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まず1つ目は、飲酒が免疫機能の働きを妨害してしまうことです。
アルコールは、免疫細胞が傷ついた組織に集まって修復を行うプロセスを妨げます。
これにより、筋肉や靭帯、腱の再生が遅くなり、損傷した細胞の除去や腫れの収束も遅延するのです。
特に大量飲酒(1度に4〜5杯以上)は免疫の働きを3〜5日間低下させるとされており、感染のリスクも高まります。
中程度の飲酒(1〜3杯)であっても、患部の腫れや痛みが長引くことが明らかになっています。
これまでの研究で、筋肉を修復・構築するために不可欠な「筋タンパク質合成」は、アルコール摂取後24〜48時間にわたり抑制されることがわかっています。
ある研究では、この合成能力が飲酒によって24〜37%低下することが確認されました。
このプロセスが遅れると、筋肉の弱さや痛みがなかなか解消されず、再受傷のリスクも高くなるのです。
ケガをした部位では普通、自然治癒を促すためのシグナルが体内で発せられます。
ところがアルコールを摂取すると、このシグナル伝達が妨げられるのです。
結果として、ケガの回復が遅れ、損傷部位に過剰な腫れや瘢痕(きずあと)が残りやすくなります。
たとえば骨折の場合、回復に通常より1〜2週間長くかかることもあり、捻挫や筋肉損傷の回復も2〜3週間遅れることがあります。
私たちの体では、テストステロンや成長ホルモンといったホルモンが筋肉や組織の修復を指揮しています。
しかし、アルコールはこれらのホルモンの分泌を減少させ、回復力そのものを下げてしまいます。
さらに過度のアルコール摂取はストレスホルモンとして知られる「コルチゾール」を増加させ、体に「今は危機的状況だ」という誤信号を送ります。
その結果、エネルギーをケガの回復に使わず、緊急事態に備えるモードへと切り替えてしまうのです。
この影響は数日間続き、筋肉の分解を促進し、結果的に回復をさらに遠ざけてしまいます。
お酒を飲むと、体のバランス感覚や反応速度が低下します。
脳と身体の情報伝達がスムーズにいかなくなるため、ちょっとした段差や動きのズレが大きなダメージにつながります。
たとえ中程度の飲酒であっても、動作の微細な誤差は2日間ほど残るとされ、回復途上の身体には致命的となりうるのです。
科学的な視点から見ると、ケガをしている最中に「安全な飲酒量」は存在しません。
少量であっても、回復に関わる多くのプロセスに影響を与えることがわかっています。
特に「バースト飲酒」と呼ばれる飲酒スタイル(しばらく禁酒した後、一度に4〜5杯を飲む)は短期的に大きなダメージを与え、「少しずつ頻繁に飲む」スタイルは見えにくいながらも継続的に悪影響を及ぼします。
ケガの回復は、一刻も早く日常生活に戻るための大切なプロセスです。
リハビリの質を高め、完全に治すためには、休養や運動だけでなく、「飲まない選択」も重要な要素になります。
「少なければ問題ない」「一杯だけなら…」という思い込みが、治癒の足を引っ張るかもしれません。
参考文献
Expert Reveals 5 Important Reasons to Avoid Alcohol When Injured
https://www.sciencealert.com/expert-reveals-5-important-reasons-to-avoid-alcohol-when-injured
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部