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観察はGoProカメラによって記録されており、頭を正面から近づけ合いながら、舌と舌を軽く触れ合わせたり、甘噛みのような動きをしたりする様子がはっきりと映っていました。
この行動は3回のフェーズに分かれていて、最初が10秒、次に26秒、最後に18秒ほど続きました。
その後、2頭は自然に離れて泳ぎ去ったといいます。
この珍しい行動は過去に飼育下のシャチでしか確認されておらず、野生での撮影は今回が世界初です。
しかも、同じような舌遊び行動は2013年にスペインのロロパーク水族館で、別の個体群によって記録されており、今回の記録と非常によく似ていたといいます。
実際のキス映像は次ページで。
シャチのキス行動は、実は1978年に初めて記録されたものの、長らく野生では確認されておらず、人工環境で生まれた「癖」や「退屈しのぎ」として扱われてきました。
しかし今回の発見によって、この行動が自然な社会的レパートリーの一部であると考えられています。
チームによれば、この舌の甘噛み行動は、攻撃性のない親密な交流として解釈されています。
とくに若いシャチ同士や雌同士で見られる傾向があり、群れ内の絆を深めたり、社会性や運動スキルを発達させたりする「遊び」の一環である可能性が高いといいます。
こちらは水族館内で観察されたキス行動の映像。
また、同様の行動はシロイルカでも観察されており、歯クジラ類全体に共通する社会的・発達的な戦略であるとする説も浮上しています。
興味深いのは、こうした「口と口の接触」が、子ども同士の遊びに近いニュアンスで行われることです。
これにより、緊張や対立を生まずに、仲間との関係性を育むことができると考えられています。
「キラーホエール(鯨殺し)」と呼ばれ、捕食者としてのイメージが強いシャチですが、その実態は想像以上に複雑で、社会的なつながりを大切にする知的な動物です。
今回の「舌を使ったキス」のような行動は、そんなシャチの知られざる一面を明らかにしてくれました。
しかもその発見のきっかけとなったのは、偶然のスノーケリングと市民の観察記録。
このことは一般の人々による自然観察が、科学においても非常に大きな価値を持つことを改めて示しています。
参考文献
Orcas Caught ‘Kissing’For Two Minutes With Tongue
https://www.sciencealert.com/orcas-caught-kissing-for-two-minutes-with-tongue
Affectionate ‘tongue nibbling’observed for the first time among orcas in the wild
https://phys.org/news/2025-07-affectionate-tongue-nibbling-orcas-wild.html
元論文
A Kiss from the Wild: Tongue Nibbling in Free-Ranging Killer Whales (Orcinus orca)
https://doi.org/10.3390/oceans6020037
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部