TOKYO, Oct 31, 2022 - (JCN Newswire) - 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)と株式会社NTTドコモ(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:井伊 基之、以下「ドコモ」)と日本電気株式会社(本社:東京都港区、代表取締役 執行役員社長 兼 CEO:森田 隆之、以下「NEC」)は、28GHz帯を用いた分散MIMO※1において、エリア内の無線伝搬状況や移動端末の位置などの環境情報をシステム自身が把握し、環境に応じて基地局の分散アンテナを動的に切り替える技術(以下、本技術)の実証実験を実施し、世界で初めて※2成功しました。

これにより、ショッピングモールや工場など多数の遮蔽物がある環境でも、高周波数帯無線を、安定した大容量無線伝送に活用できる可能性を示しました。また、分散MIMOを用いて遮蔽物の位置を検出する無線センシング技術や、分散MIMOの広エリア化を実現する、次世代ICTコミュニケーション基盤の構想であるIOWN※3の光無線融合技術の一つであるA-RoF(Analog Radio over Fiber)※4伝送技術の基礎実証も行いました。今後は、28GHz帯よりもさらに高い周波数帯での実証や、人体など遮蔽物が変動する環境など、分散MIMOの適用周波数とユースケースの拡大に向けて、実証実験を進めてまいります。

なお、本技術については2022年11月16日(水)~18日(金)に開催予定の「NTT R&Dフォーラム Road to IOWN 2022」※5にて紹介します。

1.背景

5G Evolution & 6Gでは、サイバー・フィジカル融合での実世界での映像・センシング情報の収集や、五感による体感品質の情報伝送や雰囲気、安心感などの感覚も含めた多感通信などの実現に期待が集まっています。これらの実現には無線通信の更なる高速化・大容量化が必須であり、現在の5Gよりもさらに周波数が高いミリ波帯やサブテラヘルツ帯を移動通信に活用することが検討されています。

これら高周波数帯は遮蔽物による電波伝搬の減衰が大きいため、遮蔽物対策が重要となります。1つの基地局から多数のアンテナを分散配置し(以下、「分散アンテナ」)、移動端末に対して複数方向から無線伝送する高周波数帯分散MIMOは有力な解決手段の一つです。しかし、高周波数帯は、所要の無線伝送距離を確保するためにはアンテナの電波放射を特定方向に集中させる必要があるため、環境に応じて分散アンテナを選択する動的な無線伝送制御が必要です。

移動端末と各分散アンテナ間の接続可否は、分散アンテナごとの無線品質情報を取得することで判断できます。電波が回り込む低周波数帯では、柱などで遮蔽される位置に移動端末が移動しても無線品質の変動は緩やかですが、高周波数帯では無線品質の変動が急なため、切断が起きることがあります。切断が起きてから次の無線品質情報を取得するまでの間はこの切断状態を把握できず、その間は適切な分散アンテナを選択できない問題がありました。この解決には、GPS(Global Positioning System)、やカメラ映像など外部システムにより取得した移動端末の推定位置に基づき、事前に適切な分散アンテナに切り替える手法が考えられます。しかし、外部システムに対応した移動端末・エリアに限定されることや、位置情報を常時取得する仕組みが必要となるなど、適用条件が外部システムに依存します。そのため、システム外情報に依存せずに遮蔽物による切断に対しても適切な分散アンテナを選択できる技術が求められていました。

そこで、NTT、ドコモ、NECは2022年6月6日(月)に発表した高周波数帯分散MIMO技術の実証実験協力※6に基づき、本技術を検討し、その実証実験を2022年6月6日(月)~9月29日(木)に実施いたしました。

2.技術の概要と実験結果

2-1. 分散MIMOシステム自身が環境把握し、動的に分散アンテナを選択する技術

技術の概要

上記を解決するため、NECは分散アンテナを活用して分散MIMOシステム自身が移動端末の位置を予測し、適切な分散アンテナを選択する技術を開発しました。具体的には、エリア内の各位置で、各分散アンテナの無線品質を持続的に測定し、最適な分散アンテナを学習しておきます。そして、運用時に分散MIMOシステム自身が、各分散アンテナの無線品質を随時観測し、機械学習により移動端末の位置を推定します。さらに、過去の移動端末の推定位置から未来の移動を予測し、次の無線品質情報を取得するまでの移動端末位置と最適な分散アンテナを予測します。これにより、現在の無線品質情報から取得した分散アンテナだけでは、移動に伴う遮蔽により伝送性能の急な低下や切断の可能性がある場合でも、本技術により移動端末の予測位置を基にして分散アンテナを選択し、無線伝送を継続できるようになります。

実験結果

本技術の実証実験を広さは25×15×3.5m、実験エリア内に柱が4本存在する実験室(図1-1)で実施しました。使用した実験機は5G NR 28GHz帯の物理仕様に準拠しており、周波数帯28GHz、信号帯域100MHz、サブキャリア間隔60kHzのOFDM方式※7です。また、同軸ケーブル(長さ20m)により、基地局装置と6本の分散アンテナを接続しています。各分散アンテナは#0~#5の位置に合計6本設置し、図中の経路Y上に移動端末を台車で移動させて、分散アンテナ毎の無線品質情報を取得し、伝送性能を評価しました。

