- 週間ランキング
入学シーズンとなり、小学校などでは「いかのおすし」という防犯標語を耳にする機会が多いのではないでしょうか。親の世代によっては初めて耳にし「イカのお寿司??」と驚く人がいるかもしれません。
思わずクスっとしてしまう標語ということもあり、「ばかばかしい」「なんでこれにしたの?」なーんて声もあるようですが、実はこの標語ができた当時は「子どもが被害にあう」さまざまな重大事件が起きていました。
本稿では標語ができた当時の話から、親子で話し合う際のヒントまでを紹介していきます。
防犯標語「いかのおすし」は2004年(平成16年)に東京都と警視庁により、「子どもを犯罪被害から守るため」に考案されました。
現在30代前半の人たちが小学生高学年の頃に生まれた標語です。このため世代によっては「子どもが小学生になって初めて聞いた」「なんじゃそりゃ」と驚く人は少なくありません。
そして「いかのおすし」とは、次の5つの言葉の頭1~2文字をとって付けられています。
「いか」かない
「の」らない
「お」お声を出す
「す」ぐ逃げる
「し」らせる
それぞれの意味を見ていくと、誘拐などから「子どもが自分自身を守る」ために作られたものだということは明白。
ただ……つなげてみると「いかのおすし」という語呂のため、「イカのお寿司」をつい想像してしまい危機感がやや薄れてしまいそうになりますが……この言葉が生まれた当時は、子どもが被害にあう重大な事件が数々起きていました。
当時日本では「子どもが被害にあう事件」が社会問題化していました。誘拐や、小学校への不審者侵入による殺傷事件などです。
【当時の事件】
・2001年(平成13年):愛知県一宮市小4女児失踪事件(未解決)
・2001年(平成13年):大阪教育大付属池田小学校でおきた殺傷事件
・2002年(平成14年):茨城県取手市小3女児行方不明事件(未解決)
・2003年(平成15年):大阪府泉南郡熊取町小4女児誘拐事件(未解決)
また上記以外にも2000年(平成12年)には、小学4年生のとき誘拐された女性が発見される出来事も起きています。
誘拐されたのは9歳の時。9年の監禁を経て発見された時は19歳になっていました。この事件は、逮捕された男の刑が確定する2003年頃(平成15年)まで各報道機関では何度も特集が組まれたほど世間の注目をあつめました。
こうして「子どもに関わる事件」が連続していたこともあり、大人たちが「子どもを守るために」「子どもたちにも自身を守ってもらうために」考え抜いて生まれたのが「いかのおすし」。
大人がみると「ちょっとばかばかしい」と思うかもしれませんが、標語の対象は「子ども」。「いかのおすし」は子どもたちに大いにウケ、誕生から19年たった現在では全国にひろまる「防犯標語」として浸透しています。
「いかのおすし」考案に関わった警視庁では、子どもを犯罪から守るために『いかのおすしを「繰り返し」「具体的」に伝える』ことを推奨しています。
つまり学校だけではなく「家庭内でも親子でしっかり話し合っておくこと」が重要。ただ言葉だけを知っていても「具体的な内容(パターン)」を知らなければ、子どもだけの時なら判断を誤る可能性があるためです。
そこで「子どもに伝える際」のヒントになる参考事例含めて次で紹介していきます。
連れ去りなどを想定した「いかない」。想定シーンはさまざまありますが、まず押さえておきたいのが前提。
この前提部分は標語の啓蒙資料などにはなかったため「あくまで筆者の持論」となりますが、基本的に大人が子どもに助けを求めたり、親や保護者がいない場面で大人が「一緒に遊ぼう」と誘ったりすることはありません。
もし仮に困っている場面があったとしても、「誰か大人の人を呼んできて」と頼まれることがほとんどなはずです。
これら前提を伝えた上で、子どもたちにはさまざまな想定シーンを伝えてみると良いと個人的には考えています。
パターンとしては次のとおり。ただし挙げているのは一例です。各家庭で色んな場面を想定して話し合うことを強くオススメします。
【想定シーン】
・一緒に遊ぼうと誘われる
・かわいい犬を飼っているから見においでと誘われる
・道を尋ねてきて一緒に来て道案内をしてと言われる
・ペットを探しているんだけど一緒に探してほしいと頼まれる
・~で困っているので助けて・手伝ってと声をかけてくる
・お母さん(家族)がケガしたから迎えに来た
・お母さん(家族)に頼まれたから迎えに来た
次に大事なのは「誰が言ってきてもママ・パパの許可なしではついて行かない」という念押し。「知らない人にはついていかない」と昔はよく言われていましたが、これはもう古い言葉です。
性犯罪のうち子どもが被害者になるケースでは、「顔見知りによる犯行」も多いとされています。
