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この行動は以前から推測されていたものの、実際に映像として記録されたのは今回が初めてです。
BBCの広報担当者も「この“実地訓練”行動の撮影は、歴史的な快挙です」とコメントしています。
シャチの群れは、平均6〜20頭ほどで構成され、通常はダイオウイカやキングサーモンなどを主食としていますが、ときにクジラを襲うことも知られています。
特に、群れの中に子どもがいる場合、大人たちは「狩りの技術」を実践を通して教える必要があるのです。
ナレーションを担当した英国の著名生物学者デイビッド・アッテンボロー氏は、映像の中で次のように語っています。
「これらのシャチたちは、地球上で最大の生物──シロナガスクジラを狩るために、完璧な連携と戦術を習得しなければならないのです」
では、なぜシャチたちはあえてシロナガスクジラのような危険な相手に挑むのでしょうか?
それは必ずしも食料のためとは限らないようです。
海洋生物学者ナンシー・ブラック氏によれば、シャチたちはクジラを「遊びの対象」として襲っている可能性が高いとのことです。
「彼ら、ネコがネズミをもてあそぶように、クジラと遊ぶのです」とブラック氏は語ります。
もちろん、巨大なシロナガスクジラにまともに挑めば命の危険もあります。
そのため、シャチたちが狙うのは病気の個体や、子どもを連れた母クジラであることが多いとされています。
特に子クジラはすぐに疲れ、群れから離れてしまうため、シャチたちにとっては格好の獲物となるのです。
つまり、シャチたちは「狩りの効率性」ではなく、「チャンスがあれば圧倒的な獲物にも挑む」という戦略的な冒険心と、社会的な遊び心を持ち合わせているということになります。
そのための訓練が、今回撮影された「溺れるフリの練習」なのかもしれません。
この映像が撮影されたブリーマー湾には、南半球で最大規模とされる約200頭のシャチが生息しており、知性と社会性に富んだ彼らの複雑な行動は、研究者にとっても多くの謎を残しています。
シャチたちは、私たちが思うよりはるかに戦略的で、社会的な動物です。
今回の「溺れるフリ」の訓練は、単なる本能ではなく、親から子へと受け継がれる“生きる技術”なのかもしれません。
参考文献
Watch a pod of orcas pretending to drown one of their own in macabre training session
https://www.livescience.com/animals/orcas/watch-a-pod-of-orcas-pretending-to-drown-one-of-their-own-in-macabre-training-session
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部