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日本オムニチャネル協会は2025年6月18日、定例のセミナーを開催しました。今回のテーマは「NRF-APAC報告:アジアから目が離せない!~NRF-APACをフルに体感して感じた事~」。と題した実践セミナーを開催しました。シンガポールで6月に開催した小売業向けグローバルカンファレンス「NRF-APAC」の様子を紹介しました。
NRF-APACは、アメリカで毎年1月に開催される全米小売業協会(NRF)の大会のアジアパシフィック版。2024年6月にシンガポールで開催し、2025年で2回目を迎えます。今回のセミナーでは2025年6月に開催したNRF-APACを現地視察した人がゲストとして登壇。スマイルX合同会社代表の大西理氏、店舗のICT活用研究所代表の郡司昇氏、シンガポールからオンラインで参加したICMG Holdings Pte Ltd Director/グローバル共創事業執行役員の羽田大樹氏、さらにモデレーターは日本オムニチャネル協会理事の逸見光次郎氏を加えた4名が、実際に見た印象や気になった動向を解説しました。
今年のNRF-APACの来場者数は、前年の5800名から9500名と大幅に増加。参加国も52カ国から72カ国以上へと拡大しました。とりわけに日本人参加者数が600名に上り、国別では開催地シンガポールに次ぐ第2位の規模となったといいます。展示会場は広くなり、大型ブースの出展も増加。日本の企業も多数出展しました。
セミナーではアジア・太平洋地域の市場についても解説。小売市場は活気に満ちており、4年前のデータではASEAN6カ国で111兆円とされ、間もなく日本の150兆円を超える勢いだと報告されています。
EC化率を見ても、日本の9%に対し、他のアジア各国はさらに高い水準だといいます。特にベトナム、インドネシア、フィリピンといった人口増加と若年層が豊富な国々での成長が著しいことが指摘されました。シンガポールやマレーシア、タイといった経済的に成熟した国々でも消費意欲は旺盛で、日本との親和性が高く、日本の商品が多数扱われている現状も示されました。中でもシンガポールの現状について羽田氏は、「金利の上昇に伴う物価高騰は小売業の経営を難しくしていますが、国民の消費意欲は依然として高い」と紹介。シンガポールの経済的特徴などを解説しました。
セミナーでは、ドン・キホーテや国営のフェアプライス、コールドストレージなどのスーパーマーケットチェーン、ガーディアンやワトソンズといったドラッグストアの他、特徴的な店舗の取り組みも紹介されました。中でも注目を集めたのが、銀行が運営するOCBCの書店とカフェの融合店舗です。ここでは、若年層の顧客接点創出を目指し、書籍やカフェスペースを提供しつつ、その奥には富裕層向けのカウンタースペースや会員制レストランが設けられています。「書店としての品揃えも非常にしっかりしており、単なる飾りではなく、ビジネスとして成り立っていると感じた」と逸見氏はコメントしました。
欧米の有名ファッションブランドの品揃えが多いコスメのセフォラや、シンガポール発のアパレルブランド「Love, Bonito(ラブボニート)」も視察対象となりました。ラブボニートは、アジア人女性の体型に合わせた服作りと、顧客観察に基づいたユニークな店舗設計で知られています。「店舗を訪れるカップルの顧客を観察し、女性が買い物中に男性が飽きてしまうという課題に対し、売り場の一部を削って『パートナーズベンチ』を設置し、男性が待機できる場所を設けることで、女性の滞在時間を延ばし、コンバージョン率を高めている」というエピソードは、顧客理解の深さを示す事例として紹介されました。大西氏は「このような顧客観察と顧客理解に基づいた売り場作りは非常に興味深い」と述べました。
中国系企業の動向も注目されました。「MINISO(ミニソウ)」は、かつて日本の無印良品や100円ショップを模倣していると言われていましたが、現在はキャラクターIPビジネスに完全に舵を切り、「ディズニーなどの有名IPとのコラボレーションにより、ビジネスモデルとして非常に賢い運営を行っている」と郡司氏は評価しました。羽田氏は、「ポップアップストアへの投資額も非常に高く、数千万円をかけることも珍しくない」と指摘。積極的なビジネス展開が成長をけん引していると考察しました。一方、中国のコーヒーチェーン「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」は、スターバックスを抜き世界一の店舗数を誇ると言われています。モバイルオーダーとテイクアウトに特化し、オフィス街の顧客が30分後に無料クーポンを受け取ることでリピートを促すなど、「効率的で賢いビジネスモデルを確立している」と逸見氏は分析しました。
セミナーでは、AIとデータ活用が小売業の未来をどう形作るかについても議論が交わされました。郡司氏は、カンファレンスのトレンドとして「データドリブン経営の必須化」や「AI・自動化の本格化」を挙げました。
特に興味深い事例として、中国の会員制倉庫型スーパー「Sam’s Club China(サムズクラブチャイナ)」を紹介。会員の居住地データに基づき、通常店舗の3500SKUから売れ筋の1000SKUに絞り込んだ小型店舗「クラウドストア」を住宅地の近くに展開し、店舗での購入だけでなく、1時間以内の配送ハブとしても活用しているといいます。郡司氏はこうした取り組みについて、「サムズクラブチャイナのビジネスモデルは『顧客が特定できているなら、その場所に店を出せばいい』という発想が起点である。中国ならではの興味深いモデルだが、日本の小売企業も参考になる点は少なくない」と語りました。また、SKUを絞り込むことで、競合との差異化を「選択肢の多さではなく品質の高さ」で実現している点にも注視すべきと解説しました。
セミナーの終盤では、今回の視察を受けて日本の小売市場の現状を考察。「成長余地も変化の度合いも低い」状態にあると指摘され、「日本企業は自社内のDXや効率化の限界を認識し、成長市場であるアジアへと積極的に打って出るべきである」とセミナー参加者に訴えました。羽田氏は、「東南アジアは日本ブランドへの信頼が非常に強く、戦いやすい市場である」と述べつつも、「各国の購買力の違いを考慮した戦略の重要性」を指摘しました。シンガポールは多民族国家であり、観光客も多いため、「テストマーケティングの場として非常に適している」と語られ、日本企業にとってアジア市場への「入り口」となる可能性が示されました。
関連リンク
日本オムニチャネル協会
https://omniassociation.com/