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――本日はよろしくお願いいたします。河原さんは、もともと大学でWebデザインを学ばれていらっしゃたのでしょうか。
そうです。情報デザイン学科というところで、広い意味でのサービスのデザインを学んでいました。当時はまだ世の中にスマートフォンも無かったんですけど、「未来はこういうデバイスが出てくるだろう」という想像で、色々なサービスの企画を作ったりしてました。
株式会社バンク 河原香奈子さん(デザイナー)
――想像のデバイスでサービスデザイン、とても面白そうです。卒業後は、出版社へご就職されたとお伺いしました。最初の就職先として、出版社のデザイナーを選択されたのはどうしてでしょうか。
その出版社が出している書籍がすごく好きだったんです。当時、その出版社ではこれからは紙だけじゃなく、Webマガジンも展開していきたいということで、新しく部署を作る話があり、自分の好きな領域で新しいことができるのは面白そうだなと思って入社しました。出版社時代はデザイナーが社内に私一人で、自由度も高くてすごく勉強になりました。ただ、数年経過したときに「もっといろいろなものを作り、表現の幅を広げたい」と思って、それが経験できるWeb制作会社に転職しました。
――制作会社では、どのようなお仕事をされていたのでしょうか。
Webデザインの仕事なのですが、クライアントさんの業種は幅広かったですね。そこでは基本的に1人1案件担当するんですけど、企業の担当者の方とミーティング、見積書の作成、納品、請求まで1人で全部やっていましたね。単純に降りてきた仕事をするのではなくて、お金のことも含めて一連の流れを経験できたのは良かったです。
――デザイナーの方が一連の業務をご担当されるのは珍しいですね。出版社時代とは、どのような点に一番違いを感じられましたか。
そうですね。出版社では自社のサービスだったので、ある程度自由に自分の裁量でできることが多かったですね。制作会社では、クライアントさんがいるので信頼関係を築くことをすごく大事にしていました。例えば、レスポンスを素早くすることなどですね。信頼関係を築くために、社会人3年目の私でもできることはなんだろうって思って。最善のアウトプットをするのは当然なんですけど、レスポンスを早くすることはスキル関係なくできるので、そういう努力をしていました。
――制作会社を経て、「STORES.jp」を運営する株式会社ブラケットへご入社されたんですよね。どのような理由があったのでしょうか。
制作会社に3年ほど在籍し一通りの流れを経験できてきたので、そろそろ新しいことに挑戦したいなと思っていたんです。あと、その制作会社ではクライアントワークだけじゃなく、自社でメディアを運営していたりイベントの開催もしていたのですね。そこで、自分たちでつくることの面白さを感じていて、サービスを根本の部分から作って、どんどん育てていくことをしたいなと考えていました。そのときにちょうど「STORES.jp」というサービスが出てきて、すごく感動したんです。デザインもそうですし、目指している世界観にも。見ていて、とにかくわくわくしたんです。「どういう人が作っているんだろう?」と思い、まずは話を聞きにいって、そのまま入社しました。
※「STORES.jp」は、最短2分で誰でも簡単にオンラインストアががつくれるWebサービス。
――「STORES.jp」の世界観に惹かれてご入社されたのですね。制作会社から、スタートアップの事業会社と新しい環境でのチャレンジに不安はなかったですか。
それは、かなりありました!私は7人目の社員で、サービスのローンチのときには外部のデザイナーさんにお願いしていたので、デザイナーの社員は私が1人目でした。それなのに、まずどのようにに仕事を進めたらいいのか分からなくて、戸惑ってしまいましたね。クライアントさんがいる場合は、最終的にクライアントさんが「OKです」と言ってくれればそれで終わりじゃないですか。でも、サービスって終わりも完成もなくて、「これがOKというのは誰がどういう風に決定するんだろう?」というところから、全然分からない状態でしたね。
――そこからデザイナーとして成長されるには、どのようなご経験があったのでしょうか。
何かものすごく「これで成長できた」という経験があるわけではないんですけれど、ありがたいことに4年弱ぐらい「STORES.jp」に携わることができ、その成長の過程を見続けることができました。そこまで、長い時間をかけてひとつのサービスに携われることって貴重なんじゃないかなと思います。振り返ると、色々と学びがありますね。
