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楽しく食事ができるのは人生の楽しみ。それにはまず、歯や口の中の健康を維持することが大切です。口の中の機能が衰える「オーラルフレイル」を主題としたサンスター主催のメディアセミナーが開催され、健康で長生きするためには、オーラルフレイル対策の習慣づけが必要だとの見解が示されました。
このセミナーは2022年7月9日、都内の会場とオンラインを通じて開催されたもの。セミナーに先立ち、サンスターグループの吉岡貴司執行役員から、歯周病対策などに関するサンスターの取り組みについて紹介がありました。
サンスターでは1986年、神戸国際会議場で開催された歯周病の学術会議で国際シンポジウムを開催。以来、歯周病と全身の健康状態との関係について、海外の研究機関とも協力しながら様々な研究を進めてきたといいます。
基調講演に登壇したのは、小山茂幸先生(日本歯科医師会常務理事/山口県歯科医師会会長)。タイトルは「オーラルフレイルで死亡リスク2倍!なぜ国民皆歯科健診に注目が集まるのか!?」という、いささかショッキングなものです。
冒頭で小山先生は、歯周病になったシカの顎の骨画像を示し、最終的に歯の支持体である骨が溶けてなくなってしまう歯周病の恐ろしさを説明。2020年の調査で日本人の平均寿命は男性81.64歳、女性87.74歳だったことを紹介しましたが、このうち健康を損ねて要介護の状態が10年ほどあるのだといいます。
高齢化が進む日本。なるべく要介護の状態を減らし、元気な高齢者をいかに増やすかが課題です。人間はいきなり要介護の状態になることは少なく、その前触れともいうべき状態「フレイル」を経て身体機能が低下していくのだとか。
寝たきりの要介護状態に至る前にある、身体機能の衰えを指す「フレイル」という段階。これは悪くなる一方ではなく、対策をすることで回復できる可逆的な状態なのだそうです。
早い段階からフレイルにならないよう対策を講じることが大切ですが、その前触れが現れるのが口の中。少しずつ口の機能が衰える「オーラルフレイル」という状態を放置することで、栄養を十分に摂取できなくなり、身体症状の悪化へとつながるといいますから、口の中の健康は非常に大切なのですね。
オーラルフレイルの始まりは、ほんのわずかな不調からなのだとか。小山先生は次の症状を例として挙げました。
・滑舌が低下して早く喋れなくなった
・食べこぼしが増えた
・お茶や汁物を飲んでむせるようになった
・堅い食べ物が噛めなくなった
・口の中が乾きやすくなった
どれも日常生活では見逃しやすく、自分や周囲の人が気付きにくいことばかりです。
また、認知症についても「自分の歯がほとんどない」「あまり噛むことができない」「かかりつけの歯科医院がない」という人は、そうでない人に比べて発症リスクが高まるという資料も提示されました。自分の歯が20本以上ある人と比較して、歯が数本しかなく入れ歯を使っていない人の場合、発症リスクが1.85倍になるという調査結果があるそうです。
口の中が乾きやすくなるのは、唾液の分泌量が少なくなっているのかもしれません。唾液は歯に食べカスをつけにくくしたり、細菌を洗い流してくれたり、むし歯の進行を遅らせたりするほか、免疫力を高める役割も担っているのだといいます。
飲み込む(嚥下)機能が低下し、むせるようになると、それをきっかけに誤嚥性肺炎を発症することも。肺炎は高齢者の死因で上位に挙げられる病気ですが、その原因にもなるようです。
老化、衰弱の予兆となるオーラルフレイルですが、きちんと対策をすれば回復させることも可能。「歯を失わないこと」「口の機能を保つこと」そして「かかりつけの歯科医院を持ち定期的にかかること」を心がけましょう、と小山先生は語りました。
口の機能(口腔機能)を衰えさせない「口腔体操」、唾液の分泌を促す「唾液腺マッサージ」という方法もあり、歯科医院では指導もしてくれるようです。オーラルフレイルを放置して歯周病を悪化させ、歯を失ってしまわないよう、口まわりの“ささいな衰え”を見逃さないようにするのが大切ですね。
さらに、国民皆歯科健診が盛り込まれた「骨太の方針2022年」を受け、日本歯科医師会からオーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実について、「2040年を見据えた歯科ビジョン」で、「2025年までにオーラルフレイルの認知度を50%にする」という目標を掲げて普及を進めるとの見解が示されたことも紹介され、講演は終了しました。
