学校の時にゲームにはまりすぎた結果、自分でゲームを作ろうと初めて触った言語がPerl言語でした。CGIゲームがあって、オープンソースを改変してネットに公開して遊んでいたのがプログラミングとの出会いですね。その後は、PHPやLAMP環境をやって、WEBデザイン、コーディングもやりましたね。引きこもりでコミュニケーション能力が低かったので、1人で完結できるようにしたくて。
ポケラボ入社はディレクター兼プログラマーで入社したんですけど、僕より後にアルバイトで入社してきた方がものすごく優秀だったんです。後にポケラボのリードエンジニアになる方なんですけど、その人を見て、僕と彼の能力の差にショックを感じ、エンジニアは不向きだと思いました。僕は物事を考えたりすることが好きなので、プランナー寄りのエンジニアになりました。楽しくて成果もでていましたが、どちらかに専念したほうが価値が出せると思ったのでエンジニアを諦め企画職に転向しました。
――すごい優秀なエンジニアと出会いが、その後の麓さんのキャリアを変えたんですね。
そうですね。僕なりのですが、ゲーム業界でプログラマーとしては能力高い人の共通点があって、帰宅して酒を飲みながらコードを書くんです。そして、土日もハッカソンとかゲームジャムなどに行ってコードを書いてて、コードを書くのが仕事ではなく生活の一部になっている。そういう人が最高なプログラマー、エンジニアだと思ったんです。
――コミュニケーションが苦手とおっしゃってましたが、企画職となるとそうはいってられませんよね。何か努力はされたのでしょうか。
ものづくりはチームプレーなので、一人では成り立たないと気が付きました。「いいものをつくりたい」がゴールなので、過程にある自分個人の課題は克服できました。また、ポケラボは当時スタートアップで市場の成長にメンバーが追い付かないと、会社が置いて行かれるというような世界だったので、全員がものすごい速度で成長していたんですね。自分が変わらないと置いて行かれる、この楽しい波に乗り遅れたくない一心でリーダーシップを意識して、話し方や伝え方も勉強しました。ただ、みんな「いいものをつくりたい」という想いは同じなので、熱をもって訴えればだいたい伝わるんですよね。
――元々、起業を志されていたと思うんですが、動画事業を選んだのはなぜでしょうか。
市場が伸びていて、且つ自分のこれまで培ってきたスキルやノウハウが活かせる領域で考えたら一番いいのが動画領域でした。料理動画でNo.1になれる可能性があるもの、単純に自分が食べたいものを作ったほうがいいなと思って、男性に振り切り「GOHAN(ゴハン)」をリリースしました。自宅の部屋の1つを潰して撮影場所にして、朝起きて飯を作りながら動画をとって、食べながら編集して夕方にアップするという流れで、3~4か月くらい1人でやっていました。なので、初期の動画は全てご飯です。
――「GOHAN」をリリースされたとき、手ごたえはいかがでしたか。
抜群にありました。これは経験則なのですが、自分で考えて実行したものは絶対ヒットしてて、逆に自分ごとできない要素が増えると失敗していました。「GOHAN」は自分が食べたいものやあったらいいと思う世界を作ったので、最初からヒットすると思っていた。時流にも乗り、今では日本で一番男性ユーザーが多い料理動画メディアになったので手ごたえはあります。
――レシピ動画メディアは競合も多いですが、「GOHAN」は今後どのようにされていくのでしょうか。
人の寂しいや辛いといった感情をなくすには、まずはユーザー様の感情のデータを集める必要があるので、それで立ち上げたのが「GOHAN」です。まずは、話題が始まる場所を作ろうと思いました。ただ、料理動画の領域で戦っていく気は無いんです。将来的には、ユーザーの感情を数値化した動画マーケティングのソリューションを展開したいと思っています。「GOHAN」はステップ1で、先日ステップ2となるTOPICA WORKS(トピカワークス)をリリースしました。「GOHAN」で培ったノウハウを基に、様々な企業の動画メディアを運営してブランド認知や、ユーザーコミュニケーションを担っています。僕たちは「GOHAN」の会社と思われることが多いんですけど、ステップ1で、目指す所は動画マーケティングの会社なんです。