――制作会社と事業会社の両方のご経験が今の河原さんを形成されているものだと思うのですが、身につけられる力の違いはどのようなところにありますか。
あくまで私個人の話になりますが、制作会社だと色々作れる楽しみはありますね。自分の好き嫌いや得手不得手に関わらず、とにかくあらゆるジャンルの仕事ができます。そこに対して、自分なりにどう打ち返すかが面白さだと感じていましたね。デザイナーとしては、表現の幅や仕事のスピード感が身につけられたと思っています。
――事業会社で身につく力はどういったところでしょうか。
チームで、ひとつのものを作り育てていくということでしょうか。エンジニアや他の職種のメンバーと一緒に、ビジネス的な観点や、世の中の役に立つものを作るという観点でどうやったらサービスを成長させていけるかということを深く考えて作ることができると思います。
――「CASH」はどのように生まれたのでしょうか。
アイデア自体は、代表の光本(株式会社ブラケット創業者、株式会社バンク代表)に「こういうものをやりたい」と言われました。少額資金のニーズは潜在的にあるんじゃないかということを話していました。それを瞬間的に解決できるサービスは今までなかったので、自分たちなりに新しい見せ方で作ることができたら世の中を変えられるんじゃないかという想いでサービスを作っています。
※「CASH」は自分のアイテムをスマホで撮影し査定にかけると、一瞬で現金に変えられるアプリ。アイテムは査定後の2週間以内に事務局宛に送ります。
――「CASH」がリリースされたときに、世の中からはサービスモデルへの驚きの反応が多かったと思います。河原さん自身は、代表の光本氏からアイデアを聞いたときに、どう思われましたか。
すごく、びっくりしましたね笑。でも、光本の口癖が「狂ったことをしよう」なので、光本らしい考えだなと思いました。今まで4年ぐらい一緒に「STORES.jp」で仕事をしてきたので、その延長線上として出てきたアイデアというのは腑に落ちました。「そんなもの今まで見たことがないのでよく分からない」「本当に大丈夫なの?」という不安も少しだけありました。ですが、そのよく分からないものをかたちにしてみて、世の中でどのように機能するサービスになっていくのか見てみたいと思いました。
――「CASH」はリリース初日に3億円以上が現金化され大変話題となりましたが、その時河原さん自身はどのように感じられていらっしゃったのでしょうか。
初日16時間ぐらいでサービスを一度止めてしまったんですけれど、リリースする前はこんなにたくさんの方に使っていただけるとは思ってもいませんでした。最初はアーリーアダプターの方々が、試しに使ってくれるだろうと想定していていたんですけれど、想像以上にいろんな方に使っていただきまして、とてもびっくりしましたね。
――「CASH」のデザインではお金を「ポジティブ」に見せることに気をつけていらっしゃるとお伺いしました。「ポジティブ」を大事にした理由はどうしてでしょうか。
「CASH」のコンセプトを言葉だけでお伝えすると、「すぐにお金が手に入る」というものじゃないですか。「大丈夫なの?」とか「怪しい」って捉えられてしまうと思うんですよね。それを、いかに世の中に受け入れてもらえるか、見せ方は重要だなと思ってました。お金って、ちょっと怖いと感じるところがある反面、どうしても生活には必要なものですよね。そういった面をうまくデザインで表現できればと思って、「ポジティブ」というキーワードを使っています。
――「CASH」を利用していて、アニメーションが印象的だと感じたのですが、アニメーションをタイミングなどはどのように決めているのでしょうか。
アニメーションを入れすぎると操作するときに邪魔になっちゃったり、うっとうしく感じてしまうと思うので、「ここぞ!」というところに入れるようにしています。目の前のものがすぐお金に変わるって現実にはなくて、アプリの中の仮想で起こる出来事じゃないですか。実際にはものは目の前にまだあって、アプリの中にはお金が入っている。その現実とアプリ内の繋ぎ込みの役割として、アニメーションを使うようにしています。なので、そういった意味のあるところにアニメーションを使うようにしていますね。
例えば、写真を撮ると金額が出るんですけれど、そこの間にものとお金のアイコンが交互に変わるようなアニメーションが入っていたりするんですよね。これは「ものがお金に変わっているんだよ」ということを視覚的に表現しています。あとはものを撮ったときに、黄色い円の中にもののアイコンが画として入っているというような表現があるのですが、その辺りも、「アプリの世界の中ではこのものはお金に変換されている」ということを、あまり説明的にはならない程度に、ただ視覚的に表現するようにしています。
