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今回の研究では、「人と接する仕事」が持つ独特のストレスが、糖尿病リスクにどう影響するかを検証しました。
このタイプの仕事には、医療、教育、福祉、接客業、運輸業などが含まれます。
患者や顧客、利用者、学生との継続的なコミュニケーションが必要であり、感情のコントロール、衝突への対応が求められるストレスのかかる職業です。
研究チームは、スウェーデンの「Work, Illness and Labour-market Participation(SWIP)コホート」から、2005年時点で30〜60歳だった就業者295万人(非糖尿病患者)を対象に調査を行いました。
そして2006年から2020年までの14年間にわたり、対象者が糖尿病を発症したかどうかを医療・薬剤・死亡の各種国の登録データから追跡しました。
職種ごとの「人との接触頻度」「感情的負担」「他者との対立の頻度」といった要素は、過去のスウェーデン職場環境調査(1997〜2013年)の回答をもとに作成した「職業曝露マトリクス(JEM)」を用いて評価しました。
また、職場での社会的支援(同僚や上司からのサポート)も同様に評価されました。
14年間の追跡の結果、追跡期間中に21万6,640人が2型糖尿病を発症し、そのうち約60%が男性だと分かりました。
そして統計分析により、人と接する仕事の3つの要素「人との接触」「感情的負担」「対立」のレベルが高い職業に就く人ほど、2型糖尿病のリスクが高いと分かりました。
具体的には次のとおりです。
まず、感情的負担が大きい仕事に就いていた男性は糖尿病リスクが20%増加、女性では24%増加します。
そこに、「顧客や患者との対立・衝突が多い」という要素が加わると、糖尿病リスクはさらに男性で15%増加、女性で20%増加していました。
特に女性で「感情的負担が大きく、職場の社会的支援が低い」場合には、そうでない女性にくらべて、糖尿病リスクが最大47%も高まることがわかりました。
なぜこのような結果になるのでしょうか?
研究チームは、糖尿病リスクの増加の鍵は「慢性的ストレス」に対する「生理的反応」にあると考えています。
人と接する職場では、しばしば「本音と建前」の間で感情をコントロールしなければならず、それが持続的なストレスとなって蓄積します。
このストレスは、神経内分泌系に影響を及ぼし、コルチゾールというストレスホルモンを過剰に分泌させます。
コルチゾールの増加は、インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)を引き起こし、さらには血糖値を上げる方向に働きます。
加えて、慢性的ストレスは炎症性サイトカインの活性化を通じて、インスリンの働きを阻害することも分かっています。
つまり、感情労働と対人ストレスの蓄積は、身体の代謝バランスを崩す要因となるのです。
研究者たちは今後、より詳細な生理学的メカニズムの解明や、労働環境の改善による予防策の開発が重要だと指摘しています。
人と接する仕事は社会にとって不可欠で、これからもなくなることはありません。
だからこそ、働く人々の健康を守る環境づくりがますます重要になってくるのです。
参考文献
Up to 47% higher risk of diabetes may stem from these demanding jobs
https://newatlas.com/diabetes/diabetes-conflict-communication-work/
The stress of working with people is linked with type 2 diabetes
https://www.scimex.org/newsfeed/the-stress-of-working-with-people-linked-to-type-2-diabetes
元論文
The stress of working with people is linked with type 2 diabetes
https://doi.org/10.1136/oemed-2025-110088
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部