- 週間ランキング
新鉱物として認められるためには、「既知のどの鉱物とも違う」と証明する必要があります。
ポイントは、①化学組成(どんな元素がどんな割合で入っているか)と、②結晶構造(原子がどんな骨組みで並んでいるか)の両方です。
アマテラス石の理想的な化学式は、Sr₄Ti₆Si₄O₂₃(OH)Clという長々とした化学記号で表されます。
これは特定の金属元素(ストロンチウムやチタン)と酸素、ケイ素、水素、塩素が独特な割合で結びついたもので、これまで報告されたどの鉱物にも当てはまりません。
この事実は、沈み込み帯のヒスイの内部で、想定外の化学反応が起きている可能性を示しています。
文化財として親しまれてきたヒスイが、地球科学の発見の舞台にもなっている——それが今回の成果の魅力です。
では、結晶構造のどこが特別なのでしょうか。
アマテラス石は、ひとつの「単位胞(たんいほう)」の中に、性質の異なる2種類の構造要素を同時に持っていました。
単位胞とは、結晶をつくる最小の“ひと組のブロック”のことです。
たとえるなら、同じ家(単位胞)の中に間取りの違う二つの部屋が同居しているような状態です。
このような「二面性」を持つ構造は理論的には予測されていましたが、自然界の鉱物で実際に観察されたのは今回が初めてでした。
命名にも、この二面性が深く関わっています。
新鉱物は、日本神話に登場し、日本を象徴する存在である天照大神 にちなんで「アマテラス石」と名付けられました。
天照大神が持つ「荒魂(あらみたま)」と「和魂(にぎみたま)」という二つの側面は、結晶構造の二面性と響き合います。
文化と科学が同じ名前で結びつく——そんな物語性も、この鉱物を特別なものにしています。
参考文献
新鉱物・アマテラス石の発見―日本の国石「ヒスイ」から見つかった新種の鉱物―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-08-07
元論文
Amaterasuite, Sr4Ti6Si4O23(OH)Cl, a new mineral from jadeitite, a representative stone of Japan
https://doi.org/10.2465/jmps.250420
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部