本技術活用時の相対受信強度(Relative Level:装置内の所定の基準との相対値)の特性を図1-2に示します。例えば、無線品質情報の取得間隔が20msで移動端末が自転車走行速度(15km/h)程度で移動した場合、現在の無線品質に基づいて分散アンテナを選択する従来方式では、柱で遮蔽される位置にて受信強度が平均13dB程度低下しました。一方で、本技術による移動予測に基づいて分散アンテナを選択した場合、同位置における受信強度の低下を従来に比べて平均8dB程度改善して5dB程度に留め、高周波数帯分散MIMOで懸念される瞬断の回避が可能であることを確認しました。これにより、移動時でも安定した、高周波数帯を用いた高速大容量通信の実現を期待できます。

2-2. 無線センシング技術

技術の概要

分散アンテナの選択技術の実現には、移動端末の位置に加えて、通信デバイスを持たない遮蔽物の位置の把握も重要となります。固定設置される遮蔽物については、前述したように事前に無線環境を学習することなどで対応できますが、人体などの移動する遮蔽物については対応が困難です。

そこで、NTTとドコモは、システム内で取得可能な無線品質情報から遮蔽物の位置推定を行う無線センシング技術を考案しました。具体的には、分散アンテナ間で定期的に取得したCSI(Channel State Information)※8からアンテナ間の相関情報に基づく時系列情報を抽出し、この情報を特徴量とした事前データに基づく機械学習を行うことで、遮蔽物の位置推定を行います。

実験結果

2-1章の検証と同じ実験場所と分散アンテナを用い、人体模型を遮蔽物と見立ててエリア内移動させ、本技術の実験検証を行いました。具体的には移動端末と各分散アンテナ間のCSIから抽出した時系列の特徴量を学習させ、運用時に改めて取得したCSIから人体模型の位置を推定させました。このように高周波数帯分散アンテナの系で、無線端末を搭載しない物体の検出を行う実証実験は世界初です※2。図2に実験に用いた人体模型の概観と位置推定誤差の実験結果を示します。人体模型の位置推定誤差は中央値で約0.6m、平均値で約0.9mを達成しており、分散MIMO自身で、遮蔽物の位置も把握できる可能性が確認できました。本技術は、こうした高周波数帯分散MIMO伝送を支える環境情報の取得だけではなく、物体検知などのセンシングサービスへの活用にも期待できます。

2-3. A-RoF伝送技術

技術の概要

基地局装置と各分散アンテナを同軸ケーブルで接続する場合、同軸ケーブルは通過損失が10mあたり数dB以上と大きいため、その設置範囲に限界があります。この代替え手段として、基地局装置からのIF(Intermediate Frequency)信号※9をアナログ信号のまま光回線で伝送するA-RoF(Analog - Radio over Fiber)が考えられます。A-RoFは通過損失が1kmあたり0.5dB以下と小さいため、設置範囲を広エリア化でき、また、同軸ケーブルと比べて細く曲げやすいため、ケーブル敷設にも柔軟性があります。しかし、分散MIMOの実現には周波数同期用のローカル信号と、5GのようにTDD方式※10を実現するには、下り回線と上り回線の各伝送時間を通知するTDD 制御信号を、基地局装置から各分散アンテナへ、データ信号とともに伝送する必要があります。

そこで、NTTとドコモは、これらローカル信号・TDD制御信号・データ信号をシングルモードファイバにより、光1波長で伝送するサブキャリア多重伝送方式技術を開発しました。

実験結果

2-1章の検証と同じ実験場所と分散アンテナを用い、本技術の実証実験を行いました。実験系を図3-1に示します。基地局装置から同軸ケーブル、またはA-RoFを介して2本の分散アンテナに接続し、A-RoF長も同軸ケーブルと同じ20mとして、TDD方式を用いて下り方向と上り方向のスループットを同時評価しました。このように、高周波数帯分散アンテナの系で、A-RoFを用いた上下双方向無線伝送の実証実験は世界初です※2。実験結果を図3-2に示します。図3-2より、A-RoF適用時も同軸ケーブルとほぼ同じスループット特性が維持できており、1波長にデータ信号とローカル信号、TDD制御信号を多重伝送しても、上下方向とも伝送特性が劣化しないことが確認できました。A-RoFはケーブル長を今回の20mから100m~1,000mと延長しても、通過損失が0.5dB以下であり、本特性がそのまま維持できることが期待できます。従って、高周波数帯分散MIMOをオフィスや店舗などの中規模屋内環境だけでなく、ショッピングモールや工場など大規模屋内環境にも適用可能となり、これらの環境にも安定した大容量無線伝送を提供できる可能性が示せました。

3.今後の展開

今後は28GHz帯より高い周波数帯、人体など遮蔽物が変動する環境、多数の移動端末収容下での検証を進め、高周波数帯分散MIMOの適用周波数やユースケースの拡大に向けて、実証実験を引き続き進めていきます。さらには、無線センシングによる移動端末位置や周辺遮蔽物の自動認識の高度化技術、A-RoF活用による分散アンテナの展開技術の検証も進め、高周波数帯分散MIMOのセンシング活用や、設置運用なども検討していきます。

本リリースの詳細は下記をご参照ください。
https://jpn.nec.com/press/202210/20221031_03.html

概要:日本電気株式会社(NEC)

詳細は www.nec.co.jp をご覧ください。


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情報提供元: JCN Newswire
記事名:「 NTT・NTTドコモ・NEC、世界初 28GHz帯で遮蔽を気にせず繋がり続ける分散MIMOの実証実験に成功