「最近、なんだか疲れてやる気が出ない」

そんなバーンアウト(燃え尽き症候群)の原因は、じつは仕事のストレスではないのかもしれません。

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の最新研究によると、燃え尽き症候群の症状を訴える人の7割以上が「仕事が原因ではない」と考えていることが明らかになったのです。

職場ストレスと燃え尽きの関係はこれまで強調されてきましたが、実際には家庭の問題や健康不安、性格的な要因など、「職場の外側」にこそ注目すべきストレス源が潜んでいるようです。

研究の詳細は2024年12月の学術誌『Journal of Psychosomatic Research』に掲載されています。

目次

  • 職場ストレスが原因とは限らない?定説への疑問
  • 心の疲れを生む「仕事以外のストレス」とは?

職場ストレスが原因とは限らない?定説への疑問

Credit: canva

「燃え尽き症候群」と聞けば、多くの人が原因として思い浮かべるのは、長時間労働や過度な業務、理不尽な上司や人間関係といった職場のストレスです。

実際、世界保健機関(WHO)もバーンアウトを「適切に対処されない慢性的な職場ストレスによって生じる症状」と定義しています。

しかし今回、ノルウェー科学技術大学を中心とした研究チームが、ノルウェー国内の労働者813人を対象に実施した調査では、バーンアウトの自覚症状がある人のうち、「仕事が主な原因」と考えていたのはわずか27.7%だったのです。

しかもこれは一時的な現象ではなく、スイスやアメリカでも似たような傾向が報告されており、「仕事が主因ではないバーンアウト」が世界的に見られる現象であることがわかってきました。

研究では、バーンアウトと並行して「心理的苦痛」や「疲弊感」の症状も調査されましたが、これらも原因を仕事に求める人は3割未満にとどまっており、多くの人は“なんとなく辛い”状態の原因を、職場以外に感じているようです。

心の疲れを生む「仕事以外のストレス」とは?

では、燃え尽き症候群の真の原因はどこにあるのでしょうか?

研究チームを率いた心理学者レンゾ・ビアンキ氏は、「バーンアウトの背後には、家庭や個人的な生活にまつわるストレスが多く関与している」と指摘しています。

たとえば──

・パートナーや家族とのトラブル

・子育ての悩み

・健康上の問題や慢性的な体調不良

・将来への不安や経済的なプレッシャー

これらの「仕事とは無関係な問題」が、じわじわと人の心を疲弊させ、「職場で燃え尽きた」と感じさせてしまうのです。

実際に調査でも、回答者の70%以上が「燃え尽き症候群の原因は私生活のストレスにある」と答えていました。

Credit: canva

さらに、性格の影響も無視できません。

とくに「不安傾向が強い人」は、仕事以外の出来事にも過剰にエネルギーを消耗し、結果として「すべてが重たく感じられる」状態に陥りやすい傾向があるとされています。

ビアンキ氏は「バーンアウトを“職場問題”と決めつけてしまうと、本来必要な支援や対処が見落とされてしまう恐れがある」と警鐘を鳴らしています。

職場環境の改善はもちろん重要ですが、それだけでは不十分です。

個々の生活状況や性格特性も視野に入れた、より個別化された支援が求められる時代に来ていると考えられます。

職場がストレスの温床である場合も確かにありますが、すべての疲れを職場のせいにしてしまうのは、見当違いの対処につながる危険性があります。

もしかすると、心の活力をすり減らしている本当の原因は、日常のなかに潜んでいるのかもしれません。

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参考文献

Burnout is often caused by factors entirely unrelated to work
https://norwegianscitechnews.com/2025/06/burnout-is-often-caused-by-factors-entirely-unrelated-to-work/

元論文

Most people do not attribute their burnout symptoms to work
https://doi.org/10.1016/j.jpsychores.2024.111962

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 燃え尽き症候群の原因、7割以上が「職場以外でのストレス」だった