睡眠不足は現代人の間に蔓延する悪き生活習慣です。

夜遅くまでSNSをチャックしたり、YouTubeを見たり、サブスクのドラマを観たりすることが多々あるでしょう。

そんな寝不足の翌日、なぜか健康的でヘルシーな食事よりも、高カロリーなスナック菓子やジャンクフードが食べたくなることはありませんか?

これは近年の神経科学研究で明らかになっている現象です。

専門家によると、たった一晩の睡眠不足でも、脳と体の間にある「空腹と報酬」のバランスが大きく崩れてしまい、ジャンクフードのような高カロリー食が魅力的に見えるといいます。

では、寝不足でジャンクフードが食べたくなるメカニズムを見てみましょう。

目次

  • 寝不足の脳がジャンクフードを欲する理由は?
  • ダイエットの失敗も招いてしまう

寝不足の脳がジャンクフードを欲する理由は?

私たちの体は、「空腹ホルモン」と呼ばれる2つのホルモンを使って、食欲を調節しています。

ひとつは胃で作られる「グレリン」で、これは「お腹が空いた」という信号を出します。

もうひとつは脂肪細胞で作られる「レプチン」で、「もう満腹だ」と脳に伝える役割を果たしています。

ところがたった一晩の睡眠不足でも、グレリンの分泌が増え、レプチンの分泌が減ることが分かっているのです。

つまり、たった一回の寝不足でも、「お腹が空いた」と感じやすくなり、しかも「もう満腹だ」と思いにくくなるのです。

Credit: canva

さらに悪いことに、睡眠不足はストレスホルモンの一種である「コルチゾール」の分泌も促進します。

コルチゾールはストレスに対処するために体がエネルギーを欲するように仕向けるため、自然と高カロリーな食品への欲求が強まるのです。

これに加えて、脳の中でも大きな変化が起こります。

前頭前皮質という、理性的な判断や抑制をつかさどる部分の活動が低下する一方で、誘惑に反応する扁桃体や「快楽中枢」として知られる側坐核(そくざかく)が過敏に働くようになるのです。

その結果、チョコレートやフライドポテトのような「高カロリーで手軽に手に入る食べ物」に対して、脳は過剰に反応します。

「今日はちょっとだけ」と言い訳しながら、つい手を伸ばしてしまうのは、この脳の異常な働きが原因なのです。

実際に、実験室で行われた研究では、一晩に4〜5時間しか眠っていない被験者は、ジャンクフードを「魅力的」と感じやすく、実際にそれを選ぶ確率も高いことが報告されています。

つまり、寝不足の状態では「脳がご褒美モードに切り替わってしまい」、その誘惑を理性で抑える力が弱まってしまうというわけです。

ダイエットの失敗も招いてしまう

こうした変化は、単に「ジャンクなものを食べたくなる」だけでは終わりません。

睡眠不足は、体の代謝にも深刻な影響を与えます。

睡眠が十分なとき、私たちの体は「インスリン」というホルモンを使って、血液中の糖分を細胞に取り込むことでエネルギーに変えています。

ところが、寝不足になると、このインスリンの働きが大きく低下し、血糖値が下がりにくくなります。

この状態が続くと、余った糖は脂肪として蓄積されやすくなり、特にお腹まわりに脂肪がつきやすくなるのです。

また、先述したコルチゾールの増加も、脂肪の蓄積を加速させます。

コルチゾールはとくに「内臓脂肪」をためこむ性質があるため、メタボリックシンドロームや2型糖尿病のリスクが上がってしまいます。

しかし、こうしたネガティブなサイクルにはブレーキをかける方法もあります。

それが「睡眠そのもの」です。

睡眠は体の修復を担うだけでなく、ホルモンバランスの調整や、代謝の再起動を行う時間でもあります。

つまり、睡眠は単なる休息ではなく、体と脳の「リセットボタン」なのです。

たとえ数日間でも、連続して質の高い睡眠をとることで、乱れたホルモンバランスや代謝機能は元の状態に戻りはじめます。

食欲も落ち着き、無性にジャンクフードを求める衝動もおさまってくるのです。

Credit: canva

夜ふかしした翌日に、甘いものや脂っこいものが食べたくなるのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。

それは体と脳が「睡眠不足というストレス」に反応している自然な現象です。

「ダイエットの失敗」は、意志や根性だけで語れるものではありません。

むしろ、日々の睡眠こそが食欲と健康をコントロールする鍵を握っているのです。

健康な食生活やダイエット成功の鍵を握るのは、質のよい睡眠をとること。

睡眠は現代人に最も必要な時間と言えるでしょう。

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参考文献

Just One Night of Poor Sleep Can Change How Your Brain Sees Food
https://www.sciencealert.com/just-one-night-of-poor-sleep-can-change-how-your-brain-sees-food

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

情報提供元: ナゾロジー
記事名:「 たった1日の寝不足で、脳は「ある物」が無性に食べたくなる