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発表会直前や前日のリハーサルで「いつも出来ていることが出来なくなる現象」。これってバレエあるあるですよね。
お稽古場では苦労せずに出来ていたステップが上手くいかなくなる、回転やジャンプの調子が悪くなる、いつも間違えないところで間違える……。筆者も21年のバレエ生活(趣味)で何度も経験しました。
筆者の場合は、ゲネプロ(舞台上で本番と同じように行うリハーサル)や本番の朝のリハーサルなど、舞台に上がってから「調子が悪い」と感じます。
このように「本番直前にスランプ気味になってしまったとき」に筆者が実践していることを8つ紹介します。「舞台上での目線の高さ」など具体的なことから、精神論的なものまでさまざまありますが、きっと舞台に立つ方々の役に立つはずです。
お稽古場と舞台上で最も違うのは「空間の広さ」です。
舞台に立ったことがある方ならお分かりだと思いますが、舞台に立つと、客席側の空間が奥に・上にひろーーーく感じます。また、本番中は客席の明かりが消されるため、「真っ暗な広い空間」に向かって踊ることになります。
そのため、何も対策をせずに踊ると、客席の空間にあおられて、いつもより目線が上がり、上体が後ろに反ってしまうのです。当然、身体の軸も傾くため、回転などのテクニックが崩れたり、バランスが上手く取れなくなったりします。特に、正面を向いて回るテクニックは、空間の影響を受けやすいです。
この「空間の広さ」に上手く適応するには、目線が非常に大切です。
場当たり(舞台入りしたら最初に行われる、場所や出入りを確認するためのリハーサル)の時点では、客席の明かりが落とされていないことがほとんどだと思いますので、そのすきに「客席のどのあたりを見たら、いつも通りの目線の高さか」を確認しましょう。
経験上、客席の中央の通路あたりを見ると良いように思います。ただし、会場の広さによっても異なりますので、合間を見て、先生や上手な先輩ダンサーに尋ねてみるのもおすすめです。
舞台入りしてから調子が悪くなった場合、舞台の床や照明の影響が考えられます。
通常、バレエの舞台では「リノリウム」という床材が敷いてあります。お稽古場でリノリウムを使っていたとしても、場所が変われば何となく踊るときの感覚が変わるものです。
また、お稽古場にはない「照明」も踊りに影響します。スポットライトや横からの照明によって、顔を付ける位置が見つけにくかったり、まぶしくてバランスを崩してしまったりするのです。(当然、ダンサーを美しく見せてくれるためのものであり、舞台スタッフの方々を批判する意思はありません。念のため)
床・照明に上手く適応するには、正直「慣れ」しかないように思います。時間が許す限り、舞台上で練習し、床と照明の感覚を身体に落とし込んでいくのです。経験上、本番前日・当日の朝のリハーサルをこなせば、大体慣れてくるように思います。
なお、舞台上で練習する際は、舞台スタッフさんやほかの出演者の邪魔にならないよう、周囲を見渡すことも忘れないでくださいね。
特に、舞台スタッフの方は、大道具を運んだり背景を変えたりと大忙しです。舞台上にスペースがあるからと周囲を見ずに練習していると、スタッフの方の邪魔になることがあります。
先生が許可している場合は、客席からリハーサルの様子を撮影しておきましょう。客観的に見ることで、失敗の原因が分かることがあります。
また、照明の当たり方も分かるため「これ以上後ろに下がると、照明が当たらなくて暗く見える」など、場所取りのヒントが見つかることもあります。
ここからは、ある意味精神論的な対策です。
筆者が舞台に立つうえで非常に大切だと思っているのが「どんなことがあっても絶対に顔に出さない」ということ。仮に、振りを間違えたとしても、失敗してしまったとしても、こけてしまったとしても、絶対に顔に出さず、最後までやりきりましょう。
意外に思われるかもしれませんが、少しくらいの失敗であれば気付かれないこともあります。あとから舞台の映像を見ても「意外と分からないな」と思うものです。(分かる失敗もありますが。笑)
しかし、「あ、失敗しちゃった」と顔に出すと、表情から失敗したことが分かってしまいます。
「表情を崩さずにやりきる」ことは、上手い下手関係なく、心がけ次第で誰でも出来ることです。ぜひ練習のときから意識して癖づけてみてください。
調子が悪くなっているのは、緊張で力が入りすぎていることが原因かもしれません。
特に、首や肩に余計な力が入っていると、重心が上に行ってしまい、足の裏でしっかりと床を踏めないため、フラフラしたりテクニックが上手くいかなかったりします。
「力が入っている」「緊張している」と感じるときは、足を肩幅に開いて立ち、息をフーッと吐きながら全身の力を抜いてみましょう。その際に、足の裏で床を踏む意識、お腹の下部にしっかりと力が入る意識が出来ればさらに良いです!
先生の手が空いているタイミングを見計らって、アドバイスを求めるのもひとつの手段です。
「回転の軸が斜めになっている感じがするのですが、見ていただけませんか」「目線をつける位置が分からないのですが、どのあたりを見たら良いですか」など、なるべく具体的に尋ねると良いでしょう。先生も手短に答えることができます。
以前、出演してくださったゲストダンサーの方が、緊張するときは「何度も練習したお稽古場を思い出して、大丈夫と自分を励ます」とおっしゃっていました。
お稽古場を思い出すことは、このように精神的な支えになるほか、場所取りや顔を付ける位置を決めるのにも役立ちます。
お稽古場で練習する際、場所取りや顔を付ける位置は大体いつも同じでしょう。例えば「この位置でポーズを決める」「回転のときは〇本目の柱を見て顔を付ける」など、思い出す光景があるはずです。
その頭の中にある光景を、舞台に当てはめるのです。やや抽象的な表現で申し訳ないのですが、端的に言うと「お稽古場で踊っていると思い込む」というわけです。
もちろん、舞台とお稽古場の広さは異なるため多少の調整は必要になりますが、ただ「あ〜舞台って広くて場所取りが大変……」と思いながら踊るよりは、「〇枚目の袖幕が、お稽古場でいうところの〇〇だな」などと思いながら踊ったほうが、上手く場所を取ったり、顔を付けたりできると思います。
特に、マネージュ(回転やジャンプをしながら舞台上で円を描く動き)など、顔を付ける位置をどんどん変えていかないといけないテクニックで役立ちます。
最後に紹介するのは、筆者がいつも出番直前にやっていることなのですが……「絶対に出来る!!」と自分に言い聞かせるということです。
緊張していると「あのテクニック失敗したらどうしよう」「最後まで体力が持つかな」などとマイナスな想像ばかりしてしまいます。
気持ちの問題といわれればそうなのですが、マイナスな想像ばかりしていると、そのイメージに引っ張られてしまう気がするため、おすすめしません。
「絶対に出来る!」「何があってもやり遂げる!」と言い聞かせて舞台に出ることで、気持ちが前向きになるような気がしています。ある種、ジンクスのような感じですが、最後に信じられるのは自分だけです。ぜひ、今までの練習を信じ、自信を持って舞台に立ってください。
本番直前にスランプ気味になってしまったときに筆者が行っている対策を8つ紹介しました。
本番は、いつもと違う空間・床・照明・緊張感の中で踊るため、上手くいかないときも、最高の出来とは言えないときもあります。練習の7〜8割出来たらバッチリ、練習通りできたら大成功です!
本稿で紹介したことを取り入れつつ、あとは本番だけの空気感を全力で楽しみましょう!仮に失敗しても、楽しんで踊っている様子は必ず観ている人に伝わります!
(上村舞)