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プレゼンティーズムは外から見えにくく、しばしば軽視されがちです。
それでも、その影響は確実に蓄積され、企業の生産性や業績に無視できない損失を与えていると指摘されています。
特に、COVID-19以降のテレワーク普及や生活リズムの変化により、新たな健康問題の出現も懸念されてきました。
こうした点を明らかにして改善するため、本研究では、2023年2~3月にかけて、全国の20〜69歳の就業者1万人を対象に、インターネット調査が実施されました。
性別や年齢など人口構成比を反映するよう調整された構成で、正規・非正規雇用者、フリーランスなど多様な就労形態を含んでいます。
調査票では、過去4週間に仕事に支障をきたした健康問題の有無や症状、影響の度合い(パフォーマンス低下)について11段階で自己評価する形式が取られました。
さらに年収データと合わせて、症状別の労働生産性損失額が試算されました。
調査の結果、全体の35.6%の労働者が、過去4週間に健康問題で仕事の質・量が低下したと回答しました。
最も多く挙げられたのは「腰痛(6.66%)」で、次いで「首・肩こり(4.79%)」、「メンタルヘルスの不調(2.85%)」が続きました。
これらの症状は年齢層によって偏りがあり、20代ではメンタルヘルスが最も多く、30代は首・肩こり、40代以降では腰痛が最多となりました。
テレワークの導入状況によっても傾向に差が見られ、「コロナ禍以降にテレワークを開始した層」では「眼精疲労」が上位に入り、働き方の変化が新たな健康負荷をもたらしていることが示唆されました。
また、性別による違いも明らかで、男性は腰痛と肩こり、女性は肩こりと頭痛が上位に挙げられました。
こうした健康問題による経済的な影響も極めて深刻です。
1,000人あたりの年間生産性損失額は、腰痛で約6,480万円、首・肩こりで約4,600万円、メンタルヘルス不調で約4,340万円と推計されました。
これらの数字は、「見えない損失」が企業経営に与える影響の大きさを物語っています。
もちろん今回の研究にも限界があります。
本研究はインターネット調査であることから、自己申告による過小・過大評価の可能性があります。
しかしながら、1万人という大規模かつ全国的な標本に基づいており、年齢・職種・勤務形態・テレワークの有無などを考慮した結果は高く評価できます。
これまで軽視されていた腰痛や肩こりといった身体的不調が、実は大きな経済的損失を生んでいたという事実は、予防策や介入施策の導入を後押しするエビデンスとなります。
企業は、従業員の健康を守ることを将来の生産性を高めるための投資だと考えるべきです。
私たち個人としても、「忙しいから」「治療費が高いから」と言って健康問題への対処を後回しにしているなら、結果としてより大きな損失を被ることになります。
効率性やパフォーマンスの観点で考えても、やっぱり「健康が第一」というスタンスは変わらないようです。
参考文献
【昭和医科大学】日本人労働者3人に1人が仕事に支障をきたす健康問題を抱えながら出勤 ― 最大要因である腰痛による生産性損失は、1,000人あたり年間約6,500万円との試算も
https://www.u-presscenter.jp/article/post-56633.html
元論文
Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era
https://doi.org/10.1097/JOM.0000000000003319
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部