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SNSでよく見かける「○○が当たる!」というプレゼント投稿、思わずRTしていませんか? そんな何気ない行動の裏にも、巧妙なワナが潜んでいるかもしれません。
おたくま経済新聞編集部では、ネット上に蔓延するさまざまな詐欺について日々調査を行っています。それは山口(筆者)が、企業アカウントによる「○○1年分プレゼントします」企画に便乗した詐欺を調査しているときのことでした。
いつも通り、変わった動きがないか、いくつかのアカウントをチェックしていたところ……観察対象のひとつが姿かたちをまるっと変えていることを発見。それは「とろ蜜物語 広報部」という焼き芋専門店の広報を名乗るアカウントです。
(調査期間:本調査は2025年1月11日から4月21日にかけて実施しました)
「とろ蜜物語 広報部」(@sweetpotato_off)を名乗るこのX(旧Twitter)アカウント、実は以前「AYRAN」(@AYRAN_off)という別の企業を名乗り、スマホなどのプレゼント企画を行っていました。
それが全くジャンルの異なる業態へと突然かわるのは、極めて不自然。もともと疑わしく感じていましたが、これで一気に怪しさが増しました。
現在、Xではスクリーンネームを変更すると、変更前のユーザーを追跡するのが難しくなっています。
ただし、旧スクリーンネームが分かっていれば、過去のやりとりからユーザーを推測することは可能です。というのも、Xでは過去の投稿に表示されていたスクリーンネームが、自動的に新しいスクリーンネームへと置き換えられるためです。
気になる方は、旧スクリーンネーム「@AYRAN_off」で検索してみてください。現在の「@sweetpotato_off」に置き換わった、スマホのプレゼントキャンペーンに関するやりとりが見つかるはずです。
さて、この「とろ蜜物語 広報部」(@sweetpotato_off)のフォロワー数は約1万7千(現在は4万9千)にものぼり、ぱっと見では実に本物っぽい出来映えです。開設日は2024年10月。
そして実は、「とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」(@healing_every)というアカウントも存在しています。開設日は2023年4月で、フォロワー数は3万(現在は3万4千)。調査を始めた当初は、公式アカウントの投稿を広報部のアカウントが積極的に宣伝していました。
公式の方も一応過去をさぐってみると……、以前は「癒しアニマル」という名前で活動していた痕跡がでてきました。当時はどうやら、動物たちの癒やし写真を投稿していたようです。もちろんほとんどが無断転載。
過去投稿の大半は削除されていますが、全てを消すことはできなかったようです。現在の「とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」の投稿を遡ると、その当時の活動状況をいまでも確認することができます。
スマホのプレゼントを行っていたアカウントが、2024年12月末頃「とろ蜜物語 広報部」に。そして「癒しアニマル」として活動していたアカウントが、2024年12月8日頃に「とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」と変更していることがわかりました。
この時点で十分怪しいのですが、そのどちらにもプロフィールやポストに「公式LINE」へのリンクが当時(1月~2月時点)貼られていました。
タップして覗いてみたところ、友だちの数はなんと6千件を超えています。これはかなりまずいのでは……。
中ではいったいどんなやり取りが行われているのでしょうか。潜入用のアカウントを用意し、友だち登録を行ってみると、まずは自動でメッセージが送られてきました。デジタルギフトのプレゼントやAmazonギフト券プレゼントなど、様々なキャンペーンが行われる中、どうやらさつまいも1年分キャンペーンも実施しているもよう。
ちなみに「さつまいも1年分キャンペーン」は今年1月から毎月数回、Xにてフォロー&RTキャンペーンとしても実施されています。毎回の参加数は数千規模。
ただし「当たりました」という声は見かけたことがありません。あるとすればLINEアカウントで実施している「ハズレなしのデジタルギフトキャンペーン」のほうで。しかも「1円あたりました」という声ばかりです。
さて、LINEの案内によると「LINEメニューのAPPLY[1年分に応募]を押すだけで応募完了」とのこと。早速メニューを開こうとすると、下部に書かれているのは見慣れないアラビア文字。よ……読めない、けどきっとこれでしょう。タップすると下部からメニューがあらわれました。よかった。
