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狂犬病が感染してから発症するまでの潜伏期間は20~90日とされていますが、一旦発症すれば一週間もしないうちに死に至ります。
日本は現在狂犬病の発生がない清浄国となっています。
しかし、日本や英国、オーストラリアなど限られた国を除いて、アジア、アフリカ、中南米のほとんどの国で狂犬病は流行しています。
台湾では、2013年に野生動物のイタチアナグマが狂犬病にかかっていることが判明しました。
そのあと、イタチアナグマに噛まれた犬が狂犬病を発症したのです。
台湾では1999年から野生動物の狂犬病調査が行われていたため、狂犬病の動物にたいして素早く対応することができました。
日本は野生動物のモニタリングが十分ではないとの見方もあるため、今後は注意が必要かと思われます。
狂犬病にかかった動物に噛まれ、狂犬病を発症してしまったら治療法はありません。
ただし、狂犬病を発症する前にワクチンを接種すること(曝露後接種)で発症の予防効果があると考えられています。
そのため、狂犬病流行地の海外で犬にかまれたら、ただちに医療機関を受診するようにしてください。
日本は1957年以降、狂犬病の発生がみられておらず、世界でも数少ない清浄国となっています。
そして、長年狂犬病が発生していないことが、現在の予防接種率の低下につながっていることは否めません。
狂犬病に対しての危機意識の低下が、そのまま接種率の低下につながっていると思われます。
日本で狂犬病が撲滅できたのは1950年の狂犬病予防法の制定がおおきいようです。
この法律の制定後、さまざまな人の努力、犬の飼い主の協力によって狂犬病は7年の歳月をかけて撲滅できました。
1950年は日本で狂犬病の流行がピークをむかえた年です。
狂犬病の研究や検査に携わっていた、獣医師の上木英人さんはその時の様子を、まるで悪夢にうなされるような悲惨きわまりない状況だったと語っています。
また、上木さんは「犬に罪はない。責任は無責任に飼っている飼い主にある」とも言っています。
飼い主には人が社会生活をおくることの意義を、十分に考えてもらいたいとも言っていたようです。
眼の前で犬に噛まれて亡くなっていく人をみて思ったことなのでしょう。
犬の飼い主は今一度狂犬病予防法について知っておく必要があります。
第五条犬の所有者(所有者以外の者が管理する場合には、その者。以下同じ。)は、その犬について、厚生労働省令の定めるところにより、狂犬病の予防注射を毎年一回受けさせなければならない。
第27条第2号犬に狂犬病の予防注射を受けさせず、または注射済票を着けなかった者は、20万円以下の罰金に処する。
飼い犬が人を噛んでしまった場合、犬が狂犬病でないかどうかの鑑定を動物病院で受ける必要があります。
そのため、何回か動物病院に通うことになるのですが、犬が狂犬病予防接種を受けていたかどうかで、来院回数が変わってくることがあります。
狂犬病予防接種が未接種だった場合、鑑定に時間を要することもあるのです。
また、噛んだ犬が未接種犬だった場合、噛まれた人がかなり不安になる場合もあります。
私の経験でも、子供が犬に噛まれてその犬がワクチン未接種だったために、親御さんがかなり心配され、犬の飼い主を訴えるといった騒ぎにまでなったことがあります。
実際にはお子さんの怪我も軽傷だったため、話し合いの結果、裁判までにはならずに済んだのですが、そういう例もあるということです。
ワクチンの副作用が怖くて犬に狂犬病を受けさせるかどうか迷っているという方がいます。
確かに、どのようなワクチンにも副作用がおこる可能性はあります。
しかし、前述したとおり、狂犬病予防注射を年一回犬に受けさせることは飼い主の義務となっています。
そこで、ワクチンを受けるうえでの注意点を、接種前と接種後にわけてご説明したいと思います。
前回、狂犬病予防接種後に体調をくずしたようなことがあったなら、かならず接種前の問診で獣医師にそのことを伝えてください。