これに続けて行われたトークセッションでは、元NHKエグゼクティブ・アナウンサーの石澤典夫さんの進行で、小山先生のほか平野浩彦先生(東京都健康長寿医療センター 歯科口腔外科部長)、大月基弘先生(日本歯周病学会専門医・日本臨床歯周病学会認定医)、タレントの宮崎美子さん、サンスターの永谷美幸さんが登壇しました。
まずは平野先生から、「オーラルフレイルで死亡リスク2倍」について、追加の説明がありました。2000人の地域在住高齢者を対象に調査したところ、オーラルフレイルのある人は2年後または4年後の「フレイル」「サルコペニア(加齢による筋肉量の減少および筋力の低下)」「要介護認定」が約2倍、4年後の亡くなるリスクが約2倍になったと報告されました。
いわゆる「8020運動」で自分の歯が20本以上残っている高齢者は増えたそうですが、ただ残っているだけでは不十分なのだそう。歯周病により、ちゃんと噛むことのできない人が60代で46.4%、70代以上で42.2%にもなるのが困りごとなのだとか。
続いてサンスターの永谷さんから、20歳以上の男女600人を対象に実施した「オーラルフレイルに対する意識調査」の結果が示されました。オーラルフレイルの危険性がある人は全体の52.8%にもなり、65歳以上になると56.0%にものぼったそうです。
また、2021年12月に50歳~79歳の方1000名を対象にオーラルフレイルの認知率を調べたところ、わずか19.6%に過ぎなかったとのこと。宮崎美子さんも「私も実は、知らなかったんですよ……」と告白していました。
オーラルフレイルをいかに見つけ、自覚するかですが、平野先生から8項目のチェックリストが提示されました。
(「はい」で2点)
・半年前と比べて、堅いものが食べにくくなった
・お茶や汁物でむせることがある
・義歯を入れている
(「はい」で1点)
・口の乾きが気になる
・半年前と比べて、外出が少なくなった
(「いいえ」で1点)
・さきイカ、たくあんくらいの堅さの食べ物を噛むことができる
・1日に2回以上、歯を磨く
・1年に1回以上、歯医者に行く
集計し、0~2点は「オーラルフレイルの危険性は低い」、3点は「オーラルフレイルの危険性あり」、そして4点以上になると「オーラルフレイルの危険性が高い」とのことです。
大月先生からは、日本で歯を失う原因の第1位は歯周病で、約4割を占めることが説明されました。歯周病は成人の7割がかかっているほどポピュラーなものだそうで、他人事ではなく「自分ごと」だと思ってほしいと話します。
歯周病の厄介なところは初期に自覚症状がないことだそうで、歯がグラつくな、など自覚症状が出た頃にはすでに重症化していることが多いとのこと。いわばオーラルフレイルの状態にあるといいます。
また、歯周病では奥歯から歯を失っていく性質があるそうで、そこから栄養状態が悪くなり、全身の健康状態悪化につながるとも。オーラルフレイル、そして歯周病ケアが重要であることが分かります。
聞けば聞くほど大事なオーラルフレイル、歯周病対策ですが、後期高齢者向け歯科健診にはオーラルフレイルのチェックが盛り込まれている、と平野先生が紹介してくれました。歯科では2018年、オーラルフレイルに「口腔機能低下症」という病名がつけられ、その対策や管理などが行われているのだそうです。
ただ、歯科の分野で体制が整ってきていても、受診しなければ意味がありません。かかりつけの歯科医を持ち、むし歯などの症状がなくても定期的に通って口の中の健康をチェックするのが大切なようです。
歯を失わず、口の機能を維持することが健康長寿の第一歩、という話を受け、宮崎さんは「歯を失うだけで容貌が変わることもあるし、オーラルフレイル対策の運動は美容に良いというアピールもできるかも」とも発言。いつまでも若々しくいる一環として、口腔機能を維持する運動を勧めるのは有効かもしれませんね。
大月先生からは、まず大事なのはセルフケア、自分自身で歯を磨くなどの重要性が挙げられました。しかし、自分では「できてるつもり」になっていることも多いので、かかりつけの歯科医院で定期健診を受け、自分に適した口腔ケアの方法を教えてもらってください、とのメッセージもありました。
オーラルフレイル、そして歯周病対策は、全身の健康状態に関わる重要なことだということが分かりました。かかりつけの歯科医院で指導を受けつつ、適切な口腔ケアをして、健康な状態を長く維持したいものです。
取材協力:サンスター株式会社
※吉岡執行役員の「吉」は、正しくは「土」の下に「口」です
(咲村珠樹)