猫本書評:手作りの品が紡いだ暮らしと記憶、触れば浮かぶあの子の感触
猫ジャーナル 2021年06月08日 00:58:00
18歳のある日、闘病生活が始まりました。近づく別れのときを覚悟しつつ、不安と恐怖を払拭するようにせっせとミシンを踏んでは通院グッズを縫いました。『猫と暮らす 手づくり帖 おもちゃ・キャリー・ケアグッズ』カバーそで より手術後に用いた腹巻き、待合で過ごすとき用のスリング、ミケコがずっと愛用していた毛布とブランケットと枕。ミケコの闘病生活をサポートし心を安らげた手作りアイテムは、後に越膳さんの心にポッカリと空いた穴を埋めることにもなるのです。
もちろんしばらく喪失感は続きましたが想像していたよりも早く抜け出せたのは精一杯やりきったと感じられたからかなと思います。そしてまた、ミケコのことを思い出しながらこの本を作る作業が、私にとっては救いの時間になりました。『猫と暮らす 手づくり帖 おもちゃ・キャリー・ケアグッズ』カバーそで より手を動かしていると、余計なことに気を取らずに済みます。猫じゃらしを作りながら、あのモーラみたいなやつはイマイチだったな、白いボンボンのついたリボン状のじゃらしにビニール袋を縛り付けたらずっと飽きないな、とか、ねずみを作りながら、子猫のころに買ったねずみのオモチャは気に入りすぎて噛み噛みしまくって原型を留めなかったな、とか、これから作る物にまつわる記憶が浮かんでくるのであります。 そうこうしているうちにできあがった手作りアイテムは、もしかしたら気まぐれで繊細な猫のお気に召さないかもしれません。でも、手作りした時間、猫を思った時間は減じることはありません。再び試行錯誤しながら作れば、猫に使う時間は倍プッシュ。猫が喜んで使ってくれたら倍々プッシュ。その蓄積はお別れのあとに何物にも代えがたい思い出となって手元に残るのです。 手作りしていたのはアイテムだけではなく、猫との暮らしそのものであり、猫との思い出であり、最愛の猫に尽くした自らへの矜持なのであります。『猫と暮らす 手づくり帖』と題されたのも、猫との暮らしは、猫とともに天より与えられるものではなく飼い主が手ずから作るものであり、さればこそ、悲しき別れの後の暮らしも作れるものだと伝えているのではないのかと感じられるのであります。 別れの後の暮らしが長くなり、時が悲しみを癒やしてくれたころ、足早だったはずの猫がいつの間にかどこに去ることもなく三途の川の彼岸でちょこんと前脚を揃えて、人間がのこのことやってくるのをずっとずっと待ってくれているのに気が付くのであります。 [『猫と暮らす 手づくり帖 おもちゃ・キャリー・ケアグッズ』/エクスナレッジ] The post 猫本書評:手作りの品が紡いだ暮らしと記憶、触れば浮かぶあの子の感触 first appeared on 猫ジャーナル.
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