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また、喫煙習慣、飲酒量、食生活、座っている時間、肥満度(BMI:Body Mass Index)、既往歴など、死亡リスクに関わる生活習慣や健康状態についても詳細に記録しました。
その後、2022年12月末まで追跡を行い、全米死亡インデックス(National Death Index)と照合して、全死亡および死因別の死亡リスクとの関連を分析しました。統計分析では年齢や性別、収入、生活習慣など多くの要因を調整し、「歩く速さ」と「死亡リスク」の関係をできるだけ正確に評価しました。
このように、今回の研究は単に「歩くことが健康に良いか」ではなく、「どのくらいの速さで歩けば効果があるのか」を、大規模に検証したのです。
研究チームが約17年間の追跡データを分析したところ、明確な結果が得られました。
まず、速歩きを日常に取り入れている人ほど、死亡リスクが低くなる傾向がはっきりと見られました。
特に注目すべきは、1日わずか15分の速歩きでも、完全調整モデルで全死亡リスクが約14%低下していたことです。
15分で効果が見られましたが、歩く時間が伸びるほど健康効果は高まることが確認されています。ただし、60分を超えると健康効果は頭打ちとなっていました。
心血管疾患による死亡リスクの低下は特に顕著で、全体では約20%減少していました。
一方で、遅歩きについては3時間以上歩いても死亡リスクの低下は約4%にとどまり、統計的には有意な効果とは言えませんでした。つまり「長く歩く」よりも「速く歩く」方が、健康への影響ははるかに大きいことが示されたのです。
さらに、この効果は他の運動習慣がある人にも当てはまりました。
スポーツやジム通いをしている人でも、日常生活に速歩きを加えると、さらに死亡リスクが下がっていました。逆に、速歩きの習慣がある人では、遅歩きの時間を増やしても追加の効果はほとんど見られませんでした。
なぜ速歩きがこれほど効果的なのでしょうか?
考えられる理由のひとつは、速歩きが有酸素運動として心臓や血管に適度な負荷を与えることです。これにより心臓のポンプ機能や血流が改善され、血圧や血糖値、血中脂質など、生活習慣病に関わる数値が整いやすくなります。また、速歩きは短時間でも心拍数を上げられるため、効率よく全身の代謝を高められるというメリットもあります。
この結果から、「とにかく歩けば健康になる」という考え方は、少し修正が必要であることがわかります。
体力や関節の状態によって速歩きが難しい人もいますが、その場合でもできる範囲で少しペースを上げることが、健康効果を高めるポイントになるでしょう。研究チームも、歩く速さを意識することが健康格差の解消につながり得ると指摘しています。
特別な器具や場所は必要なく、日常生活にすぐに取り入れられる速歩きは、誰でも実践できるシンプルで効果的な習慣です。
15分からでいいというのは無理のない運動をしたいという人には有益な情報になるかもしれません。また60分以上は効果が見られないという点からも、ウォーキングで無理をする必要はないと考えられます。
もちろん、これはあくまで統計調査の結果であり、具体的な歩行速度などもまだ調査されていません。この点は今後の研究課題となるでしょう。
とはいえ、この研究が教えてくれるのは「時間がなくても、短時間でしっかり効果を出す方法がある」ということです。
日々の通勤や買い物の途中、あるいは昼休みの散歩でも、呼吸が弾むくらいの速さを意識するだけで、十分な健康効果を得られる可能性があるのです。
参考文献
Fast walking for 15 minutes a day linked to lower death risk
https://www.news-medical.net/news/20250729/Fast-walking-for-15-minutes-a-day-linked-to-lower-death-risk.aspx
元論文
Daily Walking and Mortality in Racially and Socioeconomically Diverse U.S. Adults
https://doi.org/10.1016/j.amepre.2025.107738
ライター
相川 葵: 工学出身のライター。歴史やSF作品と絡めた科学の話が好き。イメージしやすい科学の解説をしていくことを目指す。
編集者
ナゾロジー 編集部