飲食業界のデータ活用を支援するティールテクノロジーズ。不揃いで散在するデータ環境の改善を提言し、統一規格に基づくデータ活用の必要性を訴えます。同社 代表取締役CEOの斉田教継氏が描く理想的なデータの在り方とは。そもそもなぜ、飲食業界のデータ活用に目を付けたのか。斉田氏の経歴を振り返るとともに、ティールテクノロジーズが目指すデータの姿を聞きました。(聞き手:デジタルシフトウェーブ 代表取締役社長 鈴木康弘)


飲食店経営者として業界に根付く課題を痛感

鈴木:斉田さんの経歴から教えてください。

斉田:大学卒業までを奈良県で育った私は、卒業したら海外で働きたいと考えていました。しかし当時は就職氷河期。就職さえ難しい時期でした。海外赴任できそうな企業を受け続ける中、唯一内定をもらえたのが包装機械などを開発する都内の企業でした。

入社後はすぐに海外事業部への配属となり、2年目にはインドに赴任しました。当時のインドはほぼ未開拓の市場で、インドに拠点を構える包装メーカーやパッケージメーカーなどを片っ端から訪問し、インド全土で営業活動に従事していました。片言の英語で苦戦しましたね。

鈴木:私もインドに赴任していたことがありましたが、当時はインフラも十分整備されていませんでした。しかし2024年にインドを視察した際、街並みも大きく変わり、キレイになっていたので驚きました。数十年で急成長した市場の1つですね。

斉田:25歳まで3年ほど勤務した後、ドイツの産業機械メーカーに転職しました。ドイツメーカーの機械を日本市場に販売する業務に携わることになりました。ドイツや欧州の文化に触れることができ、自分を大きく成長させてくれた時期でもありましたね。今の人生観の土台を作った時期でもありますね。

ドイツでの働き方や効率性を目の当たりにする中、自分で起業したいという思いも芽生え始めました。しかし私の営業手法は我流で、きちんとした環境で学ばなければいけないとも考えていました。そこでドイツメーカーを5年務めた後、外資系の保険会社に営業として入社。保険業界の営業として厳しい日々を過ごし、ビジネスや営業の基礎を叩き直しました。

ティールテクノロジーズ 代表取締役CEO 斉田教継氏

鈴木:メーカーから保険会社への転身は、同じ営業でも業務内容は大きく変わるのではないでしょうか。

斉田:もともと海外への憧れで仕事をしてきましたが、その先の自身のキャリアを描けずにいました。海外メーカーを渡り歩いたとしても、その延長線上にキャリアの成功はないと考えるようになったのです。そこでこれまで築いてきたキャリアを全て捨てることにしたのです。もう一度、ゼロから修行し直すべきと考え、優秀な教育の仕組みがある生命保険会社に飛び込んだのです。全国からあまりに優秀な人が集まっていて、自分がいかに井の中の蛙だったかを思い知らされた日々で、基礎であるロールプレイを毎日徹底的に練習していました。

鈴木:私も富士通でエンジニアをしていましたが、その経験を捨て、ソフトバンクで営業として働き始めたことがありました。一度積み上げた経験や実績ってなかなか捨てられないものですよね。

斉田:私は自身を自己分析すると、器用だし繊細な感覚も持ち合わせていると思っています。どの業界に飛び込んでも、3年経てばその業界のトップクラスの知識を習得できるという自信もあります。だからこそ自分の手で起業し、誰も成し得ていないことに挑戦すべきという思いが次第に強くなったのだと思います。

保険会社に2年ほど勤めた後、不動産などいくつか起業しましたがうまくいかず、当時常連だったカフェの店長と二人で起業することにしました。小さなバーの経営からスタートして店舗数を増やしていきました。しかし新型コロナウイルス感染症による影響もあり、不採算店閉店などの徹底的な合理化も余儀なくされましたね。

不統一なデータこそ業界の根深い課題

鈴木:飲食業界の経営者として苦労したことが、現在の事業を起こす契機になったのでしょうか。

斉田:はい。飲食業界の課題に直面する日々でしたので、こうした課題解決に寄与すべく、現在のティールテクノロジーズを立ち上げることにしたのです。

鈴木:具体的に飲食業界のどんな点を変えるべきと考えますか。

斉田:ビジネスモデルの見直しから踏み込むべきと考えます。飲食業界では10年続けばいいとよく言われるほど、出店と閉店が頻発しています。コロナや食材の高騰といった外部要因のリスクが経営に直撃するのも問題です。どのように収益を確保するのか、そのためにはどこに出店し、どんな利用者層を取り込むのかを綿密に検討し、強固なビジネスモデルを構築することが最優先だと考えます。

