- 週間ランキング
研究チームは今回、現生する3属のヨルトカゲ(Xantusia、Lepidophyma、Cricosaura)を対象に、DNA情報をもとにした進化系統の再構築を行いました。
その結果、驚くべきことに、現在生きているヨルトカゲの共通祖先は、白亜紀後期(約9000万年前)にはすでに北中米に存在していたことが明らかになったのです。
つまり、恐竜が絶滅したあの隕石衝突(約6600万年前)よりも前から、彼らはメキシコ周辺に生息していたというわけです。
そして研究者たちは、ヨルトカゲのうち2つの系統が、この地球規模の破局を生き延びていたことを発見しました。
ひとつの系統は、アメリカ南西部からメキシコにかけて分布するXantusia属と北中米に広がるLepidophyma属へと進化。
もう一方の系統は、キューバに生息する唯一の種「キューバヨルトカゲ(Cricosaura typica)」へと進化を遂げました。
この発見は、ヨルトカゲが隕石の衝突地点近傍で生き延び、いまなおその地域に固有種として存在している唯一の陸上脊椎動物であることを意味しています。
では、なぜ陸上脊椎動物の中でヨルトカゲだけが、この破局を乗り越えることができたのでしょうか?
チームは、その明確な理由をまだ断定はしていませんが、ひとつの有力な仮説を提示しています。
それはヨルトカゲの「超低燃費な体質」です。
彼らは非常に小型で、代謝がきわめて遅く、あまり頻繁に食事を必要としません。
さらに、岩の隙間や倒木の下など、限られた環境にひっそりと棲む隠密な習性をもっています。
隕石衝突後の地球は、広範な山火事、太陽光の遮断、気温低下、そして植物や昆虫の大絶滅による食料不足が続いたと考えられています。
そんな極限状態においても、エネルギー消費を最小限に抑えて生きられるヨルトカゲの生態は、大きなアドバンテージになったと考えられます。
実際、研究者も「彼らは衝突地点の周縁部に広く分布していたはずです。たまたま生き延びたのではなく、生き延びやすい性質を持っていた可能性が高い」と語っています。
かつては同じように生き延びた可能性のあるカメや他のトカゲも存在したかもしれませんが、それらはすでに絶滅してしまいました。
ヨルトカゲだけが、その後も今日に至るまで北中米という土地にとどまり、生き残り続けてきたのです。
「絶滅を免れた動物」は他にも多く存在しましたが、「滅びの地にとどまり続けた動物」は、ヨルトカゲだけかもしれません。
時に、最も静かで目立たぬ存在こそが、最も壮大な物語を語るのです。
参考文献
Tiny night lizards survived dinosaur-killing asteroid strike, despite being close enough to see it happen
https://www.livescience.com/animals/lizards/tiny-night-lizards-survived-dinosaur-killing-asteroid-strike-despite-being-close-enough-to-see-it-happen
元論文
Night lizards survived the Cretaceous–Palaeogene mass extinction near the asteroid impact
https://doi.org/10.1098/rsbl.2025.0157
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部