- 週間ランキング
さらに悪いことに、睡眠不足はストレスホルモンの一種である「コルチゾール」の分泌も促進します。
コルチゾールはストレスに対処するために体がエネルギーを欲するように仕向けるため、自然と高カロリーな食品への欲求が強まるのです。
これに加えて、脳の中でも大きな変化が起こります。
前頭前皮質という、理性的な判断や抑制をつかさどる部分の活動が低下する一方で、誘惑に反応する扁桃体や「快楽中枢」として知られる側坐核(そくざかく)が過敏に働くようになるのです。
その結果、チョコレートやフライドポテトのような「高カロリーで手軽に手に入る食べ物」に対して、脳は過剰に反応します。
「今日はちょっとだけ」と言い訳しながら、つい手を伸ばしてしまうのは、この脳の異常な働きが原因なのです。
実際に、実験室で行われた研究では、一晩に4〜5時間しか眠っていない被験者は、ジャンクフードを「魅力的」と感じやすく、実際にそれを選ぶ確率も高いことが報告されています。
つまり、寝不足の状態では「脳がご褒美モードに切り替わってしまい」、その誘惑を理性で抑える力が弱まってしまうというわけです。
こうした変化は、単に「ジャンクなものを食べたくなる」だけでは終わりません。
睡眠不足は、体の代謝にも深刻な影響を与えます。
睡眠が十分なとき、私たちの体は「インスリン」というホルモンを使って、血液中の糖分を細胞に取り込むことでエネルギーに変えています。
ところが、寝不足になると、このインスリンの働きが大きく低下し、血糖値が下がりにくくなります。
この状態が続くと、余った糖は脂肪として蓄積されやすくなり、特にお腹まわりに脂肪がつきやすくなるのです。
また、先述したコルチゾールの増加も、脂肪の蓄積を加速させます。
コルチゾールはとくに「内臓脂肪」をためこむ性質があるため、メタボリックシンドロームや2型糖尿病のリスクが上がってしまいます。
しかし、こうしたネガティブなサイクルにはブレーキをかける方法もあります。
それが「睡眠そのもの」です。
睡眠は体の修復を担うだけでなく、ホルモンバランスの調整や、代謝の再起動を行う時間でもあります。
つまり、睡眠は単なる休息ではなく、体と脳の「リセットボタン」なのです。
たとえ数日間でも、連続して質の高い睡眠をとることで、乱れたホルモンバランスや代謝機能は元の状態に戻りはじめます。
食欲も落ち着き、無性にジャンクフードを求める衝動もおさまってくるのです。
夜ふかしした翌日に、甘いものや脂っこいものが食べたくなるのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。
それは体と脳が「睡眠不足というストレス」に反応している自然な現象です。
「ダイエットの失敗」は、意志や根性だけで語れるものではありません。
むしろ、日々の睡眠こそが食欲と健康をコントロールする鍵を握っているのです。
健康な食生活やダイエット成功の鍵を握るのは、質のよい睡眠をとること。
睡眠は現代人に最も必要な時間と言えるでしょう。
参考文献
Just One Night of Poor Sleep Can Change How Your Brain Sees Food
https://www.sciencealert.com/just-one-night-of-poor-sleep-can-change-how-your-brain-sees-food
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部