NHKが2022年に行ったアンケート※で「被害時18歳未満」の人に「加害者との関係性」を聞いたところ、家族・親族なども含めた「顔見知り」は48.9%と高く、内「(家族以外の)顔見知り」に条件を絞っても25.2%とやはり高めだったことが分かっています。
つまり「いかない」とは、「親の許可なしには“誰にもついていかない”」ということです。
「の」らない、は誰かに誘われても親の知らないところで車などに「のらない」。という意味をさします。
下校時などに「お母さん(家族)がケガしたから迎えに来た」「家まで送るよ」などといって車に誘って誘拐しようとする事件は現実に何度も起きています。空想上の例えではなく、現実にあることなんです。
とにかく車でもバイクでも、自転車でも。親の知らないところで誰かに「のらない」と誘われたら断る勇気を。といっても、実際その場面になったら声が出なくなるお子さんは珍しくありません。親のいないところで大の大人にいきなり声をかけられたら、子どもは誰でも固まってしまいます。
その場合は「とにかく人のいるところまで全力で走って逃げる」こと。また逃げられなさそうな時や、逃げながらでもできるならば、悲鳴でいいので「大声を出す」もしくは、手持ちの防犯ブザーや笛の「音で異変を周囲に知らせる」ということも併せて強く教えておきましょう。教える、というよりはこの場合、より強い「指示(必ずそう行動しなければならない約束)」として伝えた方が子どもの意識的にはより強く働くかもしれません。
無理して相手をするのはとにかく危険です。お子さんの中には相手が不審者だと気づくと、子どもゆえの純粋な「正義感」から逆に闘志を燃やしてしまう子もいます。そういうタイプには特に念入りに、不審者は相手をせずに「逃げる」「大声を出す(大きな音を出す)」ということを「指示」しておくことが大切。変に刃向かって、ケガでもしたら大変ですから。
ちなみに小学校などの付近には「子ども110番の家」という活動に参加している家があります。子どもが犯罪被害に遭いそうになったときなどに駆け込める場所です。もちろん保護してもらえます。
通学路やよく遊びに行く公園までの道順の中で「どのおうちが参加している」か。散歩がてらお子さんと確認しておくと良いでしょう。参加している家の前には「子ども110番の家」を示すステッカーなどが貼られています。
「いかのおすし」の最後をしめくくる「しらせる」。これも「親子でしっかり事前に話し合っておくべき」項目です。
意味は文字通り、被害にあった・あいそうになった事を「大人に知らせる」ことですが、子どもって実は意外と「大人に話せない」「話さない」場合が多いんです。
とりあえず難を逃れたことに安堵して「いまママは忙しいから……」とつい後回しにして忘れることや、性被害の場合には「イヤなことをされたのはわかるけど、言いだしにくくて言えない」。
また事故にあってしまったのに目に見えるケガではないという事を理由に「飛び出したことを怒られるから言えない……」(場合によっては、親にバレるのを怖がり「ひき逃げ」の逆で「ひかれ逃げ」する子もいる)となる場合があります。
こうして「しらせる」を後回しにした結果、判明したときには……事故ならあとから症状が出るかもしれませんし、性被害ならばさらにひどい展開もあり得ます。それを避けるには「もし何かが起きたら必ず親か周りの大人にすぐ知らせること」を、強く伝えて「約束」しておくことが大切です。
そしてもちろん子どもからの報告を受けた大人は、さらに周りにそれを知らせること。学校・警察、状況に応じた適切な場所へ報告してください。次の被害を減らす一歩になるかもしれません。
* * * * *
「いかのおすし」という、ちょっとクスっとさせられる標語の本質にある大切なこと。子どもたちに向けて話す啓蒙の中では、あまり深く標語ができた当時の話まではされませんしできません。
ただこうして「標語ができた当時の背景」を大人側が知ると、子を持つ人にとっては怖さ、そして大切さがより分かるのではないでしょうか。
少し重い話ばかりしてしまいましたが、標語ができてもうまもなくで20年。あのとき何が起きていたか……を大人側は振り返って気を引き締めつつ、お子さんと一緒に改めて「いかのおすし」についてご家庭でも話し合ってみてください。
<参考>
おやこでまなぼう!「いかのおすし」で毎日安全!(警視庁)
防犯標語「いかのおすし」誕生裏話(有明教育芸術短期大学HP)
防犯標語「いかのおすし」はいかに生まれたか(exciteコネタ)
※性暴力アンケート(NHK)
茨城9歳女児不明から15年 母親「会いたい」(テレ朝ニュース)
※その他の参考は各項目に直接リンクしています。掲載画像は警視庁「いかのおすし」リーフレット(PDF)より。
(宮崎美和子)