――「CASH」は、自分の物を写真に撮るとアプリ内にお金が振り込まれるという、今までにユーザー体験したことのないのサービスだったと思います。そういった、これまでにユーザーが経験したことのないサービスをデザインする際に気をつけていることはありますか。
アプリ自体で、できることを最低限にしています。「CASH」のUIもそんなに複雑ではないと思っています。私自身が、あまり複雑なものが好きじゃないのと、どちらかというと金融などのリテラシーも高くない側の人間だと思っているんですね。なので、自分でもすんなり分かるというのは指標にしています。あとは、デザインをするときに、「本当に、これ以上絶対削れる要素は無いのか」というのはいつも気にしています。「あってもいいよね」みたいなものはとりあえず無くします。一番削ぎ落とした状態で、このサービスを表現したらどうなるかというところからデザインを始めますね。シンプルに保つところは凄く気をつけています。
――事業会社でサービスをデザインをするプロセスで、気をつけていることなどはありますか。
「この事業の可能性ってこういうところにあるよね」ということを可視化できるというのがデザイナーとして、自分がいる意味だと思っています。議論のときに会話だけだと、分かっている雰囲気になったとしても、実はそれぞれの頭の中にあるものはバラバラだったり、微妙にズレてることってあると思うんですよ。でも、デザイナーは「それって、こういうことだよね」というものを目に見えるものとして出すことができるので、みんなの意識も統一されてより価値の高いディスカッションができると思います。物事を前に進めていくためのデザインを大事にしていますね。
――早くプロトタイプを作ることを大事にされていらっしゃるのですね。
そうですね。やっぱり何か見えるものを作れることが一番武器だと思っています。しかも、素早く作るというところ。制作会社のときに常に時間に追われていたので、手を動かすスピードは比較的速いんじゃないかと思っています。素早く作ることができれば、軌道修正もすぐにできますので。スピード感と、どんどん目に見えるものを作ることを常に考えています。
――河原さんご自身が、デザイナーとして日常のなかで気をつけていることや意識されていることはありますか。
サービスのデザインは、アプリなどのインターフェースを通じて人間の行動や習慣を変えることだと思っています。なので、自分が生活する上でのあらゆることが自分のデザインに繋がっているなと思っていますね。例えば、お店に行ったときも、接客を観察してみたり。あとは、空間作りやお客さんの導線を考えてどう設計されているのかなとか気にしていますね。アプリをつくるからといって、アプリだけを見るんじゃなくて、人がいる場全体を参考にできるように常にアンテナを張っておくことを大事にしています。
他には、デザイン系の展示会などもよく行きます。来場者が参加できる展示は特に好きで、見ていると一般の人ってこういうものに反応するんだとか、展示会そのものの造りもとても参考になるんです。そういった場には普段から積極的に行くようにしています。
――デザイナーとしてお仕事をされていて、嬉しい瞬間はどんなときでしょうか。
自分たちの頭の中だけにあったものが、ちゃんとプロダクトとして完成して、それを使っていただけているということが、もうすごい喜びですね。「CASH」も自分たちが作っていたときに想像していた以上に、いろんな方々が普通に使っていただいてて、その「普通に使っていただけている」の断片をSNSなどで見かけるたびに、自分たちがやっていることが世の中の誰かの生活を変えているのかもしれないと思えるんです。その瞬間が一番嬉しいです。
――デザイナーとしてキャリアを積み上げていくにあたり、大事にされていることはありますか。
振り返ると、これまで自分がやったことがないことができそうなところに行ってみることでしょうか。自分ができないことに対して、ちゃんと向き合ったときに成長できるのかなと思うので。もちろん、全くスキルが足りないといい結果には繋がらないので、自分が最低限できる範囲は押さえつつも、未知なるところに身を置いてみるのが良いんじゃないかなと思っています。今も、これからどうなるのか全然分からないんです笑。これからのことも分かっちゃうとやっぱり「それに向けてやればいい」という風になってしまい、面白くないと思うので、常に「これからどうなるか分からないよね」という状態にしていたいなと思います。
「CASH」を運営する株式会社バンクでは、いままでにはない「新しい事業」「新しい価値」「新しい市場」を一緒に創ってくれるメンバーを募集しています。
インタビュアー:新嘉喜りん(キラメックス株式会社 広報)