鈴木:こうした課題解決を支援するのが、ティールテクノロジーズの役割ということですね。

斉田:飲食業界の経営状況の可視化を支援するのがティールテクノロジーズの主な事業です。店舗の多くが日々の売上を管理するためにPOSレジを導入しています。しかし、使用するPOSレジメーカーによって集計フォーマットは異なり、売上を集計するシステムでは正しい数値での集計ができていない、さらにどの企業も管理会計の仕組みを手作業で構築している現状を目の当たりにしました。そもそも飲食業界で使われるシステムに詳しい飲食経営者も少ないのではないでしょうか。私自身が経営者として飲食業界のデータを向き合う中、こうした状況に辟易していたのです。そこで「自分にならすぐに解決できるはず」と安易に考え、事業化に乗り出しました。

鈴木:事業化に乗り出したことで、 何か苦労されたことなどありましたか。

斉田:当初は各POSレジメーカーの異なったデータをエンジニアに解読してもらうつもりでしたが、実際は難航しました。そこで自分自身で解読に着手したのです。YouTubeなどでデータベース言語を学び、ゼロから取り掛かりましたね。各社のストレージに格納されるデータベースを読み解くと、データの1行ごとに処理した意味を理解できるようになっていったのです。飲食業界の経営者だからこそデータの意味を読み解けたと感じてます。

鈴木:実際に飲食事業を展開する経営者だったからこそ、エンジニアには理解できないデータの意味に気付けたのでしょうね。

斉田:構造の異なるPOSレジ各社のデータベースを見続けていると、データクレンジングの重要性にも気付かされましたね。メーカーごとに集計項目や計算式、データの持ち方も異なっています。データを見れば見るほど、何をどう解釈した上で、統一して集計できるかのアクションを描けるようになっていったのです。

鈴木:多くのPOSレジは今なお、どの商品が何個売れたのか、いくら売れたのかを自己完結する役割にとどまっています。POSレジが収集・管理するデータを経営者の意思決定に役立てようという発想自体、描けない経営者も多いと感じます。

斉田:そんな経営者向けに、収集するデータをきちんと活用できるように、バラバラに集計しているデータを一本化するのが当社の使命だと考えます。このとき大切なのが、フォーマットの統一です。システムごとに異なるPOSデータの保存形式を標準化し、業界全体で活用しやすくすべきです。飲食業界の標準規格を考えつつ、統一フォーマットを使ったビジネスモデルの構築ができればと考えます。他業界の中にはグローバルの国際統一基準を定めるケースが少なくありません。飲食業界も同じことができるのではないでしょうか。データを標準化することで、データドリブンな経営手法を業界に根付けられるようになるはずです。さらには統一集計により業界の消費データのビッグデータ化を実現でき、他業界より圧倒的に遅れているデータ活用も一気に加速させられるはずです。

鈴木:データのフォーマット統一は根深い問題ですね。大手企業の中には独自規格を打ち出し、取引先などの各社にデータの規格を揃えるようにする動きもありますね。

斉田:しかし、あくまで対象は大手の一部企業にとどまってしまいます。その裾野をどれだけ広げられるかに主眼を置くべきです。企業規模を問わず、飲食業界に携わるすべての企業が同じ集計フォーマットを使えるようになることが望ましいと考えます。こうした動きを加速させない限り、いつまで経っても取得できるデータは一部に限られるし、データを駆使した経営戦略も打ち出せないと思います。

鈴木:斉田さんのこうしたコンセプトに基づくサービスをすでに展開中ですね。

斉田:はい。当社は飲食業界向けのBIツール「TEAL BI」を提供しています。POSレジデータに限らず、食材の仕入れデータや従業員の勤怠データ、さらには気象情報やSNSなどの外部データを自動取得することが可能です。収集したデータをさまざまな角度で把握できるように、約600種類ものグラフや表を使って可視化しています。

「TEAL BI」は主要な多くのPOSレジと自動連係して業界の統一フォーマットで集計し、他のデータを組み合わせて分析を実施できます。多くのシステムと自動連係する他、データをcsvやAPI経由で他システムに出力することも可能です。

鈴木:複数のPOSレジを利用している飲食企業にはどのような課題があると思いますか。

斉田:複数のPOSレジを運用する中で、POSレジメーカーごとにデータフォーマットが異なり、分析に苦労していると、大手・中堅企業問わず、ご相談を受けることがあります。弊社のサービスでは、POSレジメーカーが異なっていても、自動的に共通のフォーマットに集約することが可能です。

