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東京都が推進する、船を用いた通勤経路の一環として今年春から運行をスタートした「五反田〜天王洲アイル」航路を体験しました。今回体感したのは、五反田駅前の目黒川から天王洲運河を経由し、京浜運河を経て天王洲アイル駅近くまでの35分コース。船の上から見上げる都心は冒険気分に満ちていました。
この船便は、東京都が船便(舟運)を身近な観光手段や交通手段として定着させ、水辺のにぎわいを創出するための取り組みとして運行されているもの。
令和5年度に創設された「舟旅通勤の実装に向けた補助制度」を活用して、これまで「日本橋~豊洲」と「晴海~日の出」の2航路が運行されてきましたが、今年の春から新たな3つ目の航路として、「五反田〜天王洲アイル」航路の運行がスタートしました。
運行時間は、祝日を除く毎週月曜〜金曜の16時から22時35分まで。目黒川と天王洲運河、京浜運河を経由して五反田駅前と天王洲アイル駅前を結ぶ35分の便が交互に運行されています。
今回体験したのは、五反田駅前から天王洲アイル駅前へ向かう便。仕事を終えた記者は真夜中の川下りをキメてみたくなり、もっとも遅い五反田駅前22時発の便で「エクストリーム退社」してみることにしました。
酔客が行き交う五反田のど真ん中、目黒川と東急池上線の高架が重なるあたりに出発地点の「五反田リバーステーション」があります。
リバーステーションのデッキにいる係員の人に、あらかじめ購入したWEB予約券を見せて乗船。なお、空き席がある場合は現金900円で当日券を購入することもできます。
細長いタラップを降り、目黒川へ近づきます。目黒区と品川区の境目に位置するこのエリアは海に近く、すでに川面からはほんのりと磯の匂いが漂います。夜の暗闇に包まれたその風景は、ちょっとした怖さとドキドキが半々の気分です。
船は40人強が乗れるオープンエアー形式の広々としたもの。夕方の便では満席になることも多いようですが、この日乗った22時の便は深夜ということもあってか、記者1人の貸切状態でした。
頭上から降る酔客の歓声を聞きながら出航。スピードは自転車を早漕ぎするくらいでしょうか。見上げているとゆっくりに感じますが、水面を見ると結構な速さに感じます。
いったん目黒川を200mほど上り、ギラギラと輝く繁華街エリアで方向転換すると、いよいよコースが始まります。出発当初はまだ賑やかな景色。沖の方面へ進むにつれて徐々に静かな景色になっていくとのことですが、この時点ではまだ想像がつきません。
五反田の中心部を抜けてJRの橋脚をくぐり、最初に差し掛かったのは「五反田ふれあい水辺広場」。ゆったりとした緑が広がる水辺の公園は、同じ五反田とは思えないほど穏やかです。
このあたりで区境を越え、目黒区から品川区へ。JR大崎駅近くに差し掛かると、オフィスビルと団地、住宅が混在する風景となり、徐々に生活感が出てきます。
「橋にご注目ください。緑色にライトアップされている橋がありますね。これは区が管理している橋であることを意味しています」と、ガイドさん。
たしかによく見ると、緑色にライトアップされた橋と、そうでない橋があるのがわかります。ライトアップされていない橋は、都やその他が管理しているところなのだそう。ふだん気にすることもない橋にも、川から見上げると思わぬ気づきがあります。
さらに進むと、旧東海道が通る新馬場(しんばんば)エリア。いっそう辺りは静かになり、水の音だけが響きます。
かつて宿場町として多くの人が立ち寄ったこのエリアは、いまもそこかしこにその当時の雰囲気が。あたりを包む暗闇や、連続する橋脚の長さもあいまって、だんだんとタイムスリップ気分になっていきます。
このあたりまで差し掛かると、ほぼ河口。東京湾の潮位が川の水位にもダイレクトに影響します。
乗車した日は全体的に潮位が高く、くぐる橋の高さも頭スレスレ。立ち上がったらぶつかってしまいそうなほど。事故を防ぐため、ガイドさんは席から立ち上がったりしないよう、繰り返し注意を呼びかけていました。
その反面、こんなときだからこその思わぬ発見も。途中に通る橋の底には、小さな星型の照明が。船からしか見つけることのできない仕掛けに、思わず興奮してしまいました。
海へ近づくにつれて建物も少なくなり、空がいっそう広く感じられるように。「ゴー」という音がして見上げると、羽田空港へ着陸しようとする飛行機の姿が見えました。
飛行機の位置を調べられるアプリですかさずチェック。台北発羽田着の便でした。
目黒川を下りきり、船はいよいよ東京湾方面へ。河口から天王洲運河へと進みます。
ここで「川」から一気に「海」の景色に。眼の前には緑色に輝くアーチ橋、東品川橋が現れます。橋のライトアップが水面に反射して、巨大なイルミネーションを見ているよう。まさにトーキョー・ウォーターフロントの眺めです。
そのまま船は左へ進み、大きなクジラの絵が描かれた目黒川水門を通過。
ひらがなで「しながわ」の文字が隠されているというおしゃれなアートと無機質な鋼鉄製の水門との対比が、美しさととともに、なんともいえない畏怖のようなものも感じます。
その後、東品川方面に進み、天王洲エリアを外からぐるりと一周し、天王洲運河へ。
クルーズ船の造形をした水上ステージや、1泊数万するという水上ホテルなど、思わず「おぉ……」と声が漏れるような建物の数々をガイドさんが教えてくれます。
おしゃれなレストランやホテルなどが立ち並ぶ天王洲アイルの景色を眺めます。バブルの頃の華やかな景色がそのまま残ったような雰囲気に、ノスタルジーのようなものを感じつつ……
この航路最後の水門、ビビッドなネイビーブルーが目を引く天王洲水門を通過します。
天王洲水門を抜けた先は、今回の最終地点、京浜運河。これまで通ってきた運河のなかでもっとも幅が広く、一層の「海感」に胸が高まります。沿岸にそびえ立つビル群の明かりがなんともアーバンです。
潮の香りと腕がペタつく潮風ならではな肌触りもあって、全身の解放感がMAXになりました。あぁ、ずっとこのまま漂っていたい!
……と、そんな時間も気づけば終盤。五反田を出発して35分、定刻通りに終点の東品川二丁目防災桟橋に到着しました。
桟橋を下りて数十秒で、東京モノレール・りんかい線の天王洲アイル駅に到着。スムーズに都心へ戻ることができます。もうちょっと旅気分を味わいたいならば、早い便に乗って、復路をもう一度体験してみるのもいいでしょう。
900円でいつもの通勤経路が探検クルーズの場に大変身、文字通りの“船出”気分を味わえる「舟旅通勤」。その名の通り、船を使った通勤を想定した路線なので、普段遣いの利用が推奨されています。こんなワクワクした通勤経路なら、毎日冒険気分でエクストリーム出社できそう!
「五反田〜天王洲アイル」航路は、祝日を除く毎週月曜から金曜の夕方から夜にかけて運航されています。
五反田発天王洲着の便は16時、18時、20時、22時に、天王洲発五反田着の便は17時、19時、21時に出発。乗船する場合は「舟旅通勤」のサイトからWEB予約券を購入するほか、席に余裕がある場合は乗り場で当日券も購入できます。
なお、潮位や天候などの影響によって運休や変更が発生する場合があります。乗船前には必ず「舟旅通勤」のサイトで運行状況を確認してください。
(天谷窓大)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 天谷窓大 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025052502.html