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デジタルシフトウェーブは2025年8月6日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「利益が変わる!倉庫は最適化済み。でも“店舗”は?~最後に残ったコスト削減術~」。店舗から店舗への商品配送や顧客からの返品処理など、店舗を運営する小売企業向けに商品の配送コストを削減する施策について考えました。
店舗を展開する小売企業の中には、「物流コストの削減は、もう打ち手がない」「これ以上、現場の業務効率化は難しい」「全体の店舗物流の実態が掴めない」などと感じている担当者も少なくないのではないでしょうか。
しかし、まだ手つかずの領域があります。それが、“店舗発”の物流です。店間移動、返品、客注発送など日々、店舗から発送される小口の荷物は、倉庫からの物流に比べて最適化が遅れており「見えないコスト」として膨らみ続けています。
そこで今回のセミナーでは、店舗を取り巻く物流問題にフォーカス。“店舗発の物流”に特化したSaaS「ShipOne」を提供するUnicodeの代表取締役社長 赤城命帥氏と、リンクスの代表取締役社長で日本ロジスティクス協会のロジスティクス分科会リーダーを務める小橋重信氏をゲストに迎え、現場の課題、経営視点でのインパクト、そして導入企業での成功事例をもとに、店舗×ECの新たな最適化の形を探りました。
セミナーではまず、物流業界の大きなトピックである「2024年問題」に言及。ゲストとして登壇した小橋氏は、「2024年問題は2024年に突然的に発生したものではない。これまでの業界の問題が積み重なって引き起こされた問題である」と前置きした上で、その背景を説明しました。1990年代から2000年代にかけて国が実施した「物流二法」(「物流総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の2つの法律)による規制緩和が問題を大きくする契機になったといいます。物流二法の施行を機に、運送会社の数は約4万社から6万社へと急増。供給過多と激しい価格競争が引き起こされた結果、運送業界全体で労働時間が長く賃金が低いという構造が固定化されていきました。さらに2024年4月から働き方改革関連法によってトラックドライバーの時間外労働に上限規制が適用。業界の様々な問題が顕在化していったといいます。運ぶ物量自体は増えているにもかかわらず、利益が出にくい構造になっているのは、規制緩和による多重構造化と価格競争が大きな原因であると指摘しました。
さらに小橋氏は、小売店の「物流費」についても掘り下げます。「多くの企業が物流費として認識しているのは、倉庫から店舗や顧客への配送にかかる『販売物流費』の一部である」(小橋氏)と指摘します。例えば、資材調達にかかる「調達物流費」は製造原価に含まれることが多くほぼ意識されません。同様に店舗から他店舗や顧客に配送するコスト(店舗発物流費)もあまり意識されていないと指摘。「多くの店舗が『店舗発物流費』に目を向けていない。そのため、実態を把握していない店舗が大半ではないか。多くの企業が認識している『物流費』は氷山の一角に過ぎない。店舗発物流費のように、見えていない部分にこそ大きな無駄が潜んでいる」と述べ、多くの企業が物流費を過小評価している実態を浮き彫りにしました。
では、「店舗発物流」では実際にどんな課題が潜んでいるのか。コストを削減できる可能性を秘めているのか。セミナーでは店舗から個別に発送される店舗発物流の実態も紹介しました。そもそも店舗間物流にかかるコストは、倉庫からの発送に比べて1店舗あたりの出荷量が少ないため、これまで課題として認識されにくかったといいます。しかしコロナ禍以降、店舗間の商品移動(店間移動)が増加し、店舗発物流の重要性が増しているといいます。
店舗発物流における課題は多岐にわたります。まず、配送コストが高くなりがちである点が挙げられます。倉庫からの大量出荷に比べて、店舗からの小口出荷は一般料金に近い高めの料金で配送されることが多く、これが全体の物流コストを押し上げています。また、本部側から見ると、どの配送業者が最適かという細かな指示が難しく、店舗の省人化が進みがちです。その一方、バックヤード業務のアナログ化が進み、店舗スタッフが接客や販売といった本来の業務に集中できない状況も生まれています。加えて、これまで店舗からの出荷データがブラックボックス化されており、本部側がリアルタイムで配送状況やコストを把握・分析できないという問題も存在していました。赤城氏は、「『なぜそこから商品を取り寄せるのか』と疑問に思うような、片道3000円もかかる取り寄せが平気で行われているケースもある」と、見えない無駄の存在を具体的に示しました。
