- 週間ランキング
深海では、わずかに差し込む太陽光や、生物発光による光しか存在しません。
そのわずかな光を効率的に捉えるため、デメニギスは常に“上を見て”暮らしています。
そして、その目を守るための構造が、あの液体で満たされた透明ドームです。
このドームはただの外皮ではありません。
刺胞動物(クラゲやイソギンチャクなど)の毒針から眼球を保護しながら、同時にレンズのように光を屈折・集光させる役割も果たしていると考えられています。
つまり、透明なドームは「防御」と「視覚強化」という2つの重要な機能を兼ね備えているのです。
さらに2009年の観察では、眼球を上だけでなく前方にも動かせることが確認されました。
これはクラゲに寄生している小型の獲物を狙う際に、角度を変えて追跡する能力を意味します。
動かないように見えて、その視線は実にアクティブなのです。
このように、デメニギスのスケルトンのような頭部は、単なる“奇妙なデザイン”ではなく、深海という極限環境に適応するための洗練された機能の集合体なのです。
深海で生きる生物たちは、進化の“常識”を裏切る存在ばかりです。
その中でも、デメニギスは透明な頭部という異例の戦略を選び、生き抜いてきました。
私たちの目に「奇妙」に映るものこそ、実は自然界において最も合理的で、最も美しい解答なのかもしれません。
スケルトンの頭を持つこの小さな魚は、今日も光なき深海で、静かにそしてしたたかに生き続けています。
参考文献
This Fish Has a Weird See-Through Head With Its Eyes On The Inside. Here’s Why.
https://www.sciencealert.com/this-fish-has-a-weird-see-through-head-with-its-eyes-on-the-inside-heres-why
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部