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この「セレブとの一方通行なつながり」が心にどのような影響を及ぼすのかを調べるため、アメリカ南東部の大学に通う215人の学生を対象に行われたのが、今回の研究です。
参加者には、好きなセレブについてどの程度の憧れや関心を持っているかを測定する「セレブ態度尺度(Celebrity Attitude Scale)」に加え、ナルシシズム(自己愛)傾向や物質主義的価値観を評価する複数の心理尺度に回答してもらいました。
さらに注目されたのは、セレブと自分自身との「類似感」を問う項目です。
たとえば「性格が似ていると思う」「外見が似ていると思う」「ライフスタイルに共通点を感じる」といった質問を通じて、どれほど“自分ごと”としてセレブを見ているかが測られました。
その結果、セレブへの強い憧れを持つ人ほど、「脆弱なナルシシズム(vulnerable narcissism)」─つまり、感情の不安定さや自己像への過剰なこだわり、他者からの批判への過敏さなど─のスコアが高くなる傾向があることが判明したのです。
また、セレブとの類似感が強い人ほど、この傾向がさらに強まりやすいこともわかりました。
今回の研究で測定されたナルシシズムは、2つの異なるタイプに分けられています。
1つは「誇大的ナルシシズム(grandiose narcissism)」と呼ばれ、自信過剰や支配欲、他者への優越感が特徴です。
もう1つが先の「脆弱なナルシシズム」で、不安定な自己評価や感情の揺らぎが特徴です。
興味深いことに、セレブ崇拝と有意な関係が見られたのは、後者の「脆弱な」タイプでした。
つまり、誰かに認められたい、批判されることを恐れる、という繊細な内面を持つ人ほど、セレブに強く惹かれ、感情的に結びついているのです。
また、こうした人々は「自分はセレブに似ている」と感じている傾向が強く、それが憧れをより強固にし、結果として自己愛傾向や物質主義的な価値観を高める要因になっていると考えられています。
実際、セレブ崇拝と物質主義の間には強い関連が見られました。
憧れのセレブのような高級な持ち物やライフスタイルを追い求める傾向は、しばしば自己肯定感の補完手段として機能します。
さらに「誇大的ナルシシズム」を持つ人もまた、物質的な所有を通じて地位や名声を示そうとする傾向があることが示唆されました。
つまり、動機の違いこそあれど、自己愛傾向のある人々は、物質的なものやセレブとの関係性を通じて、自分自身の価値を支えようとしているのかもしれません。
そして、その中心には「私はあの人に似ている」という認知があるのです。
セレブへの憧れは、人間の自然な感情です。自分とは違う世界に生きる彼らに魅了され、夢を見ることは悪いことではありません。
しかし、「自分と似ている」と感じたとき、その夢はただの空想ではなく、自分自身の鏡として働き始めます。
今回の研究が示したように、その鏡は私たちの中の不安や欲求、そして承認への渇望を反映しているのかもしれません。
参考文献
New study links celebrity worship to narcissism, materialism, and perceived similarity
https://www.psypost.org/new-study-links-celebrity-worship-to-narcissism-materialism-and-perceived-similarity/
元論文
Celebrity Worship and Materialism: A Focus on Narcissism and Perceived Similarity With a Celebrity
https://doi.org/10.1002/ijop.70067
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部