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そこで登場するのが、香港中文大学の研究チームが開発した「光触媒マイクロボット(CBMR)」です。
このマイクロボットは、ビスマス、酸素、ヨウ素の混合物と、銅の原子1個から作られた微小粒子で、1粒が「ほこり程度」の極小サイズです。
外部から磁気によって誘導でき、X線透視でリアルタイムに位置を追跡できます。
さらに、細い光ファイバーを通じて照射される可視光によって起動し、働き始めるのです。
つまり、このロボットは「磁石で鼻の奥の病巣に誘導され、可視光でスイッチが入る」という仕組みで、副鼻腔の奥深くまでアプローチできるようになっています。
では、実際にどのように副鼻腔炎を治療するのでしょうか。
このマイクロボットが実際にどのように副鼻腔炎を治療するのかを見てみましょう。
まず、可視光を照射されるとマイクロボットは熱を発し、周囲の膿の粘度を下げます。
これにより、通常はドロドロで浸透しにくい膿が液状化し、マイクロボットたちがバイオフィルムの内部まで入り込めるようになります。
これにより、マイクロボットの浸透力が照射前と比較して3倍以上に向上します。
次にマイクロボットは活性酸素種(ROS)を大量に生成。
バイオフィルムを構成する細菌の細胞膜を破壊し、膜自体を分解してしまいます。
この治療法は、ウサギの副鼻腔炎モデルで検証されました。
実験では、チューブを使ってマイクロボットをチ副鼻腔に送り込み、光を照射。
その結果、バイオフィルム内の細菌濃度が約90%から1%未満にまで減少しました。
さらに、炎症や繊維化(組織が線維成分に置き換わり硬くなること)が改善され、健康な粘膜組織が再生されていたことも確認されています。
気になる安全性ですが、20分間の光照射後でも健康な粘膜細胞の生存率は90%以上と非常に高く、細胞へのダメージは最小限に抑えられていました。
一部の細胞が死滅している事実もありますが、これは粘膜組織の自然な再生能力と比較して容認可能なレベルだと考えられます。
また抗生物質の全身投与や副鼻腔穿刺のような侵襲的処置と比較して、患部のみに作用し周辺組織への負担が少ないという利点もあるでしょう。
もちろん、この治療法は現時点でウサギによる動物実験での成果にとどまっており、人間への臨床応用には今後さらなる安全性や効果の検証が必要とされています。
研究チームは、このマイクロボット技術が副鼻腔炎にとどまらず、尿路感染症など、他の難治性感染症への応用も期待できると述べています。
「鼻の中にロボットを送り込む」なんてちょっと怖い話に思えますが、もしかするとそれが、これからの医療のスタンダードになっていくのかもしれません。
参考文献
Swarms of tiny ‘nose robots’clear out sinuses
https://newatlas.com/medical-devices/nose-robots-sinuses/
CUHK develops groundbreaking microrobot therapy to combat persistent sinus infections
https://www.cpr.cuhk.edu.hk/en/press/cuhk-develops-groundbreaking-microrobot-therapy-to-combat-persistent-sinus-infections/
元論文
Photocatalytic microrobots for treating bacterial infections deep within sinuses
https://doi.org/10.1126/scirobotics.adt0720
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部