鉄道模型の楽しみは、車両をコレクションしたり走らせたりするだけでなく、沿線風景を作り込んで特定の場所や時代を再現するジオラマ(レイアウト)というものもあります。

 身近な風景や小さい頃に見慣れていた風景、はたまたオリジナルの鉄道路線など、ジオラマの題材は多種多様。その中で、主に九州地方を題材にノスタルジックな鉄道風景を作る、SlopeModelの磯野さんが手がける作品をご紹介します。

 磯野さんは岡山県出身で、現在は九州北部在住。鉄道模型歴は小学5年生の頃、Nゲージの入門セットを両親に買ってもらったのが始まりだといいます。

 当時から「いつかは街並みを作って、その中を走らせてみたい」と考えていたそうですが、その夢は大学進学で一人暮らしを始めたことで実現。以来、様々な鉄道模型ジオラマを作ってきたそうです。

 屋外撮影や運搬がしやすいよう、作品の大きさは縦横1m前後のものが多いそう。大きなものでも畳1畳分、という大きさに決めているとのこと。比較的コンパクトなレイアウトですが、細密感を再現するにはちょうどいいサイズといえます。

 主に九州地方と、故郷である岡山県にかつて走っていた「下津井電鉄線」というナローゲージ(軌間762mm)の風景をモチーフに作っている磯野さんですが、大学卒業後、教員採用試験を受け続ける生活が続き、いつしか模型作りを中断したこともあったのだそう。

 幸い、別の職を得て生活するうちに何か情熱を注げるものを求め、ふと思い出したのが鉄道模型のジオラマ作り。少しずつ再開するうち、作品がコンペで入賞したり、雑誌の表紙を飾ったりするようになりました。

 作品は、JR肥薩線の嘉例川駅(九州現存最古の木造駅舎)や、JR久大本線(ゆふ高原線)の由布院駅など、木の温もりを感じられるものが目立ちます。

 「木造駅舎の個性というか、昔の駅は何かしらの装飾などが施されて、期待や地域の想いが込められて作られたのだろうな、と感じます。そんな痕跡のある駅が好きなんです」と磯野さん。


 JR九大本線(ゆふ高原線)や由布院駅など、九州の情景をモチーフにすることが多いのは「自分が九州に住んでいる意義というか、理由づけのようなものだと思っています」と語る磯野さん。現在、長きにわたって情熱を注ぎ、作っているのがJR九州・折尾駅の旧駅舎と周辺の風景です。

 折尾駅は1891年に当時の九州鉄道(現:JR鹿児島本線)と筑豊興業鉄道(現:JR筑豊本線)の駅として別々の場所で開業し、1895年に現在地に移転した際、日本初の立体交差駅となりました。

 当時の駅舎は21世紀になっても使用され続けましたが、駅周辺の連続立体交差事業にともなう再開発により解体され、現在は一部がモニュメントとして駅構内に残り、歴史を伝えています。

 磯野さんは折尾駅ジオラマの設定年代を1960年代としました。「ちょうどこの頃は鉄道の高速化にともない、蒸気機関車や気動車、電車が混在した時代です。このバラエティ豊かな車両たちを立体交差で再現したいと同時に、模型を見た人が幼い頃や若い頃を回想できる作品にしたいんです」と、思いを語ってくれました。

 折尾駅周辺には、線路に沿って洞海湾にそそぐ新々堀川が流れており、1960年代では駅前に西鉄北九州線(路面電車)も乗り入れていました。ジオラマでは堀川沿いの街並みもリアルに再現されています。

 色々なこだわりを盛り込んでいるため、当時の写真を所有している方から見せてもらうなど資料収集にも時間をかけており、作り始めて6年になりますが「進捗率は85%ほどです」とのこと。

 地形や建造物はできているので、あとは人物フィギュアなど、当時の雰囲気を彷彿とさせる細かな部分に手を入れていく予定だそうです。

 ジオラマ作りの魅力を「対象をギュッと凝縮することで醸し出される格好よさやかわいさ、精密感に魅力を感じます。思い描くものを作るとき、何を使ってどう工作すればできるかを毎回考え、条件をクリアしながら完成を目指す過程が楽しいんです」と磯野さんは語ります。

 そんな磯野さん初の個展「鉄道情景ミニチュア展」が、2022年6月3日より大分県由布市湯布院町の「由布院 受け月ギャラリー」で開催されます。会期は7月4日まで、開場時間は10時~17時となっており、水・木曜日は休廊とのこと。磯野さんの在廊日時については「SlopeModel」ホームページで告知するとのことです。

<記事化協力>
SlopeModel 磯野さん(@slopemodel)

(咲村珠樹)

情報提供元: おたくま経済新聞
記事名:「 懐かしき鉄道風景を生活感あふれる表現で SlopeModelさんのジオラマ