- 週間ランキング
私たちは日々、仕事や人間関係、社会的プレッシャーなど、目に見えないストレスを抱えながら生きています。
そんな現代において、「創作」という行為が心に与える影響が、心理学的にも再評価されています。
創作活動とは、自分の内側から何かを表現し、形にする行為すべてを指します。
必ずしも芸術作品のように完成度が高い必要はありません。
たとえば、絵を描くことや写真を撮ること、編み物や刺繍を楽しむことも創作です。
また、詩や日記を書くこと、歌詞やメロディーを考えること、ダンスや演劇で身体を使って表現することも含まれます。
さらに、料理を工夫したり、ガーデニングで空間を演出したりすることも立派な創作活動です。
これらはすべて、自分なりの創造力を使った表現です。
創作に取り組むと、人はしばしば「フロー状態(没頭状態)」に入ります。
これまでの研究によると、これは時間の感覚を忘れるほど集中した状態であり、自己意識や不安感が薄れ、深い満足感が得られるとされています。
また、創作にはストレスや不安の軽減、自己肯定感と自信の向上、感情の整理と自己理解の促進といった心理的効果があります。
過去のメタ分析によれば、創作はウェルビーイング(幸福感、満足度)の向上に統計的に有意な効果を持つことが明らかにされています。
こうしたメリットを考えると、誰もが創作活動に取り組むべきだと分かります。
それでもなお、多くの人は創作に対して尻込みしてしまうものです。
「自分は才能がない」「何を作っても意味がない」と感じてしまう人も少なくないでしょう。
特に現代社会では、成果や生産性が強く求められるため、創作のような非効率な行動は軽視されがちです。
また、「時間がない」「創作する余裕がない」といった日常的な理由も、創作を後回しにする大きな要因です。
では、忙しい現代人が日常生活に創作を取り入れるためには、どんなことを意識できるでしょうか。
マッコイ氏は、創作を日常に取り入れるための実践的なアドバイスを4つ紹介しています。
これらは心理療法の知見に基づき、多くの人に応用可能な方法です。
まず1つ目は「創作に許可を出す」ことです。
「下手でもいい」「意味がなくてもいい」と自分に言ってあげることが、創作の第一歩になります。
多くの人は、始める前に「こんなもの作っても誰も評価してくれない」と自分を止めてしまいます。
でも創作は、他人のためにではなく、自分のために行うものです。
自由に、目的なく、ただ手を動かすこと自体に癒しの力があります。
次に、「恐怖と仲良くなる」ことが大切です。
「失敗したくない」「誰かに笑われるのが怖い」という感情は自然なものです。
創作には、自己開示という側面があるため、不安を伴うのは当然です。
それでも、マッコイ氏は「恐怖を否定せずに隣に座らせる」ことを提案しています。
子どもが一生懸命に描いた絵を笑う大人はいませんよね。
自分自身にも、同じ優しさを向けていいのです。
3つ目のポイントは、「習慣にする」ことです。
創作は「時間があるときにやろう」ではなく、「あえて時間を作ってやる」ものです。
たとえば、1日20分だけ、週に数回でも創作タイムをスケジューリングしましょう。
これを予定表に書き込むだけで、心理的な優先順位が上がり、行動につながりやすくなります。
習慣化することで、創作への抵抗感がぐっと下がります。
最後に、「好奇心を追う」ことが創作の鍵になります。
創作のタネは、日常の中のちょっとした「気になる」に隠れています。
たとえば、ふと目に留まった色や形、耳に残ったフレーズやリズム、なぜか気になる物語の断片などです。
こうした感覚に素直に従ってみることが、創作の扉を開くきっかけになります。
創作とは、完成されたアイデアを持って始めるものではなく、手を動かしながら育てていくものなのです。
ここまで考えてきたように、創作は、プロのためだけの活動ではありません。
それは、心を整え、自分を知り、生活に彩りを与える日常の営みです。
「何かを生み出す」という体験は、誰にでも開かれており、あなたの中に眠る創造性を呼び覚ましてくれます。
たとえそれが、誰にも見せない落書きであっても、それはあなたの内面と世界をつなぐ大切な証です。
今こそ、ほんの少しだけ“創る時間”を自分に許してみませんか?
参考文献
Creativity Is Not a Luxury
https://www.psychologytoday.com/us/blog/finding-the-right-words/202506/creativity-is-not-a-luxury
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部