――ユーザーの感情データを自社のデータベースに集めているのですね。
そうです。動画メディア運営に最適化されたツールを開発しています。各メディアが世の中に分散されていますが、各メディアの仕様を全て統合し数値管理できて最適な方法を提案するものになっています。例えばレシピ名を入力すると、半年前にユーザー様からの反応が悪いよと教えてくれます。今はそこにデータを蓄積している状態で、今後はオープンソースとして外部に公開しようと思っております。
――ステップ2となるTOPICA WORKSはどのようなサービスですか。
商品やコンテンツをを動画メディア化し、商品毎に「GOHAN」のようなメディアを作っています。動画制作から運用まで全て代行します。昨今消費者は、検索して情報を得る時代から、ソーシャルメディアなどで受動的に情報を得る時代に変わってきています。今までは企業が動画マーケティングやろうと思っても、担当者がやり方をわかっていなかったり、映像は制作会社で運営は代理店に任せるのですが、お互いに気持ちが分からないので話が進まないというケースも多いです。そういった課題の解決のために、僕たちは全てを代行しています。
――動画制作だけではなく、運営まで全て代行もされているんですね。
しています。ソーシャルメディアの運用担当者がどんなコメントが効果的かわからない、炎上が怖いということがよくあります。また、ノウハウが属人化され、会社に蓄積されにくいという課題もあります。それに対し、僕たちは「GOHAN」の成功事例を元に、SNSに最適化された動画作品づくりからユーザー様とのコミュニケーションも含めて運営を引き受けています。
――動画コンテンツは新しいトレンドとして出ているが、SNS自体は前からありますよね。今企業はどんな課題を抱えていますか。またトピカが提供するサービスのでは、どのような価値を提供していますか。
企業の認知獲得には、トリプルメディア理論と呼ばれ、オウンドメディアと呼ばれるホームページ、ペイドメディアと呼ばれる雑誌やテレビ、ネット広告などに出稿する認知、もう一個がアーンメディアと呼ばれてFacebookやインスタグラムなどのソーシャルメディアですね。今までは、記事を書いてソーシャルメディアに張り付けて集客するのが一般的でしたが、今の時代はそうではないです。
スマホの回線も太くなり、キャリア側も大容量通信プランを安く提供し始め、ユーザーがスマホでリッチなコンテンツを見れるようになりました。一方で、Facebookなどのプラットフォームの立場で考えると、ユーザーが動画を見るほうが滞在時間が伸び、テキストや画像よりもユーザーの満足度も高いです。その結果プラットフォーム側も動画を推奨するようになり、ユーザーは動画を目にする機会も増え受動的に情報が得られる環境ができた。オウンドメディアは勿論必要なんですけど、ニーズが顕在化されたユーザーが来る場所です。一方でソーシャルメディアは潜在的なユーザーで、トイレに行くときや電車に乗るとき、つまらない時などに開くので目的意識がないんです。そして、趣味嗜好によってターゲティングのアルゴリズムが働くのも良いところです。ソーシャルメディアでは、潜在ニーズを掘り起こしてコミュニケーション取れる場を提供できる。今までのやり方を変えるように企業に提案しています。
――今後、どのようなことに取り組んでいきたいですか。
会社の理念として、知らないことを無くすというものがあります。人にとって、情報を知らないことによる不幸が起きやすいと思っています。大好きなアリストテレスの名言で「すべての人間は生まれながらにして知らんことを欲す」というものがあるのですが、人はみんな物事を知りたいと思うんです。今の世の中では、情報が溢れすぎて知る機会を損失していると思うので、ユーザー様と情報のマッチングを最適化していきたいと思っているので、トピカとして話題が始まる場所を作って、ユーザー様と情報を結び付けることを会社としてやっていきたいです。
インタビュアー:新嘉喜りん(キラメックス株式会社 広報)