メニューに並ぶのは、実においしそうな焼き芋の写真が載った「やきいも蜜芋」の購入バナー。画像には「南九州産さつまいもを使用した人気商品です。この機会に是非ご賞味ください」と書かれています。
そして次にあるのは、「お問い合わせ」「SNS」「APPLY(1年分に応募)」の3つのボタン。さっそく「APPLY」をタップし、焼き芋1年分に応募完了。当選発表は1月31日に行われるとのことでしたので、しばし待つことにします。(その後当然ながら外れました)
なお、「とろ蜜物語」のLINEアカウントは実はもう一つ存在しています。1~2月時点では平行して使用されており、こちらの友達数は約3千件。ただし、内容はどちらもほぼ同一で、唯一違うのは後者が文字化けなしでした。
と、ここまでの流れを編集部で報告したところ……筆者以外にも、この「とろ蜜物語」のアカウントに疑惑の目を向けるライターがいました。彼の名は「天谷窓大」。
天谷は実はライターとしての活動のほか、「さつまいもを365日食べる男」としても知られています。加えて、「一般社団法人 さつまいもアンバサダー協会」の焼き芋担当理事であり、焼き芋好きが高じて焼き芋専門フェスを立ち上げたほか、TBSテレビ「マツコの知らない世界」の「焼き芋の世界」放送回に出演したこともあるという経歴の持ち主。
天谷が「とろ蜜物語」のポストやLINE画面を確認したところ、「さつまいもでは、産地表示として『南九州産』という表記はあまり一般的ではない」と指摘しました。
「土のコンディションがダイレクトに品質を左右するさつまいもは、都道府県単位、さらには市町村、町域単位で産地を表記するのが一般的。『南九州』などという曖昧な産地表記はやはりまず考えられません」(天谷)
ただし、一般流通ではなく生産者や代理が直接販売するケース(たとえば直売のECサイト)や、加工後の商品では「南九州産」という表記が用いられる例もあります。したがって、「南九州産」という表示が必ずしも使われていないというわけではありません。
とはいえ、「とろ蜜物語」は芋を扱う専門業者(のはず)であり、産地表示にも一定のこだわりが本来あって当然。そうした点から見ても、表記の選び方には強い疑問が残ります。
疑惑の色がさらに濃く深くなりましたが、本当に何が目的なのかは、実際にこの業者が扱うさつまいもを見てみないことにはわかりません。
そこで、LINEのメニューから飛べるAmazonの販売ページにアクセスし、「とろ蜜物語」が誘導するさつまいもを購入してみることにしました。
Amazonのページにアクセスしてみると……まず驚いたのが、販売元が全く別の名前になっていた点です。「E」(以下、ブランドE)からはじまるブランド名になっていました。「とろ蜜物語」の名前やいずこに……。
調べてみたところ、ブランドEを運営しているのは、千葉県に本社を置く企業。さらに驚いたのが、LINEのバナーでは「南九州産」となっていたのに、Amazonの販売ページ側では「千葉県・茨城県産」と表記されている点です。
XおよびLINEでは、「とろ蜜物語」を名乗っていたにもかかわらず、ここに来て急に違う会社・ブランド名がでてきました。これは一体どういうことなのでしょうか。
LINEからの誘導リンクにAmazonアソシエイトプログラムのリンク形式が含まれていたので、誰かが収益を目的にXアカウントやLINEを作って、勝手に誘導していた可能性も考えられます。
つまり、「とろ蜜物語」と「ブランドE」の間には関係がない可能性もあるということです。
正直なところ不安しかないのですが、ここまで来たら一応確認するしかありません。一体何が届くのか?「わけあり品」「千葉・茨城産」と書かれたさつまいもを注文してみました。
ここからは天谷が執筆・調査のバトンを引き継ぎます。数日後、指定した届け先に「ブランドE」からのさつまいもが届きました。
箱を開けて出てきたのは、折れていたり、カビや汚れの目立つお芋。サイズも極端に大きなものから小さなものまでバラバラで、お世辞にも美しいとは言えない状態です。
中には見た目にもはっきりわかるくらい傷みのあるものもありました。食べて大丈夫なのでしょうか……。
切って断面を見てみたところ、中身は問題なく、食味にも特に異常なところは見当たりませんでした。
Amazonの販売ページのレビュー欄を見てみると、「味には問題なかった」「美味しかった」と評価する声がある一方で、「半分近くのお芋が腐っていた」「グチュグチュに腐っていて食べられなかった」とする声も。届くお芋の品質にはかなり大きなバラつきがあるようです。
加えて気になったのが、当時Amazonの「さつまいも」ベストセラーで1位になっていたこと。届いたお芋を見る限り、そんなに人気が出る商品だとは思えません。
箱に書かれた等級表を見ると、「秀」「優」と書かれた等級のうち「優」にマル印が。お世辞にも「優品」とは言えない気がするのですが……。
