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まず、もとになったフィアット・パンダについて少し紹介しましょう。
フィアット・パンダは、1980年に初代モデルが登場して以来、世界中で販売された人気の小型車です。
名称は動物の「パンダ」にちなんでいます。
シンプルな設計と実用性を重視したこの車は、イタリアの著名な工業デザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロによってデザインされ、都市部でも田舎でも使いやすい“庶民の足”として広まりました。
オリジナルのフィアット・パンダの全幅は1460mmであり、もともとコンパクトでしたが、今回紹介する改造版はその1/3、たったの500mm(50cm)という驚異のスリムさ。
これは一般的な人間の肩幅くらいの寸法です。
外観は元のパンダの面影を強く残しつつも、全体がシャープにそぎ落とされたようなシルエットに。
幅があまりに細いため、後ろ姿はまるで船の船首のようなユニークな形状となっており、夜間走行用のヘッドライトは中央に1灯のみが搭載されています。
車内は完全に一人用。
座席は中央に1つだけ配置され、ドライバーは小さなステアリングホイールで操作を行います。
スピードは最大15km/hと非常に控えめですが、これは自転車とほぼ同等です。
電気自動車として改造されており、一充電あたりの航続距離は約25km。
通勤には向きませんが、ちょっとしたイベントや注目を集めるパレードには理想的な仕様でしょう。
特筆すべきは、この車が“芸術作品”のような存在であること。
自動車としてだけでなく、視覚的にも芸術性を感じさせるデザインで、展示会やフェアでの注目を集める“走るアート”として高く評価されています。
では、この「世界最狭」のフィアット・パンダは、どのように作られたのでしょうか。
この唯一無二のフィアット・パンダを作り上げたのは、30歳のアンドレア・マラッツィ氏。
彼はイタリア・ロンバルディア州のバニョーロ・クレマスコにある家族経営の自動車解体工場「Autodemolizione Marazzi」にて、ほぼ一人でこのプロジェクトに取り組みました。
制作に費やされた期間は12か月。
1993年型のフィアット・パンダのオリジナル部品の99%を再利用しながら、構造フレームから内装、電子系統に至るまで完全に手作業で再構築したのです。
元の天井やドア、4輪の配置などはそのままに、全体の幅を極限まで圧縮するという大胆なアイデアです。
とはいえ単に小さくするのではなく、機能性と視認性、安全性まで考慮された精密な造り込みがなされており、まさに”走るアート”と呼ぶにふさわしい仕上がりです。
前述したように、用途は主に展示イベントやメディア向けのパフォーマンスカーであり、現状では公道走行は認められていません。
それでもこの車が注目を集めている理由は、マラッツィ氏の卓越した職人技と、突き抜けた発想力にあります。
現在、彼とその小さなチームは、世界で最も狭い車としてギネス世界記録の公式認定を目指して準備を進めています。
もし認定されれば、この激細パンダは文字通り“世界一”の栄誉を手にすることになるでしょう。
この車両の存在は、単なるユニークさや奇抜さを超えて、「再利用の可能性」や「職人技の価値」といった重要なテーマも投げかけています。
解体された車の部品を創造的に再生するという視点は、持続可能な未来のモビリティに向けたヒントを与えてくれるかもしれません。
そして、どんなに入庫が苦手な人でも、このフィアット・パンダなら間違いなくスッと入りますね。
参考文献
world’s narrowest fiat panda drives around as fully functional, single-seater electric car
https://www.designboom.com/technology/worlds-narrowest-fiat-panda-drives-fully-functional-single-seater-electric-car-06-27-2025/
tutti_pazzi_per_marazzi
https://linktr.ee/tutti_pazzi_per_marazzi
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部