鈴木:「TEAL BI」の導入実績などを教えてください。

斉田:導入企業数は18社ほどで、まだこれからという状況です。18社の合計店舗数は約650店舗ほどです。最近は特に大手企業の導入事例が増え始めており、既存の基幹システムと並行稼働しながら10店舗程度に導入して検証している段階です。多くの店舗で導入するほど、より高い効果を得られるようになることから、まずは先行導入する店舗できちんと効果を上げ、実績を積み上げることが大切な時期だと考えています。いずれは全店導入し、POSレジ以外の多くのデータを「TEAL BI」に集約する環境構築を支援できればと思います。

鈴木:導入企業からはどんな声がありますか。

斉田:データ集計が手動から自動になったことによって手作業を大幅に削減できたという声をいただいています。一方で、集計したデータ分析の切り口を増やしたい、分析の結果をどう経営に生かせばよいかといった、より具体的なアドバイスを求める声が多く聞かれます。

当社では、導入の最初の目的としては、まずはデータの集計作業を自動化することをアドバイスしています。集計が自動化できない限り、飲食業界のデータ活用は進まないとさえ考えます。「TEAL BI」という飲食業界の管理会計を標準化した仕組みを整備しつつ、業界のPOSレジデータの統一フォーマット集計化を進めるといった2軸に取り組むことを優先すべきだと思いますね。こうした環境さえ構築すれば、ダッシュボードをカスタマイズしてデータを見やすくしたり、必要な指標に容易にアクセスしたりするなどの施策はスムーズに進められるようになるはずです。

業界を巻き込んだ勉強会や部会開催も視野に

鈴木:ティールテクノロジーズとして今後、どんなことにチャレンジしていきますか。今後の展望を教えてください。

斉田:「TEAL BI」はデータを分析する仕組みの1つに過ぎません。「TEAL BI」さえ導入すれば、導入企業のデータ活用の課題を全て解決できるなどとは考えていません。今後はやはり、データの標準化に向けた取り組みをどう進めていくのか、具体的にどのようなアプローチでデータの統一フォーマット化を進められるのかを模索しなければならないと考えます。これは当社自身が取り組まなければならない課題と認識しています。標準規格が業界に浸透することこそ、当面の展望であり、当社が目指すべきチャレンジではないかと考えます。

鈴木:POSレジデータを標準化するだけでも、業界にとっては大きなインパクトを与えかねませんね。

斉田:異なるPOSレジのデータを集計するには、現状は集計システムのベンダー毎に集計フォーマットが存在してしまっています。しかし、その都度フォーマットに合わせるにはエンジニアへの負担が大きいし、何より非効率でしかありません。こんな混沌とした状況を1本化してシンプルにしたいですね。

鈴木:業界団体を巻き込むなどの抜本的な改革が必要かもしれません。

斉田:その通りです。例えば「欧州ではこうした統一フォーマットを策定して業界に浸透させている」などを学ぶ勉強会を開催してもよいでしょう。統一フォーマットを決める際の技術的な課題を洗い出す専門家の部会を定期開催してもよいでしょう。一歩ずつでも、統一フォーマット化に向けてアクションを起こさなければならないと考えます。

鈴木:私が会長を務める日本オムニチャネル協会でも、こうしたテーマを議論すべきと感じます。協会には小売事業者の他、小売向けのシステムを提供するITベンダー、さらには物流や外食業界などの事業者が数多く会員として活動しています。データの標準化を進めるなら、まずは協会の会員と意見交換するのも有効だと感じました。

斉田:飲食に限らず、小売業界をも含む統一フォーマットを模索すべきなのかもしれませんね。小売も飲食もPOSレジは各メーカーが提供する同じものを使っているわけですから、小売や飲食といった業界を問わず、データの統一フォーマット化は十分可能です。業界の垣根を超えたビッグデータを蓄積できるようになれば、それだけデータの価値は向上しますし、データという実績に基づく経営戦略も打ち出せるようになりますね。

鈴木:斉田さんの思いが飲食業界の未来を必ず変えると信じています。話をする中で、斉田さんの強い覚悟を感じ取ることができました。本日は貴重なご意見をありがとうございました。

斉田:鈴木さんが会長を務める日本オムニチャネル協会と、データ標準化に向けた取り組みを共創できればうれしいですね。こちらこそ本日はありがとうございました。

TEAL BI
https://teal-bi.com/

情報提供元: DXマガジン_テクノロジー
記事名:「 飲食業界のデータ標準化を目指すティールテクノロジーズ、斉田教継代表が描く未来の飲食業界とは?