届いた箱の外観には「とろ蜜物語」との関連を示す表記は一切見当たらず、茨城県に実在する農家の名前と電話番号が記載されていました。
記載されていた農家に、身分を明かしたうえで、今回届いたお芋と箱の写真を送って、「この芋はそちらの商品でしょうか?」と問い合わせてみました。すると、以下のような回答が寄せられました。
* * * * *
・写真を見る限り、私たちのほうで「優品」として出荷しているお芋に間違いはないと思う
・「優品」とは「秀品(優良品)」以外のお芋、という意味。汚れや欠けなど、劣った部分のある「B級品」のものに相当する
・私たちは市場に卸しており、特定の業者に対する卸売は行っていない
・「とろ蜜物語」という業者については知らず、取引も行っていない。私たちのお芋がこのような形で販売されているとは知らなかった
* * * * *
返答から推察するに、「ブランドE」は、市場で売られている安価なB級品相当のさつまいもを何らかの手段で仕入れて販売しているようです。
B級品とは、外観に著しい型崩れや傷みがあったり、サイズにばらつきがあるとされるもの。食味自体に大きな問題はなく、Amazonの販売ページでも「わけあり品」と記載があったので、品質を偽装していると断言することは難しいでしょう。
ただ、世間一般的な「B級品」は、その中でもできるだけ美しいものを選別して出荷しているケースが多数。「ちょっと傷ついてるくらいだろう」という気持ちで今回届いたようなお芋を見ると、ビックリしてしまう人も多いのではないかと思います。
あまりそういうイメージはありませんが、さつまいもは作物として非常にデリケート。摂氏15度を切る低い温度下に置かれたり、洗浄時などの水濡れを十分に乾かさないままにすると、容易に傷んでしまいます。今回届いたお芋も、劣悪な環境で保存されていたのであろうということがうかがえるものでした。
試しに、今回問い合わせに応えてくれた農家のお芋を直売ルートから、編集部だとわからないようにした上で購入しています。購入したものは同じ箱に入って届きました。側面には「秀品(優良品)」の印字。
Amazon経由で購入したものよりも品質の高い商品でしたが、もちろん商品状態には何の問題もありませんでした。おそらく、同じ農家が販売しているB級品であれば、Amazonで購入したものも当初はある程度の品質を保っていた可能性が高いと思われます。
なお、入っていたキロ数と購入金額は、先に購入した「B級品」と、直販で購入した「秀品(優良品)」とで「ほぼ同じ」でした。どちらも5キロ入りで、税込価格は約2000円です。
この農家について、芋業界の仲間に評判をきくと「生芋を仕入れるなら茨城県○○の○○さん(農家名)が一番!」「良い芋を扱ってる」という回答。業界内では強く信頼されている農家だという評価でした。
こうした状況から考えると、やはり先に購入したものは、「販売店の管理状況のまずさ」から商品の状態を悪くしている可能性があるものと思われます。
そもそも、それ以前に問題なのは、「とろ蜜物語」側での産地の記載です。LINEのバナーでは「南九州産のさつまいも」と謳われていたのに、届いたのは茨城県産。
Amazon販売ページでは千葉・茨城県産となっていましたが、X(南九州産)→LINE(南九州産)→Amazon(千葉・茨城県産)と来た人ならば、Amazon側での「千葉・茨城県産」の表記を見落とす人が出てもおかしくありません。
「とろ蜜物語」と「ブランドE」の関係性は不明ですが、まずはAmazonで販売していた「ブランドE」に対して、届いたお芋の写真を添えて、「とろ蜜物語」との関係性を尋ねる質問状を2月18日に送りましたが、期日までに回答はありませんでした。
また、「とろ蜜物語」にも複数回問い合わせましたが、こちらからも一切回答は得られていません。
ここからは再び山口がバトンを引き継ぎます。
現時点で分かっていることは「とろ蜜物語」はやはり実態がつかめない“アヤシイ”存在であるということ。
「とろ蜜物語」は通販ページ(BASE)でもサツマイモを販売していましたが、なんと2月11日頃に突然りんごの販売を行う「もぎたてりんご」なるサイトに変化。
通販ページでは青森県産を謳うりんごや、りんご飴などが販売されていますが、なにせ直前まではさつまいもを販売していたはず。しかもアドレスは、「とろ蜜物語」通販ページの時のままです。数日の間にショップ内容が全く変わってしまうなんてことが、通常あり得るだろうか……いやない。
ちなみにBASE側での「特定商取引法に基づく表記」の欄では、事業者名こそ記載されているものの(個人名)、所在地や連絡先はBASEの連絡先が表示される「非公開モード」になっています。
そして2月18日の問い合わせ以降である、2月27日頃から続けて起きたのが、2つのLINEアカウントでの変化。最初に見つけた、友達数6千を抱えるアカウントの方でまず変化がおきました。
