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しかし、多くの動画作成者は栄養や健康に関する専門知識を持っておらず、その内容は科学的な根拠に乏しい場合が少なくありません。
動画によっては危険な食行動を助長する可能性すらあるのです。
例えば、「食事を極端に減らす(低カロリー)」「食事の一部またはすべてをスキップする」「特定の栄養素(糖質や脂質)を極端に制限する」「下剤などの使用を暗示または示唆する」といった描写が含まれていることもあります。
さらに問題なのは、それらの動画が特定の美的基準(痩せている、引き締まっている)を暗黙のうちに“正解”として提示している点です。
多くの動画には美容フィルターが使われ、カメラワークで身体のラインが強調されています。
「この食事をすれば、あなたもこんな身体になれる」という誤ったメッセージが刷り込まれる構造になっているのです。
ですが、こうした前提そのものが誤りです。
人の健康的な栄養状態や体型とは、遺伝や体質、生活環境、年齢、活動量、慢性疾患の有無や服薬状況など医療的背景など、多くの要素で決まるからです。
つまり、「あの人の真似をすれば、私も同じようになれる」は幻想なのです。
むしろ、それに固執することで健康を損ねることすらあり得ます。
では実際に、「私の1日の食事」系の動画は、それを視聴する私たちにどんな影響を及ぼすのでしょうか。5つの影響を考えてみましょう。
「私の1日の食事」系の動画は、それを視聴する私たちのメンタルヘルスに、以下の5つの危険な影響を及ぼすかもしれません。
動画を繰り返し見るうちに、「もっと食事を減らさないと」「この食べ方じゃダメだ」と感じ、食事のスキップや過食・嘔吐といった異常行動を始めてしまうケースがあります。
これは、摂食障害のリスクとなる不適切な食行動(食事制限や過食・排出行動)にあたり、放置すると深刻な精神疾患へと移行する可能性があります。
他人と自分を比較することで、自分の身体や食生活への不満が強まり、「自分はダメだ」と感じるようになります。
特に、低カロリーな食事を“正しいこと”と刷り込まれることで、普通の食事すら“悪”に感じてしまう危険性があります。
「私の1日の食事」動画を見た後、自分の体を醜く感じたり、価値がないと思ってしまう人が多いと報告されています。
2024年の南カリフォルニア大学(USC)の研究でも、そのことが扱われています。
自分の気持ちを気持ち悪いと感じ、自分の体を大切にしたり、感謝したりする気持ちが薄れる傾向があるのです。
動画の影響で「完璧な食事」や「正しい食べ方」を求めすぎてしまうと、食事が恐怖や不安の対象になります。
また、炭水化物・脂質・タンパク質といった栄養の構成要素を過度に分析する癖がつくと、日常の楽しみであるはずの食事が義務やストレスに変わってしまう可能性があります。
SNSが“食”と“見た目”で埋め尽くされることで、人生の価値観や関心ごとが極端に偏ってしまうことがあります。
これは自己評価や幸福感の低下を招き、結果的に全体のQOL(生活の質)を下げることに繋がります。
「私の1日の食事」系の動画は、たとえそれが一時的な食生活の改善の意欲を与えてくれるとしても,それがあなたの身体や心に本当に合っているとは限りません。
それでもしも、これらの動画を見たあとに「なんとなく自分が嫌いになった」「今日の食事を後悔した」と感じたなら、次のことを考えましょう。
「この動画は私のために作られたものではない」
「SNSの演出は現実とは違う」
また、「不安になる動画やアカウントはフォローを外す」「食や身体以外の趣味や関心を意識的に取り入れる」などの実際的な行動も、こころを守る一助となるでしょう。
すでに摂食障害の兆候がある、あるいは誰かの様子が気になるという場合は、心療内科や精神科医への相談をおすすめします。
「何を食べるか」「どう生きるか」といった選択の結果は自分自身が受け取るものです。
だからこそ、”動画に出てくる「他人」”ではなく“あなたにとっての健康”を大切にしていきましょう。
参考文献
Those ‘what I eat in a day’ TikTok videos aren’t helpful. They might even be harmful
https://theconversation.com/those-what-i-eat-in-a-day-tiktok-videos-arent-helpful-they-might-even-be-harmful-257127
ライター
矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。
編集者
ナゾロジー 編集部