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まず、モデルマウスに対し、電気刺激を使った「遠心性収縮」による重度の肉離れを起こさせ、損傷部の筋サンプルを採取します。
筋肉の収縮には、筋組織が縮む「求心性」と、引き延ばされる「遠心性」があります。
例えば、ダンベルを持って肘を曲げていく運動が求心性収縮で、反対に、肘を曲げた状態からダンベルを降ろすようにゆっくり伸ばす運動が遠心性収縮です。
後者の方が力の発揮が大きく、筋トレの効果も高いですが、代わりに負荷が高く、筋損傷にもつながりやすいです。
話を戻して、筋サンプルの採取後、ポリエチレンの袋に入れた氷で1回30分、2時間ごとに3回のアイシングを行い、これを筋損傷2日後まで続けました。
コントロール群として、アイシングをしない条件でも行っています。
それから2週間後の筋サンプルを観察した結果、アイシングをした群はコントロール群に比べ、細い筋繊維の割合が多くなっていました(上図)。
これはつまり、アイシングによって骨格筋の再生が遅延していることを示しています。
では、筋組織の再生プロセスで何が起こっているのでしょうか。
チームは、筋肉の再生プロセスを理解するべく、時間経過ごとの筋サンプルを調べました。
一般に、再生プロセスでは、炎症細胞が集まってきて、損傷した組織を取り込んで消化し、そこから新しい筋が作られていきます。
ところが、アイシングをすると、損傷した筋細胞に炎症細胞があまり集まっていかないことが判明しました。
代表的な炎症細胞のマクロファージには、損傷筋を取り込んで消化することで炎症反応を起こす「炎症性マクロファージ」と、炎症反応を抑え、筋の修復を促す「抗炎症性マクロファージ」があります。
そして、炎症性マクロファージは次第に、抗炎症性へと特性を変えていきます。
しかし、アイシングをすると、炎症性マクロファージが早期に損傷筋に集まってこないので、自然と修復も遅れてしまうのです。
以上から、筋肉の損傷部にアイシングをすることは、新しい筋細胞の生成を遅らせると結論できます。
一方で、研究主任の荒川高光氏は「アイシングをしても良い軽度の筋損傷がある可能性も否定できず、その線引きが今後の課題である」と指摘します。
それでも、「アイシングをしない」という処置もあることを念頭に置いておくと良いでしょう。
※この記事は2021年公開のものを再掲したものです。
参考文献
アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる(神戸大学)
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2021_04_23_01.html
元論文
Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the disappearance of necrotic muscle fibers and phenotypic dynamics of macrophages in mice
https://journals.physiology.org/doi/abs/10.1152/japplphysiol.01069.2020
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部