いままで10年以上狂犬病予防接種をうけてきて、具合が悪くなったことがなかった犬でも、高齢になって、接種後にすこし元気がなくなるといったこともあります。
前回の接種後に気になる様子がみられたのなら、接種する前に伝えるようにしましょう。
狂犬病予防接種にかぎらず、他の混合ワクチン接種時についてもいえることですが、ワクチンは元気食欲ともに普段と変わらない時に打つようにしてください。
つまり、体調のいい日にワクチンは打つ、ということです。
朝から何となく元気がないとか、食欲はあるけど下痢をしている、などといった日はワクチン接種を避けたほうがいいでしょう。
雌犬で避妊していない犬の場合は、元気であっても、発情中(発情出血がみられる)は打たないほうがいいです。
動物病院や予防接種会場に犬を連れて行くときには、犬を興奮させたりしないように気をつけてください。
はげしく興奮して、ハーハー息の荒い犬に接種すると、その後具合が悪くなってしまうこともあるからです。
とくに、たくさんの犬が集まる集合注射会場では犬は興奮しやすくなります。
わたしは、狂犬病予防接種はなるべく動物病院で接種したほうが安全だと思います。
動物病院でも他の犬を見て激しく興奮する場合には、事前に獣医師と相談して、他の犬がいないときに来院できるように配慮してもらったほうがいいでしょう。
狂犬病予防接種は4月から6月末までと決められています。
ですが、その間、犬の体調がすぐれず接種できないといったこともあり得ます。
その場合は獣医師と相談の上接種する時期を決めてください。
くれぐれも飼い主さんの判断で、今年はやめておこうと、勝手に決めてしまうことがないようにしてください。
また、混合ワクチンを接種している方は、混合ワクチン接種後1ヶ月ほど間をあけて狂犬病予防接種を受けるようにしてください。
どのようなワクチンにも副作用がおこる可能性はあります。
しかし、混合ワクチンと比較しても狂犬病ワクチンは副作用が少ないといわれています。
ここに、厚生労働省が発表した2015年度の狂犬病予防接種による副作用の報告を載せておきます。
厚生労働省によりますと、2015年度の狂犬病予防注射頭数は4,688,240頭。
そのうち、獣医師から農林水産省に報告された副作用件数は18件(約0.0004%)となっています。
アナフィラキシーショック(ワクチンのアレルギー反応によって、血圧の低下や呼吸困難、顔が腫れるなどの症状がでる)がおこるのは大抵の場合、ワクチンの接種後30分以内なので、その間は犬の様子を注意して見ておく必要があります。
副作用が少ないとはいっても、接種後は散歩を控えるなどの安静が大事です。
特に集合会場につれて来る方は犬を歩かせてくる方が多くみられます。
なかには30分くらいかけてこられる方もいます。
そうなると、接種後、また歩いて帰ることとなります。
これでは、安静とは言えません。
会場近くの方ならいいですが、そうでない場合は車できたほうが安心です。
暑い日はエアコンをしっかりかけて、犬の息があがらないようにしてください。
車に乗せても興奮しすぎないように、日頃から慣らしておくことも大切なことです。
なお、シャンプーなども一週間ほどは見合わせたほうがいいでしょう。
WHO(世界保健機構)によりますと、世界中でおよそ55000人の方が毎年狂犬病でなくなっています。
人の場合、犬が主な感染源です。
つまり、犬が狂犬病にかからないようにすれば、人の狂犬病のほとんどは防げるということです。
また、WHOによると、狂犬病の蔓延を防ぐには犬のワクチン接種率を70%以上にする必要がある、とされています。
現在の日本の接種率はギリギリですね。
狂犬病が発生したら、安心して犬を飼うことができなくなるかもしれません。
そのようなことにならないためにも、犬には狂犬病予防接種を受けさせましょう。
狂犬病は恐ろしい病気です。
先人たちが苦労して撲滅した病気を、ふたたび復活させることがないようにしたいものです。