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大阪大学の研究グループは、1958年から岡山県真庭市「神庭の滝」周辺に生息する「勝山ニホンザル集団」に対して、67年にわたり調査してきました。
サルの名前を覚え、名前を付けて、それぞれの行動を観察してきたのです。
そして1990年からは「サル同士の親しい関係」を調べることも行っています。
サルたちが毛づくろいしたり一緒に過ごしたりする相手を定量的に記録してきたのです。
この長期調査の過程で、死亡直前あるいは死亡直後の4頭のサルに対して、仲間のサルたちがどのように行動するかを詳細に記録することに成功しました。
これまで、母親ザルが死亡した子ザルを持ち運ぶことはよく知られていましたが、おとなの遺体に対してサルたちがどんな反応を示すかは情報がありませんでした。
今回の長期調査は、こうした点で新しい発見をもたらしています。
では、サルたちの間で仲間の死はどのように映ったのでしょうか。
研究チームが記録した4つの事例は、いずれも成体のニホンザルに関するものです。以下にその要点を紹介します。
1つ目のケースでは、2003年に死亡した28歳の最優位オス(群れで順位が最も高いオス)に対して、多くの個体は忌避反応を示しました。
しかし、このオスと最も親しかったメスと血縁者、オスが頻繁に世話をしていた2歳の子ザルだけが、遺体に接近する行動を見せました。
写真にあるとおり、この子ザルは生後6カ月の時から、死亡したオスに抱いてもらったり毛づくろいを受けたりしており、特別に親しい関係を築いていました。
そして他の多くのサルたちが離れていく中、この子ザルはオスの遺体から離れようとしなかったのです。
2つ目のケースは1993年の例です。
死亡直前だった28歳の最優位オスがウジに侵された際、群れのサルたちは接触を避けました。
しかし、日常的に日常的に毛づくろいを行っていた最優位メスだけは、下写真のように、そのオスに対して毛づくろいを行い、ウジをつまみ上げて食べました。
3つ目のケースは2007年のもので、傷を負ってウジがわいた28歳の老齢メスに対して、その娘たちは一度は毛づくろいを試みましたが、ウジを見た瞬間に逃げ出しました。
母への愛着とウジ虫への本能的嫌悪が交錯した、複雑な感情の表れといえるでしょう。
4つ目のケースは1999年の例です。
死亡した12歳のオスには外傷がなく腐敗も見られませんでした。
「毛づくろい仲間だったサル」の娘は、その遺体に気づき、2分間にわたって毛づくろいを行いました。
これらの事例から明らかになったのは、ニホンザルが腐敗やウジに対しては明確な忌避反応を示す一方で、親密だった仲間の死には特別な関わりを持とうとするということです。
こうした特徴は、まさに人間の死生観に近いものがあります。
中道名誉教授も、実際の場面を目撃して、「サルとヒトの近さを実感しました」と語っています。
また、この研究は「死に対する行動が、生前の社会的な絆によって左右される」ことを、非人間動物において示した画期的な成果でもあります。
親族や親しい仲間の死を前にしたとき、私たちもサルも、同じような感情を抱いているのかもしれません。
参考文献
サルも親しかった仲間の遺体に寄り添う
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2025/20250624_2
元論文
Responses to dying and dead adult companions in a free-ranging, provisioned group of Japanese macaques (Macaca fuscata)
https://doi.org/10.1098/rstb.2017.0257
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部