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開発された人工クモ糸は、正式には「高分子アミロイド繊維」と呼ばれており、水に溶けない繊維状のタンパク質です。
この人工クモ糸は、研究者が直接製造するのではありません。
まず遺伝子操作された細菌をつくりだし、その細菌に人工クモ糸を製造させるのです。
2018年には、天然のクモ糸とほぼ同等の強度と性能をもつ人工クモ糸を開発。
そして最近チームは、人工クモ糸のタンパク質配列を変更することで、その強度を向上させることに成功しました。
新しい人工クモ糸の平均引張強度は、1000メガパスカル(MPa)です。
建物の骨組みや機械の部品に用いられる一般的な構造用鋼が450MPa、鉄と炭素の合金である炭素鋼が841MPaであることを考えると、非常に高い強度だと分かります。
またいくつかの天然クモ糸の引張強度も超えています。
では、こうした人工クモ糸の開発は私たちにどのような影響を与えるのでしょうか?
私たちの周囲は、石油で作られるプラスチックであふれています。
特に合成繊維であるポリエステルは軽量かつ高強度なため、世界中で利用されているのではないでしょうか。
しかし石油資源には限界があり、自然界でなかなか分解されないという大きなデメリットがあります。
そのため世界中の科学者たちは代替品の開発に取り組んできました。
その中でも特に注目を集めているのが、人工クモ糸なのです。
人工クモ糸のメリットは、「原料がタンパク質」であることと、「高い強度をもつ」ことです。
豊富なタンパク質から強力な繊維を製造できるため、環境にやさしく、幅広い分野に利用できます。
将来的には使い捨ての袋や容器だけでなく、手術用の縫合糸や人工血管、産業機器にまで適用できると考えられています。
ちなみに研究チームによると、「まだ調査できるタンパク質配列が数千ある」とのこと。
人工クモ糸の強度や性能が高まる可能性はまだまだ残っているのです。
参考文献
Synthetic spider silk stronger and tougher than the real thing
https://newatlas.com/materials/synthetic-spider-silk-stronger-tougher/
元論文
Microbially Synthesized Polymeric Amyloid Fiber Promotes β-Nanocrystal Formation and Displays Gigapascal Tensile Strength
https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acsnano.1c02944
ライター
大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。
編集者
ナゾロジー 編集部