Amazonページへ誘導する、「南九州産」と書かれたバナーやメニューがまるっと消え去ったのです。
次に変化が起きたのは、友達3千のアカウント。こちらはバナーが「南九州産」から「茨城県産」に変わっていました。加えて、リンク先もBASEの「もぎたてりんご」ページへと誘導。
問い合わせに一切返事はありませんでしたが、何かしら思うことがあったのかもしれません。
他にも気になる動きがありました。実はここまで説明してきませんでしたが、「とろ蜜物語」関連のXアカウントとしては3つめ、そして広報アカウントとしては2つめの「【広報部】とろ蜜物語 焼き芋専門店公式」(@elunylad1976)が2月初旬頃から登場していました。
この存在は、公式アカウントが当時引用で紹介していたので、関係あることは間違いありません。
この第二の広報アカウントが4月頭頃に「愛用品&便利グッズを紹介するOLアカウント」に生まれ変わったのです。ついこの前まで、さつまいも1年分プレゼント企画を投稿していたのにです。
現在は新たな名前で、毎日元気に色んな企業の商品をアフィリタグ付きのURLを添えて紹介しています。ちなみにスクリーンネームは変わっていません。
いやあ、驚きました。企業アカウントが何の説明もなく、次々と生まれ変わっていく……そんなことはありえません。
企業アカウントがキャンペーン企画や事業の売却・再編などを理由に変更されることは、珍しくありません。とはいえ、そうした場合でも通常は何らかの説明があるものです。ところが現在のように、かつての広報用アカウントが説明もなく個人名義になり、別の商品を宣伝しているのは、やはり不自然と言わざるを得ません。
そしてもう一つ、最後の最後で分かったことがあります。なぜ「南九州産」を謳っていたかの理由です。実はバナー自体に理由がありました。
とろ蜜物語で使われているデザイン物の大半は、「クリエイターが配布・販売している素材」でした。某サイトで全く同じ素材が配布されており、配布の時点で「南九州産」と書かれていたのです。つまり、「そのまま使っていただけ」ということ。
今回記事に掲載するにあたり、クリエイターの一人に連絡を取ってみました。すると「南九州産」については、アタリ(利用者があとで変更できる)として入れていただけとのことでした。
最後にまとめると、今回のアカウントは、まず動物画像の無断転載やプレゼント企画でフォロワーを集め、その後アカウント名を切り替えて別の企業や店舗を装います。さらにプレゼント企画を行って、フォロワーを一気に増加させたうえで、格安食品の販売ページへと誘導。しかし、購入して届くのは、品質管理に問題のある商品……という構図でした。
ここまで巧妙かつ手の込んだ手口を用いる以上、これはおそらく個人の仕業ではありません。組織的に動いている可能性が高いと考えられます。実際、同様の手法を使っていると思われるアカウントや企業も、すでにいくつか把握しています。
そして現在も、「とろ蜜物語」の公式アカウントや第一の広報アカウント、LINEアカウント、さらには通販ページ「もぎたてりんご(元、とろ蜜物語)」など、関連する複数のチャンネルが活動を継続中。この先、頃合いを見て、また別の業者に名前や内容をすり替える可能性も十分に考えられるでしょう。
実際、通販ページ「もぎたてりんご」は、4月8日頃に「陽だまりりんご」へと名前を変更。同時に別のXアカウント(@BrianGarne80340)を立ち上げ、「りんご1年分プレゼントキャンペーン」を展開しています。
SNSで行われている企業アカウントによるプレゼントキャンペーンの大半は、真面目な企業が行っています。しかし、その好評ぶりから今回のケースのように、正体不明な存在が紛れ込んでいるのも事実です。
特に食品のキャンペーン参加や購入時には「運営元の実在確認」「過去投稿の整合性チェック」「過剰なプレゼント企画に対する警戒」を心がけてください。特に、実態の見えないアカウントや、あいまいな産地表示には要注意です。
そして、こうした人を欺く手法が平然と成立してしまう現状は、プラットフォーム側の監視体制やガイドラインの甘さとも無関係ではありません。
消費者だけでなく、サービス提供側にも是正の目が向けられるべき時期に来ているのかもしれません。
※画像のぼかし処理について:「とろ蜜物語」などで使用されていた画像の多くは、クリエイターズマーケット等で取り扱われている素材でした。そのため、各クリエイターの権利に配慮し、編集部が確認できた範囲で画像にぼかし処理を施しています。
(取材:山口弘剛、天谷窓大/編集・構成:宮崎美和子)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By 天谷窓大 | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025051204.html