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2021年2月26日に『Science』に掲載された論文は、体重が100キロから1000キロの「中型」に分類される肉食恐竜が存在しない理由について説明しています。
確かに、肉食恐竜でと言えばティラノサウルスのような大型種やラプトル(ヴェロキラプトル)のような俊敏な小型種は知られているものの、馬サイズの肉食種となるとあまり記憶にありません。
しかし、なぜ中型は生き残れなかったのでしょうか?
目次
現在の地球に広く分布する哺乳類は、上の図のように、ネコからライオンまで様々な体重の肉食獣が連続的に存在しています。
一方で、これまで発掘された肉食恐竜の化石には、奇妙な歪みがありました。
肉食恐竜の体重分布は大型のものほど種類が多く、中型(100~1000キロ)が最も少ないという、哺乳類とは真逆な構成になっていたのです。
しかしこれまでの研究では、歪みの原因は明らかにされていませんでした。
そこでニューメキシコ大学の研究者たちは化石を元に、肉食恐竜の体重分布を改めて算出することにします。
研究者たちは550を超える世界中の恐竜種の化石を調べ、それが肉食恐竜であるか、および想定される成体の体重を算出しました。
結果、意外な事実が判明します。
ティラノサウルスのような大型の肉食恐竜が存在した全ての地域で、中型(100~1000キロ)の肉食恐竜がほぼ皆無であったことが判明したのです。
しかし、いったい何が原因で中型種は駆逐されてしまったのでしょうか?
なぜ大型の捕食者がいる地域で中型の肉食恐竜が存在しなかったのか?
謎を解く鍵となったのは、大型種の子どもでした。
研究者たちが、卵からうまれた大型種の子どもの毎年の生存率を予測した結果、成長中の大型種の子どもが、まるで地域全体の中型種のように振る舞うことを発見したのです。
論文の第一著者であるシュローダー氏はこの発見について「大型肉食恐竜のいる生態系は、彼らの若者でいっぱいだった」と述べています。
これらの見解は、大型の肉食恐竜が反映している地域では、大型種の若者たちが生態系のかなりの部分を占めており、独立した中型種の参入が絶望的であったことを示します。
今回の研究により「中型」肉食恐竜が多くの地域で不在であった原因が解明されました。
大型の肉食哺乳類の子どもも、中型に相当する時期がありますが、成長が早く2~3数年で大人になります。
一方で、数十メートルに達する大型の肉食恐竜の子どもの場合、成長にかなりの時間を要し、中型種の限界である、体重1000キロを脱するには10年近くを要します。
これらの結果は、大型の肉食恐竜の若者たちが、本来の中型肉食種の位置を独占するのに十分な数が存在していたことを示唆します。
他の地域から侵入した中型種が生き残るためには、大型種の大人から逃げると同時に、彼らの若者とも獲物を巡る生存競争をしなければなりません。
しかも競争相手となる大型種の若者たちは日々成長し、ある時点を過ぎると侵入してきた中型種にとって致命的な捕食者に変貌します。
このような環境で中型の肉食種が生き延びるのはほぼ不可能といえます。
今回の研究でも、数少ない中型の肉食種が確認された地域では、大型肉食種がいないか、影響力が薄い地域に限られていたことも示されています。
しかし、肉食恐竜の体重分布といった基本的な情報分析が、大きな発見につながったのは驚きと言うべきです。
恐竜たちの生態には、まだまだ私たちが気付いていない面白い性質が潜んでいるのかもしれませんね。
参考文献
We Finally Know Why Dinosaurs Were Either Humongous or Tiny, Unlike Modern Animals
https://www.sciencealert.com/teenage-t-rex-edged-out-smaller-dinosaur-species-says-study
元論文
The influence of juvenile dinosaurs on community structure and diversity
https://science.sciencemag.org/content/371/6532/941
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部