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さらに驚くべきは、彼らの目が体のサイズに対して異常に大きく、光を感じ取る網膜の受容体(フォトレセプター)の数が非常に多いという点です。
これにより、視界の細部までくっきりと捉えることができるのです。
空から地上の小動物を見つけるこの“超望遠視力”は、精密視力の王者と呼ぶにふさわしい能力です。
視力の「精密さ」ではなく「色の豊かさ」で世界を見ているのが、海に生息する甲殻類・シャコです。
シャコの目は、まるでSF映画に出てくる宇宙人のような構造をしており、その機能も人間の想像を超えています。
私たち人間の目には、赤・緑・青の3種類の色覚受容体しかありませんが、シャコはなんと12種類もの色覚受容体を持っています。
その中には紫外線を感知するものも含まれており、私たちが決して見ることのできない“隠された色の世界”を日常的に見ていると考えられています。
また、シャコは「偏光」と呼ばれる特殊な光の性質も見分けることができます。
偏光とは、光が特定の方向に振動している状態で、人間にはほとんど知覚できません。しかしシャコにとっては、それが視界の一部として認識されているのです。
米クイーンズランド大学の研究者ジャスティン・マーシャル氏によれば、シャコの脳はこれらの膨大な視覚情報を、私たちとはまったく異なる方法で処理している可能性があるといいます。
つまり、シャコは単に「色がたくさん見える」のではなく、「色のパターン」を読み取っているのです。
色覚の多様性と視覚世界の深さにおいて、シャコは間違いなく色彩視力のチャンピオンです。
人間の目では見落としてしまう一瞬の動き――それを完璧に捉えるのが、昆虫たちの目のすごさです。
私たちの視覚は、1秒間に約60フレームの情報を処理できるといわれています。
しかしハエやハチなどの昆虫は、なんと1秒間に数百フレームもの視覚情報を処理できるのです。
この“超高速視力”により、ハエにとっては私たちの動きがスローモーションのように見えるのです。
だからこそ、新聞紙で叩こうとしても、ハエはその前にするりと簡単に逃げることができるのです。
これは彼らの身体が小さく、視神経と脳との距離が短いため、電気信号の伝達速度が非常に速いことに由来します。
また、蛍光灯のような人間には連続光に見える光源も、昆虫にとっては点滅しているように見えるとされ、映画館に迷い込んだハエにとっては“超高速スライドショー”のような映像に見えているかもしれません。
動体視力のスピードにおいては、昆虫の右に出るものはいません。
もちろん、これらの驚異的な視覚能力にも代償があります。
たとえば、シャコや昆虫のように複眼を持つ動物は、一つ一つの視覚ユニットが小さいため、視界の解像度は人間より劣ります。
シャープな画像ではなく、ピクセルの粗いモザイクのような視界を見ていると考えられています。
その点、人間の目は精密さ、色覚、動体視力のバランスが取れており、「視覚の万能型」とも言えるかもしれません。
「シャコのような目は面白いかもしれませんが、脳がエンドウ豆くらい小さくなってしまいますから」と研究者は冗談めかして語ります。
世界の動物たちは、それぞれの生態に合わせて“必要な視力”を進化させてきました。
そして、その多様性こそが、自然界の神秘の一つなのです。
参考文献
What animal has the best eyesight?
https://www.livescience.com/animals/what-animal-has-the-best-eyesight
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部