店舗スタッフ側も、どの配送業者が最も安く最適なのかを現場で判断するのが難しく、手書きの送り状作成に時間がかかることや、店舗間の荷物情報のやり取りが売上に直結しない業務であることに負担を感じているといいます。百貨店などでは店舗(テナント)ごと指定配送業者が異なるため、複数の送り状をストックし、手作業で使い分けるといったアナログな業務も発生しているといいます。
セミナーでは、こうした店舗発物流の課題を解決するサービスも紹介。それがUnicode社は「シップワン(ShipOne)」というSaaSです。シップワンの最大の特徴は、「業界初のAPI連携」(赤城氏)だと強調します。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の主要3社と、B2Bに特化した納品代行業者とのAPI連携を実現し、これにより効率的な運賃交渉や荷物の追跡が可能になります。小橋氏も、「この3社をAPIに繋ぐだけで十分な効果を見込める」と、その技術的難易度の高さを評価しました。
店舗スタッフの業務効率化もシップワンの大きなメリットです。送りたい店舗を選ぶだけで配送先の情報が自動入力され、最適な配送業者が自動選択されるため、送り状の手書き作業が不要になります。ワンクリックで送り状が発行できるため、発送業務にかかる時間が大幅に削減され、店舗スタッフは顧客対応や販売といった本来の業務に集中できるようになります。また、各配送業者の送り状を統一された規格にすることで、店舗での用紙の入れ替え作業が不要になり、業務の煩雑さを軽減できるといいます。
さらに、これまでブラックボックスだった店舗発物流のデータを集約し、本部側が配送状況やコストをリアルタイムで把握・分析できるようになる点も重要です。赤城氏は、「これまでの店舗は本部から指示を受けていなかったこともあり、データを収集していなかった。しかしデータがシップワンに集まれば、店間移動の実態と売上との相関関係を分析できる。物流費込みの消化率検証も可能になる」と述べ、在庫の適正配置や販売プロセスにおける物流費込みの消化率検証が可能になり、これまで見えなかった無駄を削減できると説明しました。
赤城氏はシップワンの効果について、「物流コストを最大45%削減し、年間で数億円規模のコストを削減した事例もある」と指摘。店舗からの物流コストに目を向け、対策をしっかり講じさえすれば十分な効果を見込めるようになると強調しました。
セミナーの後半では、物流の未来とDXの可能性について赤城氏、小橋氏、モデレータを務めた鈴木氏による対談が行われました。
対談では物流業界が労働集約型で人件費の高騰や人手不足が避けられない点について議論。現場では依然としてアナログな作業が多く、デジタル化の遅れが指摘されました。さらに、物流が経営課題として十分に認識されておらず、現場の声が経営層に届きにくいという問題についても考察しました。
こうした状況を打破する契機となるのが、「デジタルでありAIに他ならない。物流という見えづらい構造をデジタルを駆使してガラス張りにすることで、さまざまな問題を顕在化できる。何を改善すべきかも考えらえるようになる」(鈴木氏)と指摘。どこに問題があるのかさえ分からなかった状況を把握するためにも、ITやAI、デジタルを積極的に導入すべきと訴えました。
一方、赤城氏は今後の物流業界について考察。具体的な未来の姿として、「超巨大配送網」の構築を提唱しました。これは、個別最適ではなく、業界全体で協力して1つの巨大な配送網を構築し、地域や業者間の壁を越えて最適な配送を実現するというものです。これにより、積載効率の向上や環境に優しい配送が可能になるといいます。さらに赤城氏は、「店舗をミニ倉庫として活用」するアイデアも提示。店舗を販売拠点としてだけでなく、地域のミニ倉庫として機能させることで、顧客への迅速な配送や効率的な在庫管理も可能になるといいます。「物流データを共有し、共通のルールを設けることで、より効率的な配送が実現可能になる」(赤城氏)は強調しました。
小橋氏は、若い世代やベンチャー企業が物流業界に参入し、イノベーションを起こすことの重要性を指摘しました。「物流は社会の土台となる重要なインフラであるにも関わらず、その重要性が必ずしも認識されずにいた。しかし社会が変化し、消費者の意識が物流に向くようになった今こそ、経済を支える重要な要素として注目されるべきである」と述べました。その上で「日本オムニチャネル協会のような団体が、業界内の企業間の協力を促進し、情報共有の場を提供することで、物流業界全体の発展に貢献すべきである」(小橋氏)と強調。ロボットによる自動化やギグワーカーの活用、さらには各社の先進的な取り組みなどを共有し、企業同士の「共創」により物流業界を改革する必要性を訴えました。
【関連リンク】
ShipOne
https://www.shipone.jp/
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